信用と裏切り
俺は目の前に立つ警察官に必死に問いかけた。
「あ、あの! 睦月は!? あの女の子は無事なんですか!?」
警察官は少し目を伏せ、重い口を開いた。
「あの子は今、精神科の病棟にいる」
その言葉の意味が分からなかった。
「精神科の病棟……?」
説明を聞いた瞬間、全身から血の気が引いていく。
「睦月が……?」
信じられなかった。
吐き気が込み上げ、俺は慌てて袋を掴む。
「うっ……!」
何度も吐いた。
息が苦しい。
頭が真っ白になる。
それから数分後、病室に睦月の両親と俺の両親がやって来た。
「母さん……父さん……」
そう声を掛けた瞬間だった。
バシンッ!!
親父の拳が飛んできた。
「ぐっ!」
「何でお前はそんな事をする!! 馬鹿息子が!!」
悲しそうな目をしたまま、もう一度殴られる。
「痛い! やめて! 父さん、何で殴るんだよ! 俺はただ睦月を――」
言い終わる前に、今度は睦月の父親に胸ぐらを掴まれ、壁へ押し付けられた。
「っ!!」
頭を強く打つ。
睦月の父親は涙を浮かべながら叫んだ。
「お前のせいで俺達の睦月が汚されたんだぞ!!」
「お前が誰かに相談していれば、こんな事にはならなかっただろ!?」
「返してくれよ……俺達の睦月を……頼むから……」
その言葉を聞いた瞬間、俺はようやく理解した。
自分がどれほど取り返しのつかない事をしてしまったのか。
「ごめんなさい……」
「ごめんなさい……」
何度も謝る事しかできなかった。
睦月の父親は力なく呟く。
「もう……遅いんだよ……」
そう言い残して病室を後にした。
翌日。
俺は睦月のいる病棟へ向かった。
会えばきっと話せる。
そう思っていた。
だけど――。
睦月は俺の顔を見るなり怯えた表情を浮かべた。
「夏君……」
その声には恐怖が混じっていた。
「私を守ってくれるって約束したよね?」
「ねえ、何で!?」
「嘘つき!!」
睦月は叫びながら近くにあった物を投げつける。
「私は夏君を信じたのに!!」
「騙された!!」
「夏君のせいで私はあのおじさんに汚された!!」
俺は床に膝をつき、震える手を握り締めた。
「ごめんなさい……」
「ごめんなさい……」
「ごめんなさい……」
涙が止まらない。
そんな俺を睦月は冷たい目で見下ろした。
「もうどっか行ってよ」
「顔なんて見たくない」
そして最後に、小さく呟いた。
「夏君の事、信じてたのに」
「私はあなたの事を一生許さないから」
その言葉に耐えられず、俺は逃げるように病院を後にした。
家に帰った後も何もできなかった。
自分の部屋の隅で膝を抱え、ただ震え続ける。
気付けば夜になっていた。
それでも震えは止まらなかった。
あの日交わした約束は――
もう二度と取り戻せないものになってしまった。
第七話 終




