俺と俺
それから三日が経った。
響は何だかんだ理由を付けて、ずっと俺の家に居座っていた。
「はぁ……響、そろそろ帰れよ」
呆れながらそう言うと、響は目を潤ませながら悲しそうな顔をする。
「酷いよ〜、なーちゃん! 僕の事嫌いになったの?」
「ぐっ……」
流石にそんな顔をされると弱い。
「やっぱりなーちゃんは優しいね〜」
そう笑った後、響はふと思い出したように口を開く。
「そういえば最近、この辺で殺人未遂が多いらしいよ? 犯人もまだ捕まってないんだって」
「へぇ……」
少し考えてから俺は言った。
「じゃあ響、その犯人が捕まるまで俺ん家に居ていいぞ」
その瞬間、響の顔が勝ち誇ったような笑顔になる。
「へー? 僕の事が心配なの?」
「当たり前だろ」
「やっぱり優しいね〜。そういう所、僕は好きだよ?」
「はいはい、何回目だよそれ」
「本当だもん!」
響は頬を膨らませる。
そんな姿を見ながら、俺はそっと響の頬に触れた。
「俺も響が大事なんだよ」
その言葉に自分でも少し驚いた。
「もし響が危ない目に遭ったらさ……俺、多分どうなるか分かんない」
微かに震える手。
響はその手を優しく握った。
「今の告白?」
「違うわ」
「ごめんね〜。僕、なーちゃんみたいな人しか受け付けてないから」
「それ余計意味分かんねぇよ」
二人で笑う。
「そういう時はさ、『俺が響を幸せにする』って言うんだよ?」
「はいはい。ヒビキヲシアワセニスルヨー」
「全然心こもってない!!」
当然のようにバレた。
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それから何やかんやあって。
気付けば俺は響の膝の上に頭を乗せていた。
「なぁ響。何で俺、膝枕されてんの?」
「僕がしたかったから〜」
鼻歌を歌いながら頭を撫でてくる。
妙に心地良い。
気付けば瞼が重くなっていた。
「眠いの?」
俺が頷くと、響は少しだけ優しく笑った。
「なーちゃんって意外と甘えん坊だよね」
そう言ってまた頭を撫でる。
その温もりに身を任せながら、俺の意識はゆっくりと沈んでいった。
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許さない。
どこかから声が聞こえた。
気が付くと、目の前には一人の女子と怯えた男子が居た。
冷たい目。
怯えた表情。
見覚えのある光景。
「ねえ、これ昔の俺なんだよね」
後ろから声が聞こえる。
振り返ると、そこには見覚えのある少年が立っていた。
俺だった。
昔の俺だった。
「そこから不幸が続いて、周りを憎んだ」
「違う!!」
思わず叫ぶ。
「俺はそんな事——」
「違わないよ」
少年は静かに言った。
「だって君は俺なんだから」
景色が変わる。
次に映ったのは首を絞められている俺だった。
恐怖。
後悔。
絶望。
全部思い出す。
「君は後悔した」
少年が言う。
「責任を誰かに押し付けたかった。大人に助けて欲しかった」
「……」
「違う?」
言い返せなかった。
「また逃げるの?」
少年の声が響く。
「そんなので響を守れるの?」
「分かんねぇよ!!」
気付けば叫んでいた。
「大人を信用しろ? 周りを信用しろ? そんなの今の俺には無理なんだよ!!」
膝を抱える。
怖かった。
裏切られるのも。
失うのも。
信じるのも。
全部怖かった。
少年はそんな俺の前にしゃがみ込む。
「でもさ」
優しい声だった。
「今の君はどう?」
その言葉に顔を上げる。
「母さん以外にも信じてくれた大人がいた」
「……」
「君を大切にしてくれる幼なじみもいる」
響の顔が浮かぶ。
「そして君自身、本当は助けて欲しいって思ってる」
少年は手を差し伸べた。
眩しいくらいの笑顔だった。
昔の俺が出来なかった笑顔。
それを見ているうちに、自然と手が伸びる。
「俺もまた……こんな風に笑えるかな」
「出来るよ」
少年は即答した。
「だって君は俺だから」
「俺が君だもんな」
思わず笑う。
少年も笑った。
「やっと向き合ってくれたね」
「悪かったな」
少し照れながら答える。
「でもありがとう」
俺は言った。
「また人を信じてもいいんだって思わせてくれて」
少年は満足そうに頷いた。
そして最後に拳を差し出す。
「一つだけ覚えておいて」
「ん?」
「見て見ぬ振りじゃなくていい。でも無理もしなくていい」
少年は笑う。
「困っている人がいたら、その手を掴めばいい」
俺も拳を作る。
そしてぶつけた。
「分かったよ」
眩しい光が世界を包む。
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気が付くと朝だった。
「お、やっと起きた」
声のする方を見る。
響がニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「何だよ」
「良い夢見た?」
「何で分かるんだよ」
そう聞くと、響は少しだけ嬉しそうに笑った。
「だってさ」
窓から差し込む朝日。
穏やかな空気。
そして響の笑顔。
「なーちゃん、久しぶりに満面の笑顔で寝てたから」
その言葉を聞いて、俺は少しだけ目を細めた。
「ああ」
自然と笑みがこぼれる。
「確かに良い夢だったよ」
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第10話 終




