ねじ曲がった愛と純粋な恋
響はロープで縛られたまま、目の前の男を睨みつけていた。
「お~怖い怖い。けどその顔も良いね~」
男は下卑た笑みを浮かべる。
その時、少女が静かに口を開いた。
「少し、皆席を外してくれるかな?」
「はあ?何でだよ?やっと可愛らしい女に会えたのによ」
男達は笑う。
しかし少女の表情が一変した。
「良いから、席を外せって言ってんの?」
低く冷たい声に、男達は顔を見合わせる。
「はいはい。おい、お前ら下に行くぞ」
男達は不満そうにその場を離れていった。
静寂が訪れる。
「はあ~。やっと二人で話せるね、ひーちゃん?」
少女は笑っていた。
だが、その目は笑っていなかった。
「君はどうして、そこまでしてなーちゃんを苦しめたいの?」
響の問いに、少女は無表情になる。
「あれは五年前――」
そして語り始めた。
睦月が夏に追われているという嘘。
その嘘を真実に変えたこと。
知らない男を利用し、事件を引き起こしたこと。
響の顔から血の気が引いていく。
「それって君が、あの事件の黒幕?」
「黒幕って言うのは辞めてよ~。最後に決めたのはあのおっさんだよ?」
悪びれる様子もなく少女は笑う。
そして続けた。
「誤算だったのは妊娠したことかな。学校にも行けなくなったし。そのせいで、なーくんはあんたの物になっちゃった」
その言葉に響は叫ぶ。
「なーちゃんは誰の物でもない!!」
震える声で、それでも必死に。
「君が何したか分かんないの!? そのせいでなーちゃんは苦しんで、誰も助けてくれなくて、死のうとしたんだよ!!」
だが少女は首を傾げるだけだった。
「で、それが?」
狂気じみた笑顔を浮かべる。
「その方がなーくんの一番綺麗で愛おしい顔なんだよ?」
響は怒鳴る。
「なーちゃんのその時の顔を見てないくせに!!」
すると少女は笑った。
「見てたよ?」
そして告げる。
「だってひーちゃんと一緒で、なーくんの横にいたもん」
その瞬間、響は息を呑んだ。
「もしかして……アカリ?」
少女は満面の笑みを浮かべる。
「ピンポーン!そうだよ?アカリだよ!」
五年前に消えた少女。
夏の絶望を見続けていた少女。
その正体がついに明らかになる。
「でもね、本当は私が慰めてあげるはずだったのに」
アカリの声が震える。
「全部あんたのせいで!!」
響は怯えながらも問いかける。
「アカリ……どうして?」
するとアカリは叫んだ。
「その顔だよ!!その顔をするから、なーくんはあんたの物になったんだ!!」
「違うよ。なーちゃんは――」
響が言いかけた瞬間。
アカリは笑った。
「まあ、なーくんの目の前であの男があんたを――」
その言葉を遮るように、響は言い切る。
「なーちゃんはそんな事で負けたりしない」
まっすぐアカリを見据える。
「それに、なーちゃんはそんなことを絶対にさせない」
アカリは不機嫌そうに笑った。
「楽しみだね?」
その時。
部屋の外から声が響く。
「車が来たぞ!」
響の目が大きく開く。
「なーちゃん?!」
そしてアカリもまた、信じられないという表情を浮かべた。
「なーくん……どうして……」
彼女の知る夏なら、一人で来るはずだった。
誰も頼らず。
誰も信じず。
けれど――
今の夏は違う。
そうして運命の再会が、すぐそこまで迫っていた。
――第14話 終




