タダのジジイ
『ーーギシャァアアアアッッ!!…………ギシュフルルルルルルルルルルシュウウルゥゥゥゥゥゥゥッッ……フーーゥゥっっ!!フーーゥゥッッッッ!!ーー』
「あらあら……痛かったかしら……?大きくて立派な〈お尻尾〉ですものねぇ……あらあら……あらあらあらあらぁ…………」
天を仰いで一頻り叫んだ後、舌を巻くように激しい息を放ち黒豹蛇は後退りしながらガウニィを睨み、痛みに悶える。それを煽る言葉を吐くガウニィは細剣を振って血を払い、地面に向かって斜めに切っ先を向けて黒豹蛇に視線を落とす。
少し間を置いてガウニィが纏う白い光が消える。
「…………王妃直属騎士……副団長。ここまで強いとはのぅ……」
老体は脱帽する。
アトワイズ王国、初代王妃ジュリアン・ゼスパル・アトワイズが自ら団長を務め結成した、女性だけで構成された精鋭部隊……
【王妃直属騎士】。
王妃にして至高の剣才ジュリアンが膂力を主としない剣術で築き上げた……まさに女性騎士団の頂にして象徴。
「さて、とどめは……刺さないほうが良いんでしたっけ?」
「ーーフゥゥゥゥッッ!!ーーッッシャァアアアアアッッ!!ギィシュアアアッッ!!ーーーー」
ガウニィは黒豹蛇に背を向け、あまりに無防備に隙を晒す。その動きを〈挑発〉〈侮辱〉と捉えた黒豹蛇は激昂するが如く鉤爪を振り上げガウニィに突っ込んでいく。
「ーーっっ!!副団長さんっっーー
「ーーあらあら……勇ましいのね。
……霊装騎纏・白っ」
唱えた直後、またガウニィは薄く白い光を纏う。
そして、双方のぶつかるその瞬間……ガウニィは振り向いて剣を水平に一閃を放つ。
《ーーベシャ…………ズンッッ!!ズザザァァァァアア……》
老体はあまりに美しい剣技に目を奪われるのを束の間に、〈2方向〉に分かれた黒豹蛇に視線を取られる。
それはガウニィのすぐ側で倒れ込む黒豹蛇の〈巨体〉と、老体の正面まで飛んできて転がる黒豹蛇の〈首〉だった。
「……や、殺りおったのか…………凄まじいのぅ……」
再度、脱帽する。
「さて、次は……」
ガウニィは細剣を抜いたまま老体の方へ戻ってくる。そして、どうゆうわけか……
〈老体に細剣の切っ先を向ける〉。白い光は纏ったままだ。
「あなた……〈何者〉かしら?」
「ワ、ワシか……?ワシはただの肉屋じゃよ副団長さん……」
「…………」
黙って老体を見つめるガウニィ。
「私……副団長をする一方で【とある機関】の諜報役も担っておりますの……
ところで……
……そこの〈小さな修道女さん〉……
【お名前……伺っても、よろしいかしら?】
「……っ!!」
(マズい、この娘……イズの追手、【渦】か……)
ガウニィは老体の2歩後ろにいる気絶したダンキュリーとその胸に横たわり息を荒くするイズに目線を流す。そして、すぐに目線を老体に戻す。
「…………お答えいただけないようですね」
「………………」
沈黙する老体。
「…………そうですか」
老体の沈黙をしばし見届けた後、ゆっくり瞬きをしながら踵を返すガウニィ。
ーー次の瞬間……
《ーーシュッ!!タタタッッ……!!ーー》
返した踵とは反対方向に走り出し、不意を突かれた老体の横を瞬く間に通り過ぎる。
そして、その手にある細剣の切っ先はイズへ向けられる。
「ーーイズっっ!!ーー」
《ーーザシュッ…………ポタッ……ポタッ……》
細剣の切っ先から血が滴り落ちる。
「ーーッッ!!あらあらっ……
〈素手で私の剣を止める〉だなんて……
あなた……本当に【何者】なの?お肉屋さん」
通り過ぎたはずの老体がイズを刺そうとした細剣の刃を右手1本で血を流しながら止めている。それに驚いた様子を見せたと思いきや、不気味な笑みを零し肉屋の【正体】を改めて問うガウニィ。
「ワシは……御年80になる【タダ】のジジイじゃよ」




