テンバリオン将軍
「とりあえず、イズとダンキュリーさんを宿屋へ運ぶとするかのぅ……」
老体は気絶しているダンキュリーを背負い、持ち上げる。
「ーーんんんっっよいしょっ!!ーー」
自身の体躯に及ぶ重さのダンキュリーに思わず声が出る老体。
〈筋肉ムキムキのデカいジジイにおんぶされる筋肉ムキムキのデカいおっさん〉……絵面がヤバい、とでも思っていそうなガウニィの視線と目が合う。
「………………」
「………………」
妙な状況にお互い気まずいのか何なのか……目が合うが何も言わず……老体は視線を脇置いたイズに向ける。そして、ダンキュリーを背負った状況でしゃがむ。
「ぐぐぐっ!ぬっふっ!!」
足がプルプルするも、片手でイズの腰を掴んで脇に抱えた。そしては立ち上がる。
「……っっっ!!ふっ!ふっ!ふっ!ふぅー!」
一旦、息を整えるため深呼吸を数回……。
「っ良し!ワシは宿屋へ行くが……副団長さんは、弟さんを助けに行くんじゃろ?」
「……あらあら、〈助ける〉なんてことしませんわ、あんな愚弟でも〈特級〉くらい倒せるはずですから」
「そ、そうなのか……では、またのう副団長さん」
老体はガウニィに背を向けて宿屋の方へ歩みはじめた。
「……ふぅ……ふぅ……ふぅ……」
脇にイズを抱えたため、ダンキュリーの片足が持てない老体は、ダンキュリーが落ちないよう身体をかがませてゆっくり進む。それでも、重量のあるダンキュリーは少しずつズルズルと傾く。
「……ふぅ……ふぅ……ふぅ……」(……ぁあ……いかん、落ちてしまう……)
『あらあら、こっちの子は私が……』
ガウニィがイズを抱っこする形で老体の手からソッと奪い取る。思わぬ助け舟に老体はガウニィを見て少し硬直する。
「……あぁ、すまんのう。本当に助かる」
「………………」
老体を見つめて少し黙るガウニィ。
「…………あ、殺しませんよ?」
「ホッホッホ!誰も思っとらんよ、副団長さん。……まだ子供じゃ、誰が好き好んで殺そうものか……」
「……ええ、私は、むしろそれ(子供殺し)を好む〈異常者〉こそ進んで殺しますわ」
「……ワシもじゃ」
体勢を整えた老体はガウニィと一緒に宿屋の方向へ歩き出した。
「…………」
「…………」
黙って歩く2人。
「…………」
「…………」
「……あ、そうじゃ副団長さん」
「……なんですか?」
間が持たず話を切り出す老体。
「さっき言っておった【霊装騎纏】という心技は副団長さんしか使えんのか?」
「そんなわけありませんわ、【霊装騎纏】はアトワイズ騎士団員、全員が使えます。むしろ、騎士になる最低限条件の1つです」
「そうなのか……なら副団長さんの弟は何故〈それ〉を使わんかったのかのぅ……」
「ーーあらあら簡単ですよ?バカだからです!」
「……辛辣だのぅ」
食い気味に言い放ったガウニィは少し間をおいて大きくため息をつく。
「……はぁ…………【テンバリオン将軍】のせいですわ」
「……ほぅ、アトワイズ王国の将軍かのう?」
「ええ。ある【上級】騎士昇格をかけた御前試合でテンバリオン将軍が目をかけていた騎士が負けたんです。それで不機嫌になって、
【霊装騎纏に頼って恥ずかしくないのか?】
と、勝者の騎士に対して毒を吐いたんです。……御前試合ですから、国王や王妃、騎士団幹部や名のある貴族まで幅広い層が見に来られます。そのような場で……その……」
「それは……ダメだのう」
「……ええ」
老体はふと思案する。
「……うーん、国王が注意したりせんのか?そのテン……なんとか将軍とやらを」
「テンバリオン将軍は国王の〈実の弟君〉なんです」
「なるほど……身内に甘いのか。それでは下の者は
辛いのう」
ため息を混じえつつ、ガウニィは考えを話す。
「霊装騎纏は騎士として国を守り、民を守り、自身を守るための術です。それ〈恥〉だなどと、しかも、それを【将軍】の立場で。公の場で。……ほんとに耳を疑いましたわ」
「上が〈バカ〉だと大変じゃのう」
「全くですわ。そういう理由でテンバリオン将軍配下の上級騎士は特に霊装騎纏を使うという選択肢が頭から抜けてるんですわ」
「なるほどのう、納得したわい」
「…………はぁ」
老体は、ため息を零す副団長さんの顔をチラっと見る。話の内容が内容なだけにイラっとした表情に見えなくもない微妙な顔をしていた。




