58 女の子になった。ついでに猫耳も生えた・2
「気を散り直して、お着替えの時間の続きだよ☆」
ロワりんが俺からピアリを引き離すと、強引に俺のジャージを脱がし始めた。
ひいぃ! セクハラだ!!
魔力を吸われて体に力が入らないので、まともに抵抗できない。
「やめろにゃ!」
「大丈夫、大丈夫。大人しくしていればすぐ終わるから☆」
いや、それ絶対に嘘だ。
その手の大丈夫は信用ならん!
「まったく、セッキーは手間を掛けさせるやつだな」
しれっとミっちゃんも脱がしてくるのかよ!?
「セッキーさんの体がちゃんと女の子になっているか、確かめたいですの」
メルさまこのやろう、後でおぼえておけよ!!
「セッキー君、普段いじられる側の気持ちって考えた事がありますか?」
地味にアンこ先輩の顔も怖いんですけど!?
みんなからされるがままになっていると、妙にピアリの視線を感じる。
先程の事もあって、見られてると恥ずかしいのだけど……。
というか、今更になって唇を奪われた事へのショックを実感する。
この体をピアリに見られるのは、なんか嫌だ!!
「ちょっと待つにゃ! ピアリが見ているにゃ! あいつは男だにゃ!」
俺は必死に訴えるのだが、取り合ってもらえない。
「セッキー、にゃーにゃーうるさいよ!」
「セッキーよ。何を言っているのだ? ピアっちは男でなくピアっちだぞ」
「性転換薬の副作用で、セッキーさんの頭がアレになったのかも知れませんの。お可哀想に……」
「セッキー君、ピアっち君を仲間外れにするのはダメですよ!」
みんな酷すぎる!!
結局されるがままに服を脱がされてしまった。
みんなに裸を見られるなんて、どんな羞恥プレイだよ!
「……ねぇ、可愛そうだからリョウヤ君に下着くらい用意してあげようよ」
こちらをなるべく見ないようにしてくれているピアリが気遣ってくれた。
ありがとう、わが友よ!
「確かにそうだね。下着は購買で買って来るとして……。脱がしてみて気付いたけど、着やせするタイプか」
ロワりんが俺の胸をガン見している。
「問題はブラだな。我々にあのサイズに立ち向かえる者はいるのか……」
ミっちゃんが強敵と対峙するような顔で、やはり俺の胸をガン見する。
「私には異次元の存在としか思えませんよう。セッキー君って凄いです……」
アンこ先輩が自分の胸を押さえ、嫉妬と羨望が入り混じったような眼差しを送ってくる。
先輩にそんな目で見られたくないんですけど。
「このサイズで可愛らしいのは、売っているでしょうか……」
メルさまがどこから出してきたのか、メジャーで素早く俺のバストサイズを測ってメモに書きだしている。
一応は可愛い下着を選んでくれるのね。
「納得いかない数値ですが、このサイズの物を用意すれば大丈夫と思いますの」
メルさまがロワりんにメモを手渡した。
「それじゃ、私がひとっ走りしてくるよ☆」
そのままロワりんが部屋を飛び出して行った。
フットワーク軽いなぁ。そこは素直に感心してしまう。
ロワりんを待つ間、俺はみんなに二の腕をつままれたり、体のあちこちを触られるセクハラ行為を受けていた。
いくら抗議しても、やはり取り合ってもらえない。
まるで捕まえた獲物を弄ぶ捕食者だ
果たして綺麗な身体のまま、この部屋から出られるのだろうか……。
それから程なくして、ロワりんが戻ってくる。
そして、いきなり買い物袋を俺に叩きつけてきた。
「屈辱だ! 購買のおばちゃんに『そのサイズは、あなたには合わないよ。夢を見るのは寝ている間だけにしておきなさいね』って言われたよ!! こんちくしょう!!」
涙目で顔を真っ赤にして叫んでいる。
その場にいる全員が複雑な表情を浮かべ、誰一人としてロワりんに慰めの言葉を掛けられる者はいなかった。
早速下着を着用してみるのだが、ブラのホックが留められない。
今までそんな事をしたことがなかったので、やり方を知らないんだよう。
途方に暮れていたら、メルさまが手伝ってくれた。
まったく、なんでこんな事で苦労しなくちゃならないんだ……。
気を取り直して、彼女達が用意してくれた私服や制服をとっかえひっかえ試着してみる。
……案外、似合ってるんじゃないか?
調子に乗って、先日ミっちゃんが試着して恥ずかしがっていたセーラー服風のワンピースも着てみた。
少し胸が苦しいので胸元のボタンは全開だ。
しかし、スカート丈が結構短いな……。物凄くスースーして落ち着かない。
思わず内股気味になって裾を押さえてしまう。
「どうだ。私の気持ちが少しは理解できたか?」
ミっちゃんが勝ち誇ったかの様にスカートをめくってくる。
そんなオッサンみたいな事するのやめて!
気付くとメルさまと先輩がマジマジと俺の姿を観察していた。
これ以上、俺の何を調べたいんですかね。
「中々よろしいのではないですか? ……胸以外」
「うん、とっても似合ってますよ。セッキー君。……胸以外」
なんだか引っ掛かる言い方ですね。
そこへロワりんも入ってきた。
「割といいんじゃない? ……胸以外。よし、今日からキミは『セキこ』と名付けよう!」
ロワりんに変な名前を付けられた。相変わらずおかしいセンスだ。
「セキこちゃん! 私とお揃いの名前ですね」
先輩がニコニコしながら俺の手を握る。
こんな嬉しそうな顔を見てしまったら、拒否できないじゃないかよう。
「セキこさん、せっかくなので少しメイクもしてみませんか?」
俺の髪を整えていたメルさまが、妙案だと言わんばかりに提案してきた。
そのままあっという間に、あれよこれよといじられてしまった。
「手持ちの化粧道具が最低限の物しかありませんが、お肌も綺麗ですし、これは化けますの!」
メルさまが手慣れた感じで下地を整え、薄くファンデーションを塗り、目元を少しいじって、仕上げにリップを塗ってくれた。
やべえ、女子力が高いわ……。
再び姿見の前に立つと、どこからどう見ても可愛い猫耳の女の子の姿だった。
なんとなく嬉しくなって、鏡の前でくるりと一回転してしまう。
……何をやってるんだろう俺、と我に帰る。
恥ずかしがる俺を見て、ロワりんとミっちゃんに冷やかされてしまう。
「セキこも女の子らしくなってきたじゃないか☆」
「ひょっとして、自分の事が可愛いとか思い始めたのか?」
悔しいが図星である。
照れ隠しで、二人をポカポカと殴りつけた。
そんな俺を思案顔で見ていたメルさまが、真面目な声で言った。
「もうセキこさんの心は、体の影響を受け始めていますね。これからもっと女性の心になっていくと思いますの。恐らく今夜辺りがピークで、その頃には身も心も女性になっているかと」
とても恐ろしい事をサラっと言われた気がする。
そこに先輩が追い打ちを掛けてくる。
「それならば、セキこちゃんの言葉遣いも直しておいた方が良さそうですね」
妙案だとばかりに、ミっちゃんがポンと手を叩く。
「まず『俺』は禁止だな。無難に『私』がいいだろう」
そう言いながら、ミっちゃんが俺のお尻を触ってくる。
セクハラオヤジみたいな行為は本当に止めてほしい。
続けてロワりんも無茶な事を言ってきた。
「語尾の『にゃ』もなんかイラっとするから、禁止ね。分かったら返事は?」
理不尽だ。これは自分の意思じゃないのに……。
でも、多勢に無勢である。
反抗しても、ここでは言えない事をされてしまうに違いない。
悔しいけど、頷く事しかできなかった。
「わ、分かりました……」
語尾に『にゃ』が出そうになったのをなんとか飲み込む。
それからみんなに女の子の言葉使いや、仕草等を叩きこまれる。
それらは不思議と嫌な気がせず、すんなりと受け入れる事ができてしまった。
◆◆◆
「セキこの教育も完璧だ! これから出掛けよう☆」
ロワりんが俺……私の手を掴んで部屋の外へ出ようとする。
「ちょっと! どこに連れて行くの!?」
こんな姿で部屋の外なんて行けないよ!
「もちろん羞恥プレ……セキこの可愛さを周囲にアピールしに行くんだよ!」
今、羞恥プレイって言いかけたよね。
なんとなく彼女達の玩具にされるとは思っていたけど、もう諦める事にした。
メンバールームを出たところで、運悪くベルゲル先生と鉢合わせをしてしまう。
このタイミングは狙い過ぎていない?
「おう、みんな揃ってお出掛けか? ところでリョウヤを探しているのだが、どこにいるか知らないか? 部屋にいなかったので、こっちに来てるかと思ってな……」
先生がそう尋ねると、全員で私の事を指差した。
「お前らふざけてるのか? この子のどこがリョウヤなんだ?」
先生が私を凝視してくるので、思わず胸元を隠す。
尊敬する先生に性的な目で見られたくない。
困惑する私に構わず、ロワりんが説明する。
「彼女は正真正銘のセッキーだよ。今は性転換薬でセキこになっているけど」
先生が一瞬固まる。
「……徹夜明けで俺も疲れてるのかなぁ。朝風呂入って寝るわ」
現実を直視するのを放棄した先生がこの場から去ろうとした。
そんな先生をアンこ先輩が呼び止めてしまう。
ここは素直に帰ってもらってくださいよう。
「先生、待ってください! 私達のパーティーの謹慎は、いつ解除されるのですか?」
それは今ここで聞く事なのでしょうかね。
だけど、先輩としてはペナルティでパーティーとしての活動を停止させられてしまった事で、普段通りに見えても内心焦っていたのかも知れない。
振り返った先生は面倒そうに頭をかいた。
「そうだな……、一ヶ月は大人しくしているんだな。その間にできる準備はしておけよ」
そう言い残して先生は去って行く。
「一ヶ月ですか……」
固い表情のアンこ先輩は去っていく先生の後姿にお辞儀をした。
「せんぱーい、今日は難しい事は抜きで楽しもうよ☆」
ロワりんが先輩の顔を揉みほぐしている。
楽しもうって、誰で楽しむつもりなのかなー。
「ふへぇ。顔をもみもみしないでくださいよう」
先輩の表情が明るくなってきたところで、私はみんなに予備校内のあちこちを連れ回された。
流石に校外へは連れ出されなくて、ホッとしたけど。
一通り歩き回り、校舎裏でお昼前のおやつ休憩だ。
気付いたら、朝からまともに何も口にしていなかったんだっけ。
「先程から、すれ違う皆さんがセキこさんの事を可愛いいと仰っていますの」
メルさま、そんな誇らしげに言っても、私にやった事は最低だからね。
一方、ピアリはどこか不満げな顔をしている。
どうしたのかな?
「でもさ、男子からの視線も多かったよ。セキこの胸ばかり見て、いやらしい視線ばかりだったけどさ」
私の代わりに怒ってくれているのか。
やはり、持つべきものは友だね。




