過去への扉と再会
「今なんて?」
俺は険しく、そして震えた声で担任に聞いた。
「すまん。俺が独断で調べさせてもらった。ただ、お前の力になりたくてな」
そう言った瞬間、空気が重くなった。
俺は声が出なかった。
勝手に調べられた怒り。
昔のことを知られているという恐怖。
それらが一気に押し寄せ、息が苦しくなる。
沈黙が続いた。
やがて、その沈黙を破ったのは担任だった。
「夏、お前が何で皆や俺を警戒してるのか何となく分かったよ。昔、お前は――」
「黙れ!!」
気付けば怒鳴っていた。
その瞬間、頬を涙が伝う。
止めようとしても止まらなかった。
それを見た担任は表情を曇らせる。
「すまん。少し落ち着いたら、前と同じ個室に来てくれ」
そう言い残し、担任は保健室を後にした。
残されたのは沈黙だけだった。
そして、その沈黙をかき消すように俺の嗚咽が響く。
悪夢のように何度も出てくる過去。
何度も俺を苦しめる記憶。
鮮明に脳裏へ蘇ってくる。
気付けば夕方になっていた。
保健室には長い間、俺の嗚咽だけが響いていた。
午後六時。
個室のドアを開ける。
「来たか、夏」
担任はそう言ってこちらを見た。
「あんた、俺のどこまで知ってる」
震えた声で問いかける。
「まあ、色々とな。取り敢えず座らないか?」
そう言われ、俺は席に座った。
それから俺は、自分の過去を話した。
五年前。
小学五年生だった頃の話を。
気付けば時計は午後七時を指していた。
「もうこんな時間か」
担任はそう呟き、続ける。
「夏、話してくれてありがとう。それと俺はそんな腐った大人じゃない。俺の生徒にもそんな奴はいない」
少し間を置いて、さらに言った。
「信じてくれ。それと勝手に調べてしまって、本当にすまなかった」
そう言って深く頭を下げる。
俺は少しだけ笑った。
「うん。あんたってやっぱ変な人だよ」
担任が顔を上げる。
「けど、俺が今まで関わってきた大人よりは全然マシだって分かったよ」
そして小さく言った。
「教えてくれてありがとう、先生」
すると担任はニヤリと笑う。
「今笑ったろ? な!? 夏、今笑ったよな?」
「うるせぇ。笑ってねーよ。鬱陶しい!」
そう言い返し、俺は個室を後にした。
帰り道。
夕暮れの中を歩いていると、一人の人影が目に入る。
どこか懐かしい顔だった。
「久しぶり、夏。新しい学校はどう?」
そう言いながら、そいつは俺に近付いてくる。
俺は目を見開いた。
「響……どうしてお前が?」
――第三話 終




