59 女の子になった。ついでに猫耳も生えた・3
「おや、みんなお揃いでこんな場所で何をしているんだい?」
休憩している私達にケフィンが声を掛けてきた。
他にもレイズにノノミリア、ゲンゲツさんとレイメイさんも一緒だ。
そんな彼らに、アンこ先輩が人当り良く答える。
「こんにちは皆さん。私達はお散歩をしていまして、ちょっと休憩中していたところなのですよ」
「お互い活動停止の身では、活動らしい活動ができなくて辛いところだね。僕達は自主的に戦闘訓練をするところなんだ。……ところで、リョウヤ君の姿が見えないね。彼はどうしたのかな?」
ケフィンがキョロキョロと辺りを見回しながら言うと、ロワりん達が再び私の事を指差した。
すっかりネタキャラの扱いだ。
「彼女がリョウヤ君だって? あまり笑えない冗談だね。確かに見掛けない顔の子だけど……」
ケフィン以外のメンバーも戸惑っているみたい。だけど、レイズだけが何故か私の事をずっと見ている。
……何か視線に熱い物を感じて怖い。
ロワりんがさっき先生に言った様にケフィン達に説明する。
「彼女は正真正銘のセッキーだよ。今はメルさま処方の性転換薬でセキこになっているけど」
それを聞いてノノミリアが目を丸くした。
「何それ!? ……ふむふむ。これ普通の猫の耳じゃないよね。結構いじった薬でしょ? ちょっと詳しく聞いていい?」
ノノミリアが私を触りながら、メルさまに食い付いている。
どさくさに紛れてあちこち触らないでほしいなあ……。
「ええ。もちろん構いませんの」
そんな二人を横目にケフィンが私に向き直って顔を寄せてくる。
思わず本能的に胸元を隠してしまう。
よく分からないけど、男の人に急に近付かれると緊張する様になってしまった。
距離を取るために後ずさるけど、その分距離を詰められてしまう。
とうとう校舎の壁まで追い詰められてしまった。
「本当に君がリョウヤ君なのか? にわかに信じられないが……」
「ほ、本当ですよ。メルさまの怪しい薬の実験台になって、こんな姿になりました」
そう言った途端、ケフィンが壁ドンしてきた。
もちろん、人生初の壁ドンである。
いきなりの事で気が動転してしまう。しかも顔が近いよ。
……よく見るとケフィンって、綺麗な目をしてるんだなあ。
見つめられると吸い込まれそうな目だった。
「あ……あの、なんでしょうか?」
多分、顔が赤くなっていたと思う。
胸も高鳴っていたのかも知れない。
彼はイケボで囁いてきた。
「君に僕の一発芸……じゃなくて、芸術表現を見て欲しい」
それって、いつだったかの人間風車ですかね。
警戒する私に構わず、彼はズボンのベルトに手を掛けた。
その行為に咄嗟に目を背ける。
我ながら、随分と乙女な反応だったと思う。
その反応を見た彼が喜色満面の笑みで小躍りし始めた。
「ははは! これだよ! この反応が見たかったんだよ、僕は!! たーのしー!!」
残念イケメンが無邪気に笑っていた。
なんだか一気にさめた私は、みんなの所に戻る。
「大丈夫!? 変な事されなかった?」
真っ先に駆け付けたピアリが私の事を心配してくれている。
こういう風に気遣ってくれるのって、凄く嬉しくなるな。
「えっとね、チ〇コ見せられそうになった……」
女子が言ってはいけない単語だが、元は男だから見逃してください。
「ちょっと、ケフィン! そんな事をしていると本当に捕まるよ!! 家名に傷を付ける事になってもいいの!?」
珍しくピアリが本気で怒ってくれている。
「心配には及ばないよ。僕も相手を選ぶからね」
まるでその辺で用を足してきたオジサンっぽく、ベルトを締め直しながらケフィンが戻ってきた。
そもそもが相手を選ぶとか、そういう話じゃないから。
ケフィンの一連の行為を見ていたゲンゲツさんが気色ばんだ。
「ケフィン、まさかお前! 見せたのか!?」
レイメイさんも非難めいた目でケフィンを睨む。
「相手はリョウヤ君でも今は女性ですよ。それを見せつけるなんて……」
二人とも一応従者なんだから、駄目な主人をしっかりと叱ってください。
後、ギリ見せられてないからね。
「俺も見せたかった!」
「私も見せたかった!」
……やっぱり駄目だ、この人達。
本気で脱力しているとレイズが近付いてきた。
「先輩……何を見せたんですか? 新しい技ですか!?」
「レイズ、君にはまだ早いよ」
ケフィンが突き放した様に言い放つ。
いや、早いも遅いもないと思うのだけど……。
「何故ですか!?」
尚も食い下がるレイズにゲンゲツさんとレイメイさんが、諭す様に言った。
「お前にはまだ見られる訳にはいかないのだ」
「世の中には知らなくていい事もあるのですよ」
確かに見せる物じゃないし、私は知りたくもなかったよ。
「……くそっ。先輩達はいつもそうだ。お前にはまだ早いって。一体いつになったら、俺の事を認めてくれるんですか!!」
レイズがケフィン達を睨む。
怒りで握った拳が小刻みに震えている。
えぇ……。いきなりのシリアスモードですか?
しかも理由がとんでもなく最低なんだけど。
レイズの大声に驚いたアンこ先輩がオロオロしているけど、その他のうちのメンバーは、誰一人として気にしようともしていない。
ノノミリアでさえ、こちらをチラッと見ると、すぐにメルさまとの会話に戻ってしまった。
みんな薄情だよ。
なんだかレイズが少し可愛そうになったので、フォローしてあげた。
「あのね、私が見せられそうになったのは技とかじゃないんだよ。……なんというか、一発芸みたいなモノ? だからそんなに気にしないでくれると嬉しいかな?」
固く握られたレイズの拳にそっと触れ、上目遣いで伝えてみた。
「あ……。う、うん、キミがそう言うなら……」
何故か顔を赤らめたレイズが、私から顔を逸らして頷いた。
そんな彼の様子を見て、ロワりんとミっちゃんが無責任な事を言ってレイズを煽ってしまう。
「おやおや。レイズ君はセキこさんに惚れてしまったのかなぁ?」
「間違い無いな。あれは下心しか存在しない目つきだ。さっきから胸元しか見ていないのがその証左だ」
「おい! 勝手な事を言うのを止めろよな!!」
レイズが真っ赤な顔で否定するが、益々火に油を注いでしまう。
そして、アンこ先輩までもが悪意の無い追い打ちを掛ける。
「こんな風に否定する場合は、図星なんですよね」
レイズは何も言い返せなくなって、黙り込んでしまった。
流石に気の毒になってきたけど、あの人達に狙われたら飽きるまで玩具にされるしかない。
現に私だって、変な薬を飲まされて玩具にされてるし……。
げんなりしていると、ピアリがジト目で見てくる。
「キミって、男たらしでもあるんだね……」
いきなり失礼な!
でも逆ハーレムとかってのも有りなのかな……。
完全に乙女脳になって想像していたら、ニヤニヤしていたらしい。
ピアリに頬っぺたを両手で引っ張られてしまった。
なんだか今日のピアリは、私への当たりが厳しくない?
伸ばされた頬っぺたをさすってると、ノノミリアの驚いた声が聞こえてきた。
「ええっ!! 薬にそんなアレンジしたのですか!?」
「ええ。独自に調整した性転換薬にネコ系の魔獣の魔石の粉末を少し混ぜましたの」
メルさまの発言が不穏なのですが。
「だからリョウヤ……セキこちゃんの耳が、普通の猫獣人の耳ではなかったんですね」
「流石です、ノノじさん。見ただけでお分かりになられたのですね」
「まあ、あたしも伊達に猫耳が生えてる訳じゃないので。でもそうすると、セキこちゃんって、獣人より魔獣に近いって事?」
「そうなりますの」
なんですと。
「ちょっと!! 魔獣って、なんてモノを飲ませてくれたの!!」
思わずメルさまに食って掛かった。
人体実験にも程があるでしょ!
「薬はきちんと効いたのですから、良かったのでは?」
心外だと言わんばかりのメルさまの反応が怖くなった。
素で言ってるのか、ふざけてるのか窺い知れない。
この人はサイコパスですかね?
「セキこちゃんも色々大変だねー」
ノノミリアが私の猫耳を触りながら同情してくれた。
まともに気遣ってくれるのは、ノノミリアだけだよう。




