826 みすみすハーレムを逃すつもりなのかい!?
雨上がりの夕方、竜牙の里に戻ってきた俺達はボロボロであった。
あれだけメグさんと殴り合いをしたんだ。無傷で済むはずがない。
元の姿に戻った俺は、精霊の加護で傷の治りは早い。
しかし、メグさんの方がピンピンしてるのは解せないのだが……。
そんな俺達を出迎えてくれたサヤイリスが不思議そうに見ている。
「お二人とも、一体何があったのですか? 先程、見掛けたテルアイラ殿達も何故かボロボロでしたし。敵が現れたとは聞いておりませんが……」
「ええっと、色々あってね。テルアイラさんの方は知らないけど」
「うん、色々あったよね!」
メグさんはメグさんで、俺の腕にずっと抱きついているので、ちょっと困っている。
すっかり懐かれてしまったようだ。
「そうでしたか。ところで、お二人はいつからそんなに仲良しになったのですか?」
「ええっと、色々あってね……」
「うん、色々あったよね!」
「はあ……。私は同族の女性でなければ文句はありませんが、ここであまり仲良くされていると姉上とマールさんがうるさいですよ?」
「う……」
案の定、屋敷のドアの隙間から件の二人がジト目でこちらを見ている。
物凄く不気味だ。
「まあ、なんと言うか、メグさんとは殴り合って分かり合ったというか……」
「うん、私達すっごく殴り合ったよね!」
「なるほど。それなら仲良くなるのも納得ですね」
それで納得しちゃうんかい。
「分かりました。私もリョウヤ殿と本気の殴り合いをして、より一層仲を深めたいです」
やめて! もう俺死んじゃうから!!
冗談じゃなく、本気でメグさんの拳を受け止めたのだ。
何度死に掛けたやら。
それでも彼女の本気の気持ちを受け止め続けた結果、こんな事になってるのだけど。
(結果はどうあれ、私はあなたの事を見直しましたよ)
珍しく女神が誉めてるから、間違った事はしていないのだろう。
それはそれとして、このままでは家に入れない。
いくらなんでも、メグさんまで屋敷に連れ込むのはどうかと思うのよ。
テルアイラさん達は仮設住宅を借りて寝泊りするはず。
「メグさんは、テルアイラさんのところに戻るんですよね」
「……戻んなきゃダメ?」
「上目遣いで甘えても駄目です」
それはそれ、これはこれ。
なあなあはいけません。
「ふーんだ。それなら明日の朝、寝起きに襲っちゃうから(暴力的に)」
寝起きに襲ってくるだとう!?
性的にあんな事やこんな事をされてしまうのか!?
「そ、それは是非とも歓げ……こほん。自重してくださいね」
ドアの隙間から覗くジト目が鋭くなったので、俺も自重しておく。
「ぶーぶー。リョウヤ君つまんないのー」
メグさんが急に子ども返りを起こしてるのですが。
きっと今まで色々我慢してた事が、反動になっているのだろう。
「はいはい、今度一緒に遊びますから。今日のところは大人しく戻ってください」
メグさんの背中をグイグイ押して戻らせる。
不満そうだけど素直に従ってくれるようだ。
少し移動したところで、メグさんが軽く振り向いた。
「ねえ、夜中に一緒にお風呂入ろうよ。一番奥の魔力泉のところで待ってるね」
「え?」
「じゃあね、また後で!」
俺の返事も聞かないで走って行ってしまった。
というか、夜中って何時よ。
その日の夜遅く。
俺はこっそりとお風呂セットを抱えて里の奥へ向かった。
一番奥の魔力泉は源泉から一番近い露天風呂だ。
簡単な屋根が設置してあって、天候関係なく楽しめるプライベート露天風呂なのである。
そんな場所でメグさんと二人きり。
何も起こらないはずも無く……。
「……って、なんでサヤイリス達がくっついてきてるんですかね」
屋敷を出てすぐ、背後から俺をつけてくる気配を感じたと思ったら、サヤイリスとウィオリアさんとマールさんの三人だった。
「こんな夜更けに、リョウヤ殿が一人で入浴なんて危険ですよ」
「私はせっかくなので、リョウヤ様のお背中を流そうかと」
「あたいも領主様と一緒に入りたいなあってね」
もうこうなったら誤魔化せないし、逃げられない。
あきらめて四人で向かう事にした。
プライベート露天風呂の脱衣所の前でメグさんが俺を待っているのが見える。
俺に気付いて手を振ってきた。
「あ、リョウヤ君! ……って、なんでみんないるの?」
「それはこちらのセリフですよ。なんでテルアイラさん達も一緒なんですかね」
メグさんの背後には、テルアイラさんとユズリさんとミンニエリさんが待ち構えている。
そのテルアイラさんがビシっと人差し指を突き出した。
「少年、メグと不純異性交遊なんてしようとするなんて、百億年早いぞ!」
メグさんの方も俺と同じだったようだ。
「不純異性交遊なんてしませんよ。というか、いつの言葉ですか。もう死語じゃないですか?」
俺が指摘すると、サヤイリス達三人も強く頷いている。
「確かに最近は聞かない言葉ですね」
「私は物語の中でしか聞いた事がないです」
「あたいが娘時代の頃でも既に死語だった気がするよ」
続いてユズリさんとミンニエリさんも頷く。
「テルアイラさんって、やはりそれなりの年齢だったんですね」
「お年寄りは敬わないといけませんね」
「お前ら……寄って集って私の事を年寄り扱いしやがって!! うがあああああ!!」
テルアイラさんが壊れて殴りかかってきた。
サヤイリスも巻き込んで殴り合いになってるし。
呆れて見物してると、メグさんに手を引かれた。
「先にお風呂入っちゃおうよ」
「そうですね……」
そんでもって脱衣所に来たのだが、プライベート魔力泉だけあって男女共用なのだ。
ここで着替えるとな。
「どうしたの? 脱がないの?」
「いえ、そうしたいのは山々なのですが」
ちゃっかりウィオリアさんとマールさんも入ってきてるし。
その二人からもガン見されている。
ここで俺が取る行動と言えば……。
「これなら女同士で安心ですね」
そうセキこ化である。
しかし、女性陣からの反応は散々だ。
「うわあ、リョウヤ君が日和ったー」
「リョウヤ様、それは悪手過ぎます!」
「領主様は、みすみすハーレムを逃すつもりなのかい!?」
やかましいわ。
俺は疲れてるから普通に温泉に入りたいんだよ。
「じゃあ、堂々と背中を流せるね!」
「私は頭を洗わせていただきます」
「あたいは……全身洗っちゃおうかなー!」
「あ、じゃあ私もー!」
「ズルいです! 私は胸を中心に洗って差し上げますね!」
その後、三人にめちゃくちゃ洗われた。
途中でテルアイラさん達も戻ってきて、それはそれは大変な事に……。
ゆっくり入浴どころの話ではなかったのである。
それから三日後、王都に戻る事にした。
支援作業が一段落したユキヒロさんと助手さん、テルアイラさん達、俺の両親を連れ帰るつもりだったのだが、マールさんとオドウラの親子が王都観光をしたいと言い出す。
族長のウィオリアさんに尋ねると、あっさり許可が出た。
「構いませんよ。二人は里のために働いてもらっていますし」
ただ、大っぴらにはするなとの事。
他の竜牙族が羨ましがって、大勢が行きたいと言い出したら大変になるからと。
まあ、そこはおいおい王都観光ツアーでも計画しますかね。
ちなみにだが、カイルさんには自由に鏡で行き来できる権限を与えているので、今頃は仕事に邁進している事だろう。
そんな訳で王都の俺の家にサクっと移動。
「あら、お帰りなさい。……今日はまた賑やかね」
「色々あってね。迷惑かけるけど、お茶とかお願いするよ」
「承ったわ」
出迎えてくれたメアが呆れ顔だ。
こんな大人数を転移させたのは初めてである。
「やっぱ我が家は落ち着くなー。少年、来客用のゲストルームを借りるぞー」
テルアイラさん。ここはあなたの家じゃないし、勝手知ったるなんとやらな感じで勝手に部屋を使わないでください。
「リョウヤ君、私もここに住んでいいよね? 弟のユンファオと同じ部屋でいいからさ」
「あ、メグさんズルいです! じゃあ私も住みます!」
「メグさんとユズリさんも住むなら、私も構いませんよね?」
メグさんはおろか、ユズリさんとミンニエリさんも住み着こうとしてるのですが。
月花亭のレンファが人手が足りなくて困るだろうよ。
「オド、あたいらも観光中はここに滞在させてもらおうか」
「そうっスね。流石は領主サマ! 太っ腹っス!!」
マールさんとオドウラの親子も便乗してるし。
「母さんや、我々もしばらく骨休めしようか」
「そうね。ルイとルインも呼んで、親子水入らずもいいわね」
あんたらは資材を南の新大陸に持ち帰るんじゃないのかい。
その資材は、テルアイラさん達のアイテム袋に収納されて持ち帰られ、我が家の庭にうず高く積み上げられてしまった。
何回かに分けて持ち帰ると言っていたので、しばらくは新大陸と我が家を往復するつもりなのだろう。
幼女よんちゃんとニャンブーが迷惑そうだから、早く持ち帰ってくれ。
流石にユキヒロさん達まで滞在すると言い出さなくて安心した。
仕事を残してるからと王立魔導機関に戻るそうだ。
一息ついたところで、俺が魔導力車でユキヒロさんと助手さんを送る事にする。
走り出してしばらくしたところで、ユキヒロさんが尋ねてきた。
助手さんは疲れが溜まってるのか、すぐに寝てしまったようだ。
「リョウヤ君、魔導力車の調子はどうだい?」
「すこぶる調子がいいですよ。それはそうと、人工知能を積んだ新型の方はどうなってます?」
「あれはねえ……コストパフォーマンスが悪すぎて、ワンオフになりそうだよ」
まあ、空を飛んだりするし量産化させるのは現実的ではないだろう。
「それよりも、今回の自己進化する機械人の件もあるから人工知能の扱いを考えないとね」
新型にはナビゲーションAIが採用されていた。
女神はギリギリセーフと言っていたが、いつ気が変ってもおかしくないだろう。
技術の進歩は早すぎても駄目らしい。
そんなこんなで二人を送り届けた後は、城へ状況報告に向かったのだが……。
大変な事になった。
しびれを切らした王妃様達に魔力泉に入らせろと詰め寄られ、遂に連れて行く事になってしまったよ。




