お姫様とケンカ ◆メリー視点◆
水妖妃がいるであろう灯台のある崖上へ〈誰が〉行こうか揉めている時、突如として現れた謎の金髪美女。
それを「姉さん」と呼ぶベルフリーデンは……あからさまに接触を避けようと強引にアタシの手を引いてその場を離れた。
「ーーちょっと!!どうしたのよ!あ!ちょ!ちょ……力つよっ!……ちょ……っと!!……ーー……」
「…………………………」
「ーーちょっ!アンタ!聞いてるの?……ーー」
「え?なに?【お姫様だっこ】がいいって?分かった!しょうがないなぁ……よっ!……とっ」
「ーー言ってない!言ってないわよ!……わわわっ!」
お姉さんから離れた途端にベルフリーデンらしい振る舞いに戻り、ビックリするアタシの顔色を構いもせずに【お姫様だっこ】を強引に決行する。
「ーーハハッ!こっちの方が早いから良いだろ?」
「………………」
2人きりになって急に生き生きとするベルフリーデンに多少の鬱陶しさと【お姫様だっこ】の恥ずかしさを感じて、眉間にシワを寄せながら少し黙った。灯台のある崖上の方へ足早に向かう振動に揺られながら……ふと思ったことが口に出る。
「……嫌いなの?お姉さんのこと……」
「………………」
眉間にシワを寄せるアタシを何故か嬉しそうに見ていたベルフリーデンはその質問に沈黙する。直後、少し広角を下げてアタシから目線をズラした。
《ーーザッ!ザッ!ザッ!ザッ!…………ーー》
回答を待つ沈黙の間、2人分の体重が掛かったベルフリーデンの足音だけが耳に入る。
「……まあ、言いたくないなら別に良いけど」
「………………」
《ーーザッ!ザッ!ザッ!ザッ!…………ーー》
「………………」
「……アタシが本当に聞きたいのは、あのお姉さんと一緒に居て【シュタイナーさんは大丈夫なのか?】ってことよ!あそこにはまだ黒豹蛇がいるし危な……ーー」
「あー、心配ないよ……さっきも言ったけどあの人に任せれば大丈夫だよ」
食いに気味にベルフリーデンは語る。
「……どうゆう……こと?」
「強いんだよ……単純に。だから特級モンスター如きに遅れを取ったりしない、って話」
「……アンタより……?」
「………………」
また黙るベルフリーデン。
「………………」(……またダンマリ……どんだけ嫌いなのよ)
怪訝な顔でベルフリーデンの顔を見つめる。ベルフリーデンはまた目を逸らす。
「………………」
「………………」
しばらく……睨みつけ続ける。
すると……。
「…………っっだぁ、もう!なんだよ!そうだよ!あの人は俺よりもずっと強いよ!そんで君が言った通りだよ、俺はあの人が心底嫌いだね!これで満足か?お姫様!」
アタシの視線に耐えられなかったのか、タガが外れたように本音を漏らす。まるで小さな子供のような態度で不貞腐れるベルフリーデンを見たアタシはちょっとだけ好感を抱いた。初対面の時の……女に慣れていて軽率そうでヘラヘラしていてチャラついた第一印象よりよっぽど人間らしいと思った。
と、同時に……いつも子供みたいにシュタイナーさんに感情をぶつけている自分を見ているようで何とも言えない気分になった。……というか、イラっとした。
「ーーうるっさいわね!ちょっと聞いただけだけじゃない!小さい男ね!あと、〈お姫様〉って言わないで!ーーこのっ!このっ!このっ!」
「ーーいっ!痛っ!痛っ!ーー」
アタシは持っていた魔導杖でベルフリーデンの顎をゴツゴツと突いた。
「ーーこのっ!このっ!」
「ーーちょっ!やめ!落とすぞっ!このっ!!」
お姫様だっこされながら子供のようにケンカしていたら……進行方向から
【槍のように飛んでくる水流】が目に映る。
「ーーっあ!!危ないっ!ーー」
「ーーえっ!?ーー」
《ーーシュッッ!!ーーザスッ……ーー》
「ーーいっ!!クッソ!!何なんだ一体っーー」
とんでもない水圧のそれはベルフリーデンの足をかすめて傷を負わせる。走行中のベルフリーデンは体勢を崩してアタシを抱えたまま転がるように前方に激しく倒れこんだ。さっきまでケンカしていた相手なのにしっかりとアタシの頭を守るように転倒してくれた。
ケンカしていて気付かなかったが、もうすでに崖上のすぐ手前まで来ていた。倒れたベルフリーデンはすぐに起き上がり状況を確認する仕草をみせる。
「ーーっ水?…………なんだ?今のは…………」
「魔法よ!|【重水線】……圧縮した水を撃ち出す初級魔法……でも、今のは初級魔法の威力とは思えない程の威力だった……魔法耐性のないものなら鉄の防具でも簡単に貫通するような代物だったわ」
「……っ恐ろしい魔法だな……ってことは……」
「ええ……いるわ、この先に……
特級モンスター……
【水妖妃】が…………」




