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便宜上







 騎士団内の人間関係など、小話にオチがついたところで遠目に目的の宿屋が見えてきた。



「副団長さん。あそこじゃ、あそこの宿屋じゃ」

「あらあら……あそこ、と言われましても……」



 老体の曖昧な言葉に副団長は少し困ってしまう。

 それもそのはず、この周辺は〈宿屋街〉……前を向いて歩けば至る所に宿屋の看板が目に入る。



「ほれ、あそこじゃよ……あのーー……」



 必死に説明しようと、目印になるものを探す老体。



「ほれ!あそこ、〈若い女の子〉が立っておるじゃろ?……あそこの!〈若い女の子〉じゃ!……ん??あれは……」



 見つけた目印として、宿屋の前に立っている〈若い女の子〉を指し示した。……が、見覚えのある風貌に老体は眉間にしわを寄せて目を細める。



 宿に近づくにつれ、だんだんと記憶の輪郭がハッキリしてくる。直後、宿屋の前の〈若い女の子〉の方が老体に気づいて駆け寄ってきた。



「ーーおじ様!」



 それは宿屋の看板娘だった。



「ーーおお、お嬢さんか!外に出ては危ないぞぅ?」

「おじ様が心配でつい……。





 あのー、ところで……



 そっちの【綺麗な水着の方】は誰です?」



 〈表情はニコニコしているが、言葉の後半……急に声のトーンが下がる看板娘。〉



「ーーあぁ……ぇえっと……」(な、なんじゃ?お、お、お、怒っとるのか?なんでなんじゃ!?)



 動揺する老体は目を泳がせながらもガウニィに視線を送る。



「ーーこの人はのう……ーー



 説明しようとした瞬間、ガウニィは老体に密着するように肩をくっつけ、小言で話す。



わたくし、一応休暇中ですの……あんまり騎士団の身分を明かしたくありませんし、名前も伏せていただけるとありがたいですわ』

『……そ、そうか。わかった』



 要望を聞いた老体は視線を看板娘に戻す。……が、顔は相変わらずニコニコしているが更に不機嫌さが空気に出ている。



「何を2人で【イチャイチャと】してるんです?」



 ……怖い。もはや、殺気のたぐいを感じる。



「ーー怪我人を!イズを運ぶのを手伝ってくれたんじゃ!良い人じゃ!とりあえず、部屋で休みたいがいいかのう?お嬢さん」

「………………」



 一瞬、黙る……もはや、ニコリとも笑っていない。



「ええ、もちろんです。おじ様」

「あ、ありがとう。お嬢さん……」



 不自然極まりないくらいに看板娘はまた表情を戻してニッコリと返事をした。老体はそれに戦慄を覚えながらも看板娘についていく形でガウニィと部屋へと向かう。途中、看板娘の後方で……ガウニィが老体に小声で話す。



『あの子……お肉屋さんの何なんですの?まるで浮気の疑いからくる〈殺意〉のようなものを感じたんですけれど……』

『いやー……何と言うのかのぅ……たまたま困っておるところを助けただけなんじゃけど……』

『……本当ですの?実は〈愛人〉か何かだったりーー

「【妻】ですがっ」



 急に振り返り、小声の会話に割って入る看板娘。



「【妻】ですがっ……何か?」

「……………………」



 2度言う看板娘。

 絶句して固まる老体。



『いい歳して……こんな若い子に手を出して……何やってるんですの!?』



 小声だが責めるような眼差しで老体に言葉を零すガウニィ。



『いやいやいや!ワシはなにも!……な、何の事だがさっぱりーー

「おじ様。勝ちましたよね?私との結婚を賭けた【決闘】に」

「…………」(決闘……)



 看板娘はニコリとして老体の顔を覗き込む。再び硬直する老体は頑張って思考する。



「ね?」

「…………あっ」(あ!そうじゃ!便宜上そうゆうことになったんじゃった……)



 バッチリ思い出す老体。



「私がいるのにそんなに〈綺麗〉で〈魅力的な水着〉を着た〈女の人〉を連れて込んで……〈何〉やってたんだろうなーって……私、心配して待ってたのになーっ……て、ねぇ?おじ様?」



 まるで研いだナイフのように老体を刺しに来る言葉を浴びせる看板娘。



「は……はは…………なーーんも。なーーんもしとらんよーー、…………のう?ワシ……なんもしとらんよのう?」



 看板娘のあまりの圧に思わずガウニィに助け舟を求める老体。自分は何も悪いことはしてないのに変な汗が止まらなくなる。



(わたくし?……えーっと……ーー」  



 急に話を振られて戸惑うガウニィ。



「あー……何も……あ!【押し倒されました】わね、ええ。それだけですわ」



 戸惑いながらもしっかりと(無自覚に)【誤解を生む】回答を叩き出したガウニィ。



「ーーちょ!」(いや、【言い方ぁぁ】……)



 実際……【押し倒した】のは事実だった手前、否定するのも出遅れる老体。視線を看板娘の方へ向けると。



「……………………」



 もう何人か【人を殺してきたかのような目】で老体を見上げる無言の看板娘が目に写った。







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