堕ちる魅了 ◆メリー視点◆
崖上へ到着すると、とてつもない存在感と……そこから放たれる異質なプレッシャーを浴びように感じる。
目に映るのは……
とても大きな水の玉が微細に波打ちながら宙に浮いている光景。その中で蠢くようにゆっくり泳ぐ影がいる。
「……ハッハ!ようやく噂の美人とご対面ってわけか?」
軽口を叩くベルフリーデン。
それを横目に見ると……言葉とは裏腹に顔が引きつって見える。
「……なんて威圧感なの……、それに妙に【甘い匂い】……気持ち悪くなってくる……」
「そうか?いい匂いだけどなぁ……俺は〈悪くない気分だ〉……」
「…………?」
違和感を感じた。
もう一度、ベルフリーデンを横目に見ると……さっきまで引きつっていた顔がこの短時間に緩くなっているように見えた。
様子のおかしいベルフリーデンに気を取られていると、正面の水の玉に変化が……。
微細な波が止んで中が見えやすくなり始め、影の姿が鮮明になり始める。
「……おお!」
ベルフリーデンは歓喜ともとれるような声を上げ、姿をさらした【水妖妃】に目を奪われる。
上半身を露わにした長い黒髪の女性の姿、大型魚類の頭蓋を被り、蠱惑的で妖艶な雰囲気を纏う。腰から下は翡翠色の鱗で覆われた蛇のような尻尾をしなりを効かせながらゆったり水玉の中を泳ぐ。そして、容姿以上に存在感と威圧感を兼ねるのはその〈大きさ〉……単純に人のサイズじゃない。モンスターだと言えば違和感はない、でも〈人型〉で〈大きい〉から余計に感じるのかも知れない。あの巨体のダンキュリーさんやシュタイナーさんの3、4倍はあるだろうか……。
あと、ついでに言うと〈2つの山〉も大きい……凄く柔らかそう。まあ、それはいいか……別に。
「行くわよ!準備はいい!?」
魔導杖を構え、戦闘に備える。
「………………」
ベルフリーデンの返事がない。不審に思い再度呼びかける。
「ちょ!アンタ聞いてるの!?」
「………………」
「ああ!もう!やってくれたわね!あの女ぁ!
この魔力……
【堕ちる魅了】だわ!上級騎士が堕ちるってどんな魔力してんのよっ!」
嫌な予感はしていた、【堕ちる魅了】は〈異性〉には特に効きやすい……。
「……綺麗だ……とても……」
ベルフリーデンはブツブツと呟きながら、ゆっくりと水妖妃の方へ歩き始める。
「ーーちょ!バカッ!!どこ行くのよ!このバカ騎士ぃっ!」
アタシはベルフリーデンの腕を掴もうと、手を伸ばした……その時……
《ーーコポポ……ジュバァァァァーーッッ!!》
水球の表面から複数の【重水線】がこちら目掛けて飛んでくる。
「ーーっっ!!こんのっ!邪魔すんなっ!
多段結界っ!!ーーーー」
飛んでくる高水圧の魔法を難なく防ぐがその間にもベルフリーデンは水妖妃の方へ無防備に近づいていく。
「……あぁ……美しい……」
『……コッチニ……オイデ……ボウヤ……』
水妖妃は人の言葉を使い、手招きする仕草でベルフリーデンを誘う。
「喋るの?……もしかして、こっちの言葉も分かるの?『知能が高い』ってシュタイナーさん言ってたし……」
(そういえば……【気位が高い】とかも……言ってたような……)
思考を巡らす最中も、重水線は次々と飛んでくる。多段結界を貼り直したり、位置を調整したりと忙しい。
でも、まずはベルフリーデンをなんとかするのが最優先。堕ちる魅了は厄介極まりない魔法だ。完全に術中に堕ちたら解くのは困難。術者の魔力が尽きるか、死ぬかしない限り解けない。ベルフリーデンはまだ完全には堕ちてない……至近距離で術者の魔力を注ぎ続けるための〈魔力回路〉を植え付けて完全に堕ちる。
そうなれば、蒼炎騎士ベルフリーデンと特級モンスター水妖妃を同時に相手しなくてはならなくなる。それだけは絶対に避けないといけない。
「はぁぁあ……手がかかる男ね!当たりどころが悪くても恨まないでよね!
〈……氷雪さざれ……差し貫いて………〉………」
(とにかくベルフリーデンの気を逸らすっ!)
水玉から繰り出される水撃を防ぎながら、別の魔法を小さく唱える。
「ーーコダン・クールッッ!!ーー」
4つの小さな氷塊が生成され、ベルフリーデンに向かって飛んでいく。魔力を調整して威力を極限まで抑えた……とはいえ鋭く尖っている。
『……ジャマ……スルナ……』
気付いた水妖妃は高水圧攻撃の範囲を広げる。4つある内の氷塊の3つが瞬く間に撃ち落とされ、残るは1つに。
《ーーグサッッ!!ーー》
『ーーいっっっっっっっってぇっっ!!ーー』
痛みを訴える声が響く。




