ゾクッ
「恋人がおるんじゃのう」
「えっ?こ!こ!こ!恋人っ!!やーん!えーー!?やだ、お肉屋さんったら!気が早いですわぁーー!やーん!」
ガウニィは両手を頬に軽く当てて、足や腰をクネクネする動きで〈普通の女子〉のように燥ぐ。
「副団長さんほどの美人を落とす程の者じゃ、さぞいい男なんだろうのぅ」
老体は話題が自身に向かぬようガウニィの話に乗り続ける。
「男ではありませんわ」
「へ?……そ、そうか」(今どきの娘は……そうゆうもんなんかのう?……)
「私の想い人は同じ王妃直属騎士の団員ですわ、【理由】あって……騎士団を離れることになって会いに行って〈呼び戻す〉つもりなんですが……
ああ……思い出すだけで【……はらわたが煮え繰り返る】……」
話す内に見る見ると怒りを孕んだ冷たい表情になるガウニィ。怒れる美女ほど怖いものないと、恐々とする老体。
「ど……どうしたんじゃ?」
「聞いてくださいます?私の愛しの想い人【シーザちゃん】は、肥え太った醜い公爵家の〈バカ息子〉にどこで目を付けられたか……不運なことに気に入られ、極めて不必要な護衛任務を……、公爵家の威光を振りかざして、わざわざ!王妃直属騎士のシーザちゃんを指名して命じられ……あげく!見習い騎士では天地がひっくり返っても倒せないような1級モンスターに意気揚々と手を出したバカ息子を庇ってシーザちゃんはケガをしたの!しかも!その怪我が!…………ちょっと!お肉屋さん聞いてますの!?ーー」
「ーー……ちゃ、ちゃんと聞いとるよ」
押し寄せる怒涛の言葉に圧倒される老体。
これまでにない圧、それに熱の籠もった声を張り上げてガウニィの愚痴はまだまだ続く。
「ーーしかも!それがですわよ!?その怪我が原因で物凄く珍しい〈奇病〉に運悪くかかってしまいましたの!しかも、それが〈死に至る奇病〉だなんて……なんて可哀想なシーザちゃん!それが原因で騎士団を脱退し、王都を離れたのを……私は遠征任務から帰ってきてから聞かされましたの!」
「……うむ、事情は理解したが……1つ、分からんのう……」
「ーーん何がですの!?」
勢いのまま聞き返すガウニィ。圧が強い。
「その者を〈呼び戻す〉と言っておったが……〈死に至る奇病〉なんじゃろ?」
「ああ、そうゆうことですの……多方面に展開する顔のない者の情報網によるとアトワイズ王都から見て北西方面へ妹と2人で旅をしていると報告を受けています。それも、どういうわけか奇病の症状は一切見られず元気な様子だったそうですわ」
「なるほど、それは良かったのう」
「ええ、本当に」
ガウニィは本当に嬉しそうにニッコリと返事をする。
「ーーちなみに、その後の〈バカ息子〉なんですが……ーー」
続けて食い気味に話を続けようとするガウニィは……先程とは微妙に違う、影のある笑みで話す。
「ある特級モンスター討伐遠征中にバカ息子が【とあるお方】の逆鱗に触れたそうで……結果その父親、財務官ガドルネ・ビスタバン公爵の汚職が発覚し爵位を剥奪され、更には財産を没収され、一家揃って路頭に迷うことに……。私はこの期にバカ息子一家に接触することにしましたの」
「なんでなんじゃ?」
「あらあら……それはもちろん……ーー」
ニッコリしながら淡々と語るガウニィ。
「ーー……元とはいえ公爵家……叩けばいくらでも【情報】が出る……顔のない者としては押さえておきたい情報口です。……と、言うのは建前なんですが……ーー」
ガウニィのニッコリが【ニンマリ】に変わる。
「……ーー煮え繰り返った気持ちが到底収まらない私はバカ息子を攫って監禁し……ありもしないテキトーな情報は吐かせるために……〈爪を剥いで〉、〈髪を引きちぎり〉〈指を1本ずつ折り〉〈宙吊りにして水につけ……〉と、まあ簡単に言えば一通りの【拷問】して……ハァ……やっと、やっと少しずつ……気持ちが晴れていきましたの……
……ーー【楽しかったぁ……】ーー……」
「ーーっっ!!ーー」
老体は背筋がゾクッとし、拷問の件からのガウニィの声色と恍惚とした表情に恐怖を覚えた。




