昔と今
担任との話を終えた夏は家へと帰ってきた。
「ただいま~……って、まだ誰も帰って来てないよな。母さんも今日帰って来るんだっけ」
独り言を呟きながらスマホを見ると、一本の留守電が入っていた。
送り主は響。
嫌な胸騒ぎを覚えながら再生すると、そこから聞こえてきたのは怯えきった響の声だった。
『なーちゃん! 来ないで!』
続いて大きな物音。
そして聞き覚えのある女の声。
『あー、なーくん久しぶり? なーくんは私の事忘れてるだろうけど……まあそれは良いや』
響の悲鳴が響く。
『今から言う住所に来てね? 楽しい事が待ってるから』
住所を告げると留守電は切れた。
夏は静かに立ち上がる。
「……助けないと」
スマホを握りしめ、家を飛び出した。
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その頃。
廃墟の一室で響はロープに縛られ、頭から血を流していた。
目の前に立つ少女、その少女は狂気を孕んだ笑みを浮かべる。
「ひーちゃんも私の事忘れてるんだ? 五年ぶりだもんね」
響の髪を掴み上げながら少女は言う。
「あんたは邪魔。なーくんの隣にいるのは私なんだから」
「なーちゃんを……これ以上苦しめないでよ」
響が睨み返す。
しかし少女は楽しそうに笑った。
「だって苦しんでるなーくん、最高じゃん?」
そして吐き出すように叫ぶ。
「弱ってるなーくんを小五の時、私が抱き締めるはずだった! 睦月を犠牲にしてまで準備したのに! なのにあんたが全部邪魔した!」
怒りのまま響を蹴り飛ばす。
「なーちゃんはもう絶望なんてしない!」
響は涙を浮かべながら叫ぶ。
だが少女は笑った。
「そう? じゃあ昔のなーくんに戻すだけだよ」
さらに奥から数人の男達が現れる。
「へぇ、顔良いじゃん。こいつで遊んで良いんだろ?」
男の言葉に少女は首を横に振った。
「ダーメ。まだお客さんが来てないでしょ?」
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一方、夏は学校へ駆け戻っていた。
「先生!!」
個室へ飛び込み、担任を呼ぶ。
「ん? どうした夏――」
先生は夏の顔を見るなり表情を変えた。
「何かあったな?」
「時間が無いんだ。お願いです、助けて下さい」
夏が頭を下げようとした瞬間。
「住所は?」
先生は迷う事なく鍵を手に取った。
「先生……良いんですか?」
「時間が無いんだろ。早く行くぞ」
その一言だけだった。
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先生の車で現場へ向かう途中、夏は事情を全て話した。
「解った。飛ばすぞ。捕まっとけよ!」
そう言った直後、車は猛スピードで走り出す。
「ちょっ!? 先生!?」
夏は慌ててシートベルトを握り締めた。
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そして二人は廃墟へ到着する。
「先生」
「ん?」
「何も言わず付いて来てくれてありがとうございます」
すると先生は笑った。
「別に良いよ。だって夏は俺の生徒だしな!」
夏も思わず笑う。
ふと気になって尋ねた。
「そういえば先生が電話してた人達って?」
「あー、マブダチ」
「マブダチ?」
「最高の友達みたいなもんだ」
「何か良いっすね」
「だろ?」
そう言った直後、建物の前に取り巻き達が姿を現した。
先生は肩を回しながら前へ出る。
「ここは俺に任せて行ってこい」
「でも――」
「大事な人が危ないんだろ?」
先生は笑う。
「なーに。先生これでも強いんだから」
夏は深く頭を下げた。
「解りました。お願いします」
そう言って廃墟の中へ走り出す。
先生はその背中を見送りながら笑った。
「さーて、生徒も居なくなった事だし……アイツらが来るまで持つかな?」
そう呟くと、取り巻き達へ向かって駆け出した。
戦いの幕が、上がろうとしていた。
――第13話 終




