秒殺
「お嬢さん……あとで話そう……。もし嫌でなければ今晩、会いに行ってもよいじゃろうか?」
老体は何も誤魔化さず、まっすぐに素直に話をしようと観念した。相手の出方を伺って曖昧で中途半端な行動をした自分が今回の事態を招いたのかも知れないと、反省した。
「わかりました。どこで話をしますか?」
「……そうじゃのう。2人でゆっくり話が出来るところがあるといいんじゃが」
「……っ!私の!自室ではどうでしょう?」
「……うむ、わかった」
「あと、1つお願いがあります」
「……ほう?お願いとは?」
少し照れたような表情をする看板娘。
「名前で呼んで……貰えませんか?……〈マルカ〉と」
「わかった。……マルカさん、事がするんだら必ず戻るので待っていてくれるかの?」
「はい、おじ様」
とりあえず、話がついて看板娘とは別れ……ダンキュリーとイズを自分たちの部屋のベッドまで運んで一息ついた。老体はソファに腰掛けてガウニィに視線を移す。
「……ありがとう、副団長さん。助かったわい」
「あらあら……いいんですよ?押し倒された【仲】ですし……ウフフ」
「よしておくれ……さっきは肝が冷えたわい」
「あらあら……本当のことですのに……」
老体は困った表情で自身の後頭部を撫でるように掻く。
「副団長さん……1つお願いがあるんじゃが……」
「あらあら……私にも愛人になれとおっしゃるんですの?」
「ーーいやいやいやいや……ワシに副団長さんは【荷が重い】じゃろうて……ホッホッホ……」
ガウニィの冗談にギョッとする老体だったが、今度は年の功で余裕のある返しをした。
「あらあら……女性に対して【重い】だなんて」
「ホッホッホ……副団長さんも意地悪せんでおくれ……お願いというのはーー」
「ーーそこの2人の【護衛】ですか?お断りですわね」
ベッドの方へ視線を流しながら見透かしたように老体の言葉を遮る。
言葉とは裏腹にニッコリとした表情で老体の願いを蹴るガウニィ。
「……やはりメリーが心配でのう。今からでも行ってやりたいんじゃが……その間だけでも……どうかお願いできんかのう?【渦】が来るなら副団長さんにとっても悪い話ではないと思うが……」
今度は〈餌〉をちらつかせて交渉する。
「確かに〈副団長〉としては悪くない話ですわ。ですが、私は今、休暇中ですの。丁重にお断りさせて頂きますわ」
「……そうか……困ったのう……」
「〈あの子〉がいるんです、問題ないと思いますわ……」
〈あの子〉とは?という顔をする老体。
「〈ベル〉。愚弟のことですわ」
今までニッコリしていたガウニィが心なしかムッとした表情で答える。
「…………〈愚弟〉と言う割には、その実力を認めておるんじゃのう」
ガウニィはギロリとした視線を老体に向ける。明らかに気分を害した言葉だったようだ。
「……そうですわね。あの子は強いですわ……。私より……ずっと恵まれた才能を持っています」
「…………嫌いなのかのう?」
「ええそうですわ。才能がありながら【あの程度】な愚弟には嫌悪感を否めませんわねっ」
「わからんのぅ……副団長さんの方がよっぽど強し、才覚あると思うがのぅ……」
「努力したんですの……私にはそれしかなかったからっ」
「そう、それじゃよ」
「…………?」
老体の発言に怪訝を示すガウニィ。
「その努力をした結果……副団長さんの方が強いんじゃろ?それとも愚弟と呼んだ者に負けるような口だけの雑魚なのかのぅ?」
ちょっと煽る老体。
ちょっと引きつる顔のガウニィ。
「そうですわね、ただの殺し合いなら……〈秒殺〉してさしあげますわ」
「ホッホッホ……」(怖ぇぇ……)
殺気をちょっぴり漏らすガウニィ。
「まあ実際……【才能】に秀でた者は、ワシのような【凡才】には到底出来んことをいとも簡単にやってみせる。時にそれは同じ人間とは思えないくらいの差を見せつけるものじゃ……」
「ーーまあまあ……言うに事欠いて、お肉屋さんが【凡才】?」
笑えない冗談だ、とでも言わんばかりにガウニィは言う。
「ワシが魔導院に入学した時……
【標準値の10分の1】しかないと言われたんじゃ」
「……?何がですの?」
直ぐ様聞き返すガウニィ。
それも当然、あえて主語を外した言い方をした……印象付けるために。
「ワシの【内在する魔力量】がじゃよ」




