827 突然ですが、今日は新しいお友達を紹介しますねー
リョウヤが竜牙の谷でメグナーシャといい感じになり、魔力泉で楽しんだりしてる頃、王都ではフィルエンネ達が学校の初等部で勉学に励んでいた。
登校してくる生徒の挨拶で騒がしい教室内。
朝のHRが始まる前、既に着席していたフィルエンネは、頬杖をしながら心ここに在らずといった感じである。
そんなフィルエンネに親友のミュリシャが声を掛けた。
「フィル? 何か浮かない顔をしていますわね。何か悩み事でも?」
「あはは。ミューちゃんには隠し事はできないねぇ」
「隠し事も何も、どうせお兄さんの事を考えていたのでしょう?」
「ち、違うよ! そ、そ、そんなんじゃないから!!」
「分かりやす過ぎですわ」
「えー、なんの話ー? 私達にも教えてよ」
「僕もちょっと気になるかな」
そこへ教室へ入ってきた竜牙族の姉弟が耳ざとく聞き付けてくる。
レーシャとシンビはサヤイリスの妹と弟で、王都に留学中の身。
姉のレーシャはフィルエンネ達より少し年上だが、せっかくなので一緒に学んでいるのだ。
続いて銀髪猫耳の美少女……ではなく、美少年が顔を覗かせる。
「もしかして、リョウヤ兄さまの話ですか?」
こちらはメグナーシャの弟のユンファオだ。
彼も王都留学中で、リョウヤの家にレーシャとシンビと同様にホームステイしているので一緒に登校してきた。
「そうなのですわ。フィルったら、最近お兄さんに会えていないからって拗ねちゃって」
「違うもん! 私、そんな事で拗ねないから!!」
「ふふふ。どうかしらね」
ミュリシャが笑うと、レーシャ達も釣られて笑い出す。
なんだかんだで、全員の見た目が整っているグループなので色々絵になる。
その結果、周囲には近づき難いオーラが放たれているのは本人達は気付いていない。
スクールカーストの上位カーストのグループも手が出せないので、ある意味クラスの平和に貢献しているとも言えるのであった。
「それはそうとさ、ユンファオ君が転入してきた時は騒ぎになったよね!」
「フィル? 話題をあからさまにずらすのは良くありませんわ」
「そ、そんな事ないよ! ね、ユンファオ君!」
「僕……その話はちょっと複雑かな……」
憂いの表情を浮かべるユンファオは、どう見ても深窓の令嬢である。
姉のメグナーシャが母親の腹の中に置き忘れてきたであろう、お淑やかさを全部吸収してしまったと言っても過言ではない。
流石に服装は少年の物であるが、それはそれで興奮する層もいたりするので、困ったものである。
「確かにユンファオ君が転入した途端、竜牙族が珍しいとチヤホヤされていた私達から一気に興味が移ったよね」
「まさに手の平返しだったね」
姉弟はその時の事を思い出して感慨深く頷いた。
それは少し前の事である。
ユンファオが大森林から王都へやってきて、学校に転入した日の事。
朝のHRで教師のマリアンヌから紹介され名乗ったのだが……。
「僕はユンファオです。皆さん、よろしくお願いします」
「うおおおおおおおおおーーーー!!」
「超絶美少女だああああーーーー!!」
「僕っ子萌えーーーーーーーーー!!」
「ぺろぺろしちゃいてえーーーー!!」
「どんなパンツはいてるのーーーー?」
「もう、男子ったら最低ね!」
「ユンファオちゃんは私達女子が愛でるわ!」
「さあ、目くるめく百合の世界へ!」
教室内は阿鼻叫喚の騒ぎとなった。
一方、フィルエンネ達はドン引きだ。
「ねえ、ミューちゃん。みんなはユンファオ君が男の子だって知らないのかな?」
「世の中、知らない方が幸せな事もありますわ。まあ、私も彼が男子に見えなくて戸惑っていますが……」
「うわー、私達の自己紹介の時より盛り上がり方が全然違うんだけど」
「でも、僕は女の子に間違われるのは嫌かなぁ」
教室の騒ぎは一向に収まらない。
そして、それを黙って見ているマリアンヌではなかった。
「みなさーん? 静かにしましょうねー? 聞いてます―?」
ついには暴走する者達も現れた。
数人の男子が教室の前方へ殺到する。
「うおおおお!! 俺と付き合ってくれー!!」
「いや、俺が先に声を掛けたんだ!!」
「お前はすっこんでろ!!」
「ふん、ユンファオ嬢は上級貴族の僕と付き合うのが世の中の理。下賤な者どもは下がっているがいい」
「あんだと!? 学校では身分の差は無いって教えられてるだろうが!」
「みなさーん? そろそろカウントダウンしますよー? さん、にー、いーち」
「ちょ、フィル! マリアンヌ先生がいきなりぶっ放しますわ!」
慌ててフィルエンネの背後に隠れるミュリシャ。
「任せて! レーシャちゃんとシンビ君も私の後ろへ!」
「わかった!」
「うん!」
「ゼローーーー! 風月刃──は危ないから、風球弾!!」
マリアンヌが構えた杖の先から風魔法で圧縮された空気の弾が四方八方に飛び交う。
それは興奮する生徒達に直撃する他、男女問わず片っ端から吹っ飛ばしていく。
流石に冷静な生徒は机の下に潜り込んで助かっているので、どうやら無差別という訳ではない。
一見、生徒を危険に晒していると思われるが、緊急時にどう動くかを試されている。
これも授業の一環なのだ。
「マジックシールド!!」
フィルエンネの張った魔力障壁は、彼女達を包み込むようなドーム状でマリアンヌの魔法攻撃を全て弾いて難を逃れたのであった。
「あー、そういえばそんな事があったよねー」
「あれをそんな事で済ますフィルが怖いですわ」
「あはは。だけどさ、マリアンヌ先生も変わったよねー」
「むにょーん騒動だっけ? 先生も無事に回復してから明るくなったね」
「レーシャさん、あれを明るくなったで済まして良いものでしょうか……」
そんなやり取りをしていると、教室にマリアンヌが入ってきた。
「みなさーん! おはよーございまーす!!」
やけにご機嫌に見えるが、むにょーん騒動の後はいつもこんな感じなのである。
先祖に掛けられた呪いもリョウヤに解呪され、とにかく全てがポジティブになったのだ。
「「「「おはよーございまーす」」」」
「はーい、今日もいい挨拶ですねー! 先生の胸を見てエッチな妄想に浸ってちゃ駄目ですよー!! テストで好成績を取ったら触らせてあげない事もありませーん!!」
自分からセクハラをしていく面倒な教師である。
もう生徒達も慣れた物で普通にスルー。
これも教育の賜物だ。
「突然ですが、今日は新しいお友達を紹介しますねー」
これには流石に教室内がざわつく。
先日のユンファオ転入事件の記憶がまだ新しい。
色んな意味でのトラウマを克服できていない男子生徒も多いのだ。
マリアンヌの魔法攻撃もだが、何よりもユンファオが美少女でなく美少年だった事が男子の多くの心を傷つけてしまった。
一方、女子の一部では逆に興奮して手が付けられない者も現れて、マリアンヌのお仕置きを受けていたのである。
「新しいお友達って、どんな子かな~」
ウキウキな様子のフィルエンネを見て、ミュリシャは溜め息を吐いた。
またトラブルに巻き込まれなければいいのだけど。
そんな彼女を慰めるのがレーシャ達で、なんだかんだで仲良くやっている。
「なんと! 今回は二人のお友達が体験入学をしてくれまーす! みんな仲良くしてあげてね! さあ、二人とも入って入って!」
紹介されて入ってきたのは二人の少女だった。
その姿を見て、フィルエンネ達が驚きの声を上げる。
それもそのはず、現れたのは……。
「私はルイって言いまーす!! みんなよろしくね!!」
「あたしはメイミァだよ! 竜牙族だからって差別しないでね!!
……中身が大人の女児であった。
二人は意気投合して面白そうだからと、見た目が幼いのを逆手に取って学校に体験入学してきたのだ。
そんな事は知らない男子達が騒ぎ出した。
「おお、またレベル高い子達が来たぞ!!」
「これは是非ともお近づきにならないとな」
「ふん、この上級貴族の僕と交際できる事を光栄に思うがいいさ」
「だから、身分なんて関係ないって言ってるだろうが!!」
流石に今回は女子は自重して大人しくしているが、休み時間になった途端に二人を取り囲むだろう。
「ミューちゃん! なんでリョウちゃんのお姉さんが!?」
「私だって聞いていませんわ!」
「メイミァさんが来るなんて、私も聞いてないのだけど」
「メイミァお姉ちゃん、仕事はいいのかな?」
「みんな気を付けて。そろそろマリアンヌ先生が動き出すよ」
ユンファオの指摘にフィルエンネ達の表情が引き締まる。
「みなさーん? 静かにしましょうねー? さん、にー、いーち」
今回は警告なしのカウントダウンだ。
生徒の多くが机の下に潜り込んだり魔力障壁を張っている。
ミュリシャも、今回はフィルエンネに頼らずに魔力障壁を張った。
こういう体験型学習のおかげもあって、必然的に身を守る手段が覚えられるのである。
「ゼローーーー! 風球弾・改!! 今回のは今までとは一味も二味も違いますよー!!」
圧縮された空気の弾が一人一人を的確に狙っていく。
まず騒いでいた男子達を吹っ飛ばした後は、机の下に潜り込んでいる生徒も執拗に狙い吹っ飛ばす。その際、魔力障壁は簡単に破壊している。
無関係の生徒も関係ない。本当の意味で差別をしない教師なのだ。
「あははははー!! どうですか皆さん! このくらい耐えられないと、これから先の人生大変ですよー!!」
この先の人生よりも今が大変だとクラス全員が思っている。
こうして生徒は人知れずに実力をつけていくのだが、その事に気付くのはもっと後だったりする。
クラスメイトが次々と倒れていく中、フィルエンネ達はよく耐えていた。
魔法が得意ではないレーシャとシンビは魔力障壁を早々に破壊され、襲い掛かる空気の弾を素手で弾いている。それでも捌き切れない場合は尻尾で打ち返す。
ユンファオも腐っても獣人の国の王族。動体視力その他は一般人を凌駕する程で、怯えながらも最低限の動きで空気の弾をかわし続けていた。
一方、ミュリシャだが彼女の魔力障壁は、フィルエンネと比べると弱い。
既にヒビが入って、今にも砕け散りそうだ。
「くっ……このままでは、私の障壁が──きゃあっ!!」
「ミューちゃん!!」
「大丈夫です! このくらい『先読み』でどうにかなりますわ!」
体力的には獣人や亜人に敵わないミュリシャだが、短いながらも未来予知ができるので、魔力障壁を破られた後は弾道を読んで避け続けている。
これなら他の三人同様に手を貸さなくても大丈夫だろう。
「よーし、私も負けないぞ! 空気を圧縮する魔法なら私だって! ええと、空気を圧縮して……と。なんだか細長くなったけど別にいいよね!」
殺傷能力が凄まじい空気の槍がマリアンヌに襲い掛かる。
「エアランスですって!?」
咄嗟にかわすが、胸元をかすめて服が破れたため、大きな胸がこぼれ落ちそうになっている。
それを見逃す男子生徒達ではない。
「おっぱい! おっぱい! おっぱい!」
「おっぱい! おっぱい! おっぱい!」
「おっぱい! おっぱい! おっぱい!」
「おっぱい! おっぱい! おっぱい!」
「おっぱい! おっぱい! おっぱい!」
おっぱいの大合唱であるが、すぐさま空気の弾で吹っ飛ばされていった。
フィルエンネはフィルエンネで、容赦ない威力の魔法を撃ち放ち教室を破壊していく。
魔法に関しては自重できない子になってしまったのだ。
そんな阿鼻叫喚の教室の様子を見て立ち竦むルイとメイミァ。
「ねえ、これ全員イカれてない?」
「うん。あたしもそう思ったよ……」
二人の楽しい体験入学は一日で終了したのであった。




