影 ◆メリー視点◆
土埃が水妖妃の姿を遮る最中、前方のベルフリーデンが纏う赤い光を失い、力を使い果たしたのかパタリと倒れる。
「ーーベルッ!!」
駆け寄って声をかける。
「ーーベルッッ!!ベルッッ!!ーーッッ……ベルッッ!!ーー」
「……………………」
「ーーベルッッ!!ーーねぇっ!ベルッッ!!ーー」
仰向けになったベルフリーデンの身体を何度も揺さぶって声をかける。
「ーーベルッッ!!ーー起きてっっ!!起きてよっっ!!…………
ーーベルフリーデンッッッッ!!ーー」
「…………カハッッ!!き、聞……こえてるよ……お姫様……。そんなに……俺のこと……心配……
「ーーーー【生きてる】なら返事しなさいよっっ!!ーーバカッッッッ!!ーーーー」
「………………」
キョトンとした顔でアタシを見つめるベルフリーデン。よく見ると火傷を負ったように赤みがある箇所がいくつも……顔にもあるが、特に手が酷い。
そんな満身創痍な彼に罵声を浴びせたら……そんな顔にもなるか……と、ちょっと反省。
《……ズル……》
地面を擦るような音がして2人とも反射的にその方向へ目を向ける。土埃が晴れてきて、中の【影】が輪郭を現して始めた。
「…………おいおい……勘弁してくれよ……」
ベルフリーデンは満身創痍ながら、すぐさま起き上がろうとする。……が、それをアタシは彼の肩に手を置いて制止する。
「大丈夫。……終わってるわ……」
「…………へ?」
土埃が完全に消え、見えてきたのは……
【上半身が焼失して、大きな蛇の尾のような下半身だけが下部を地面につけ、上部が硬直するように立っている水妖妃の無惨が姿】だった。
《……ズル……ドシンッ……》
間もなくして、下部で支えて立っていた上部が音を立てて倒れた。その上部には水妖妃の人と蛇のような部分の境界、【人間のへそ】がある部分がくっついていた。なんとも生々しい。しかもまだ尾の先端部分がクネクネしながらピクピクと動いている。
「……うへぇ……まだ動いてやがる」
「……痙攣してる……だけよ……大丈夫……たぶん」
少しヒヤッとした2人だったが、すぐに落ち着いた。
「……メリー」
「何よ!もしかして、〈おんぶ〉して……なんて言うんじゃないんでしょうね」
「……さっき俺のこと……【ベル】って……」
「あぁ……あのー、……長いのよ!アンタの名前!だから別に他意は……ーー
「ーー俺、嬉し……ーー
《ーービュゥゥゥゥンッッ!!ーー》
《ーーバシィィンッッ!!ーー》
「ーーグッ!!ーー」
「ーーうっ!!ーー」
突然、衝撃を受ける。
痙攣していただけの水妖妃の残骸(蛇の部分)は突如大きくうねり、その尾の先端が勢い良くアタシ達2人をその場から薙ぎ払った。
《ーーーードサッッ!!ズザザッッ……》
水妖妃が死んでるのは間違いない。【執念】なのか、それとも独立した神経による筋肉運動(反射)……それともその両方。いずれにしても、その最後の〈足掻き〉はアタシ達を再び窮地で追いやった。
崖の際までふっ飛ばされたアタシは痛みに悶えるのも忘れベルフリーデンを探した。
あの一瞬でも、やはり彼はアタシを庇った。そのせいでより遠くへ飛ばされた。
アタシよりもずっと満身創痍なくせに。
起き上がるのもやっとなくせに。
「ーーベルッッ!!ーーベルッッ!!ーー」
叫ぶように彼を呼ぶ。
周りを見渡しても姿が見えない。
すぐに〈崖の下〉が見えるところへ駆け寄った。
「……クッ……」
見つけた。
飛ばされたベルフリーデンは崖の淵を火傷した両手でなんとか掴み、落下を免れていた。
「ーーベルッッ!!待ってて今引っ張り上げるから!!ーー」
「……ーークッ……ソ……!!…………フンッ!!!!ーー」
ベルフリーデンの血管が浮くような表情から、力を入れているのが分かるが、一向に身体が上がらない。その太い腕を掴んで渾身の力で引っ張るけど、ひ弱なアタシじゃビクともしない。
「……フンッ!!ヌヌヌ……!!ヌヌ……!!」
「……メリー……もういい……離せ、一緒に落っちまう……」
「ーーな!バカなこと言ってんじゃないわよっ!!ーーもっと力入れなさいよ!何っっの為にバカデカい筋肉してんのよ!上級騎士でしょ!?しっかりしなさいっっっっよっ!!フンッッヌヌヌヌっっ!!……ーーーー」
「……【赤】は……反動が……デケェんだよ……力、入んねぇ……」
血管切れそう……。
顔が真っ赤になる程に力を入れて引っ張るが見事に鍛え上げられた重厚な上級騎士の身体は一向に上がる気配を見せない。
「……し!知るかっ!その……キン……なんとか……もっかい使いなさいっっ!!……フンッッ!!!ヌヌヌヌ……ーー」
「……ハハッ……無茶言うなよ……、ダメだ……もう指の力が…………」
「ーーベルッッ!!ーー」
ベルフリーデンが視線を落とす。
「……【姉さん……俺のこと、褒めてくれるかな?】……特級……倒したんだ…………」
……際に心の声を吐露するベルフリーデン。
「……アンタ、ほんとは〈認めて欲しい〉んじゃない!だったら、こんなとこでくたばっていいわけないっ!!ーー」
「…………いいんだ……メリー。……ありがーー
「ーー嫌っっ!!手ぇ離したら絶対に許さないからっ!!ーー聞いてるのっ!?ベルッッ!!ーー」
「………………」
ベルフリーデンの指の力がフッと抜ける……。
その瞬間……アタシ達2人を〈ある人物〉の影が覆った。
『……ベルフリーデン……らしくないな。こんなボロボロになって』
突然現れた聞いたことのある声の主は、ベルフリーデンの手をひょいっと持ち上げ崖の際から助け出した。
「…………せ、先輩……」
それはベルフリーデンと共にシシレンに来ていた上級騎士のエルファーだった。シュタイナーさんに
殴られてベコベコに変形したフルヘルム(兜)が印象的ですぐに分かった。
「…………先輩、目ぇ覚めてたなら早く来てくださいよ……死ぬかと……」
「……いや、さっき気がついた。それで崖から落ちそうになっているお前を見つけて走ってきた」
アタシ達2人はエルファーに見つめて同じ言葉をかけた。
「……さすが俊足っす」
「……さすが俊足だわ」




