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人との繋がりを信じた旅人  作者: ペンぎんさん


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日常に隠れる恐怖

そう――あれは五年前。


 俺、井上夏は小学五年生だった。


 夏の日差しが教室に差し込む昼前。


「井上ー! 井上夏! 起きろ!」


 突然の怒鳴り声に俺は飛び起きた。


「ふぇ? 何です? 何かあったんですか?」


 寝ぼけた声でそう言うと、担任は呆れたようにため息を吐く。


「『何かあったんですか?』じゃないだろ。お前は本当にマイペースだな」


 担任は苦笑しながら続けた。


「今の時間、何の授業だと思う?」


「自習?」


「違う。理科だ。移動教室だよ」


 そう言われてようやく思い出す。


「あー……」


「笹木先生に『井上が来てないから探してくれ』って頼まれたんだ。分かったらさっさと準備しろ」


「はーい」


 眠気と戦いながら理科の準備を済ませ、理科室へ向かった。


 理科室に入ると、担当の笹木先生がすぐに俺を見つけた。


「井上、待ってたぞー。何してた?」


「寝てました。すいません」


 即答すると、先生は深いため息を吐いた。


「お前なぁ……。授業が終わったら職員室に来なさい」


「はーい」


 そうして俺は自分の班へ向かった。


 席に着くと、すぐ隣から聞き慣れた声が飛んでくる。


「なーちゃん、また授業遅刻してるよ。ちゃんと起こしたのに」


 そう言ったのは幼なじみの響だった。


「んえ~。もっと強めに起こしてよ、響」


「へー? 本当にいいんだ?」


 響はニヤニヤしながらこちらを見る。


 その様子に嫌な予感しかしない。


「まあまあ、お二人とも実験に集中しなさいな」


 そう言って割って入ったのは同じ班のアカリだった。


「あいよ。じゃあやりますか」


 俺が言うと、二人も頷く。


「もちろん!」


「班長がやる気ならやるよー」


 そんなこんなで実験が始まった。


 そして――。


 見事に失敗した。


 しかもビーカーを割った。


 当然、笹木先生に怒られた。


 結果、放課後に反省文を書くことになった。


「別にビーカー一個割れたくらいでさぁ……」


 俺がぼやくと、アカリが呆れた顔をする。


「いや、それはなーくんが実験中にはしゃいだからでしょ」


「確かに」


 響も頷いた。


「なーちゃん、めちゃくちゃ楽しそうだったもん。これだから男子は」


「お前らなぁ。実験って聞いたらワクワクするだろ?」


 そう言うと、二人は顔を見合わせた。


 そして声を揃える。


「これだからなーちゃんは子供なんだよ」


「これだからなーくんは子供なんだよ」


 思わず肩を落とす。


「別にいいだろ……。気になったらやってみたくなるし」


 そう言うと、二人はクスッと笑った。


「な、何笑ってんだよ!」


 俺が抗議すると、アカリが微笑みながら言う。


「別に。ただ、なーくんはなーくんだなって」


「ねー、ひーちゃん」


「だね、アカリ」


 二人は楽しそうに笑った。


 結局、そのまま反省文を書き終えた。


 放課後。


 帰り支度をしていると、二人が声を掛けてくる。


「なーちゃん帰ろー!」


「なーくん帰ろー!」


 俺はぼーっとしながら首を振った。


「あー、ごめん。今日ちょっと用事あるんだよね」


「だから今日はパス」


 すると響は頬を膨らませた。


「えー! また人の手伝い?」


 アカリが苦笑しながら響をなだめる。


「しょうがないよ。じゃあ、なーくんまたね」


「行こ、ひーちゃん」


「はーい」


 二人は手を振りながら帰っていった。


 俺もそれに手を振り返す。


 この時はまだ知らなかった。


 この何気ない日常が――。


 もうすぐ終わることを。


 そして。


 俺の人生が大きく変わることを。


 そこからだろうか。


 俺の日常が崩れ始めたのは――。


           第五話 終

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