才能と才覚
「……私、魔法のことに関してはあまり詳しくはないのですが……ーー」
「まあ簡単に言うと……初歩中の初歩の魔法を1回使うとそれで打ち止め、魔力が殆ど無くなって2回目は発動すらしない状態、ということじゃな」
淡々と話す老体を神妙な面持ちで見つめるガウニィ。
「……本当ですの?」
「本当じゃよ。それにワシは身体が大きいじゃろ?だから……
『来るところを間違ってるんじゃないか』
『ここは兵士の養成所じゃねぇぞ』
って散々にバカにされたわい。そんな心無い言葉を浴びながらも、毎日魔法の練習に明け暮れるが何一つ上手くいかず自身の才能を憎んだこともあった」
「…………」
ガウニィはただ黙って聞いている。
「そんな時、1つ上の学年の先輩に声をかけられたんじゃ……その人はワシに【内在する魔力量】を知っても接する態度を変えなかった……それどころか
『こうしてはどうか?』
『あれをすれば良くなるぞ』
『着眼点を変えてみよう』
と、ワシに提案してくれた。ただの善意ではなく【魔法への探求】がその先輩を動かしていた。決して〈憐れみ〉ではない先輩のその言葉はワシには凄く嬉しくて、同時にとても身に染みた……そして、ワシら2人は魔法に対する【全く別の認識、知見】を得るに至った……」
「…………」
黙って次の言葉を待つガウニィ。ほんのり疑問符が表情に滲む。
「……つまり、【魔力量】と【強さ】が必ずしも一致しない見方を見出したというわけじゃよ。やり方は人それぞれで良い……〈才能〉によって過程は違うかも知れんが【どんなやり方】を選ぶかは本人次第。それを見つける【才覚】と【努力】こそ肝要……。【才能と才覚】は本質的に別物だ、という話じゃ」
黙って聞いていたガウニィは老体に向けていた視線を横に流して静かに吐息を零した。そして口を開く。
「あらあら、どんな話かと聞いてみれば…………【くだらない】ですわね」
「…………」
開口、辛辣な言葉を賜る老体。今度は老体が黙ってガウニィの目を見て、聞く姿勢に徹する。
「では、その【才能】を持っている者が【才覚】持って【努力】をしたらどうします?それこそ差が出るのではないですか?どうやったって【凡人】との埋まらない格差というのはある……そう思いませんか?」
「…………ふむ」
老体は視線を横にずらしながら髭を撫で、考える所作を作る。
「思ったんじゃが、【才能】をどうやって証明するんじゃ?」
「は?そんなの!見て分かる……もの……なの……よ?……??」
勢いよく言葉を返すガウニィだったが、言葉の最後には疑問符を伴って勢いを失う。
「ワシから見ても副団長さんの強さは【才能】をいうものを感じるにたる強さじゃ……じゃが本人は【才能】がないと言うし、【才能】がある愚弟より強いと言う……一体、【才能】とはなんなんじゃろうなぁ」
「………〈今は〉私の方が強いというだけのことですわ」
「ほう、では【凡人】が【才能ある者】を超えられることを既に証明しているという事になるのう」
「……いずれ……私なんてすぐに……」
「【追い越される】か?」
俯くガウニィの言いかけた言葉を老体が先に言う。
「まだ起こってもないことに気負いしてもしょうがないじゃろ?不確定な未来を恐れて歩みを止めるなど【バカ】のすることじゃて……そう思わんか?」
「ーーバっ!…………あ、歩みを止めるつもりなど……毛頭ありませんわっ!!」
「ホッホッホ!それでよい。あんまり【才能】がどうとか言っておると……超された時の【言い訳】に聞こえるからのう……ホッホッホ……」
「いっ!……ちょっ!……思ったんですけど……お肉屋さん、さっきからちょっと【イラつく】言い方しますわね」
「すまんすまん。【無いもの】ばかりに気を取られる昔の自分を重ねて歯がゆかったのかも知れんのぅ……ホッホッホ……」
「……はぁ……先達者の助言、有り難く受け取っておきますわ……ムカつきますけど……」
ちょっと渋い顔をしながら老体を睨みつけるガウニィは、最初にあった印象より表情が豊かで取り繕っていない……【良い顔】をしているように見えた。
「あ、ところで……ワシ、メリーを助けに行きたいんじゃが……」
老体は再度お願いすると、今度は蠱惑的な表情で老体に近づくガウニィ。更に老体の胸元を指でなぞりながら、グッと顔を近づける。
「ええ、お断りですわ」
これまでの仕返しと言わんばかりに満面の笑みで答えるガウニィ。
すると……
《ーーコツッコツッコツッーー……》
階段を登って来る足音が聞こえる。
《ーーガチャッッ!ーー》
「…………っ!」
「…………っ!」
部屋に入って来た【メリー】と目が合う。
その目に怒気を帯びるメリー。
「ーーなにイチャついてんだジジイ……」




