ギクッ
「こ……殺したのか?」
ごくり、と息を呑み込んで質問する老体。
「知りませんわ」
「へ?」
急に熱が冷めたような表情で答えるガウニィ。
「その後は他の顔のない者に任せてそこを発ったので……どうなったかは興味がないので……なんとも……」
「そ、そうか…………あ!そうじゃ!メリーのところへ行ってやらんとのう!怪我人も安全な所へ運ばんとのう!のう?副団長さん!」
情緒の落差にまたもや恐怖を覚える老体は、この話をこれ以上深掘りするべきではないと、強引に話題を変える。
「そうですね……愚弟のことも気になりますし……」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
流れを持っていけた老体はちょっと不自然なほどに身振り手振りをしてみせた。
「あ、そうそう。お肉屋さん?」
「お?なんじゃ?」
「私、負けた手前……色々とお話しましたが、全部〈国の防衛機密扱い〉になりますので、他言はなさらないでくださいね?」
「も、も、も、もちろんじゃ!口が裂けても言……ーー」
「ーー【言ったら殺しますからね?】ウフフ……ーー」
言葉とは裏腹に愛嬌のある表情で老体にニッコリ微笑むガウニィ。それが本当に刺さるほど怖い。が、老体は勇気を振り絞って、ガウニィの目を見てシンプルな言葉を絞り出す。
「言わぬよ、副団長さん」
「それなら良かったですわ……私、正直に言うと、お肉屋さんに勝てる気がしませんもの」
「ホッホッホ……こんな老いぼれ相手に何を言っとるか……」
「……私、〈目が良い〉んですの」
「?……ほう」
意図が分からず、呆けた返事を返す。
「それに加えて【霊装騎纏】と言う〈心技〉を使って身体能力の向上を行って更に〈見る〉ことに特化し、相手の〈重心〉〈視線〉〈呼吸〉〈筋肉の収縮〉に至るまで即座に察知して、実践においては〈先読み〉に近い精度で立ち回れる、と自負しておりますわ」
つらつらと語るガウニィ。そして、急に目に力が入る。
「なのに!全く【見えなかった】んですわ!予備動作どころか〈動き〉そのものが!
〈私の最初の突きを片手で止めた時〉
〈私を地面に押し倒した時〉
この2回!……【消えた】と言う表現が1番近いと思いましたわ。あの……教えて頂けないとは思いますが、どうやったんですの?」
「ん?ああ、それはのう……」
諦め交じりの質問に老体は飄々とする。
「言った通り、【消えた】んじゃ」
「え?どうやって?……って答えてくれるわけーー
「魔法じゃよ」
「…………え……魔法……?」
「ゲートという移動魔法じゃよ」
「そう……なんですの」
全然答える老体。
「あの……魔法ってそんなに予備動作なく出来るものなんですの?唱えたりとか、杖をかざしたりとか……」
「うむ、詠唱や道具を使うことは魔法の発動に必ずしも必要なことでないんじゃよ。魔力には性質があってのう、使う魔法と術者の魔力を限りなく近くすることで詠唱を省略したり、消耗を抑えたり出来るんじゃよ」
「なるほどですわ……納得……。いや、なんでしょう?なんだか、まだちょっと釈然としませんわ」
「おや?勘が良いのう副団長さん」
「魔法で移動しただけなら、【消えた】と思った瞬間に私は何かしらの反応が出来たはずです」
……この娘、僅か2回で違和感に気づいたか。
実は移動魔法ゲートの魔力は【隠遁魔法スニーク】の性質ととても近い。それゆえにゲートの発動時にスニークの効果が滲むように顕現する。数字にして1秒にも満たない時間だが【移動先への認識を遅らせる】ことが出来る。……これはあくまで性質を合わせる練度を高める過程でたまたま見つけた現象だった。
「ワシの使うゲートには隠遁魔法の効果が乗っておるんじゃ、副団長さんの感じておった違和感はそれじゃのう」
「隠遁魔法…………今度こそ納得しましたわ。
まるで【暗殺者】ですわね、お肉屋さん」
「…………ホッホッホ」
笑って誤魔化すが……元【渦】の構成員である老体は、内心ギクっとしていた。




