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【本編完結】神様のうっかりで転生時のチートスキルと装備をもらい損ねたけど、魔力だけは無駄にあるので無理せずにやっていきたいです【修正版】  作者: きちのん
第三章

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57 女の子になった。ついでに猫耳も生えた・1

 メルさまの回復薬作りを手伝ってから間もない日の朝、朝食前の身支度をしていたら部屋にメルさまがやってきた。

 こんな朝からなんて珍しい事もあるな。


「セッキーさん、少しばかりお時間を拝借してもよろしいですか?」


「大丈夫だけど、なんですかね?」


 メルさまが小さな小瓶を俺に差し出してきた。


「先日、手伝っていただいたお礼です。滋養強壮の薬なので、どうぞグイっと」


 得体の知れない薬を差し出されて、いきなり飲めと言われて飲めるものではない。

 どう見ても怪しさしか感じられないのですが。


「えっと、これなんですか?」


「ですから、滋養強壮の薬ですの。どうぞ一息にグイっと。……まさか、わたくしの感謝の気持ちを蔑(ないがし)ろにされるのですか?」


 まったく答えになっていない。

 そして、意外に面倒である。

 それは前回の言い争いで、嫌と言うほど痛感した。


 助けを求める様にピアリの方を見たが、ニコニコしているだけで助けてはくれなさそうだ。


「せっかくだから、早く飲んでみたら?」


 しかも急かしてくる。まさかグルなのか!?

 メルさまの視線も気になるので仕方がない。

 ここは男らしく一気に飲むか。

 俺は観念して、手渡された薬を一気に飲み干した。


 ……味は不味くない……かな。

 なんとなく、スポーツドリンクを彷彿とさせる風味だ。


「お口に合いましたか? それでは、わたくしはこれで」


 そう言い残してメルさまは、そそくさと部屋から出て行ってしまった。



「……なあ、今の薬ってなんだったのかな?」


 急に不安になってきたので、隣にいるピアリに聞いてみた。


「さあ? ボクは知らないよ」


 目が泳いでいるので、明らかに何かを知っているはずだ。

 問い詰めようとすると、急に身体が火照ってきて体のあちこちが痛くなってきた。

 そして頭が痒(かゆ)い。


 はげしく痒い……かゆい、うまい……かゆ……うま。


 って、冗談を言ってる場合じゃない!

 俺はそのまま床に座り込んでしまった。


 これは一服盛られたのか!?

 俺、メルさまに何か恨まれるようなことしたかなぁ……。

 このまま走馬灯を見る事になるのかと、不安に駆られて床でのたうち回っていたら、ふいにピアリに抱きかかえられた。

 あれ? ピアリってこんなに力があったっけ?


 そして、体の不調も嘘の様にいつの間にか治まっている。

 ……なんだか首元がさわさわしてくすぐったいな。

 触れてみると、これは髪の毛か?

 俺こんなに髪が長かったか?


 んん〜? 俺が首を捻っていたら、ピアリが俺を抱きかかえて姿見の前に立たせる。


 ──そこには、華奢な手足で可愛らしい猫耳の女の子の姿が映っていた。


 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

 取り敢えず深呼吸して、鏡に映った女の子に手を振ってみる。

 すると、鏡に映った子も同じ様に手を振っている。

 恐る恐る隣にいるピアリの顔を窺うと、ピアリがにっこりと頷く。

 一気に血の気が引いた。


 なんて事をしてくれやがったんだ!

 慌ててメルさまがいるはずのメンバールームに駆け込んだ……はずだが、足がもつれて盛大にすっ転んだ。


「にゃっ!!」


 変な声が出た。そんでもって無様に床を転がる。

 体の感覚がおかしいのか、上手く動けない。


「焦ったら駄目だよ。ゆっくり歩こうね」


 そう言って、ピアリが再度俺を抱きかかえて立たせた。

 そのまま手を繋がれてメンバールームまでゆっくり歩く。


 ……なんだこの状況。

 とにかく冷静になって考えてみる。

 これは明らかにメルさまの薬の影響だよな。しかし、なんで猫耳の女の子になってるんだ?

 結局答えは出ないまま、メンバールームに到着した。


 ピアリに手を繋がれたまま部屋に入ると、わっと歓声が上がる。


「うわなにこれ! 可愛すぎて反則なんだけど☆」


「これがセッキーなのか!? にわかに信じられないな……」


「セッキー君は女の子になっても可愛いですねえ!」


 いきなりみんなに囲まれてもみくちゃにされた。

 ロワりんは興奮しっぱなしだし、ミっちゃんは珍獣を見る様な目をしてるし、アンこ先輩はいつも以上に瞳をキラキラさせている。

 リリナさんは遠巻きに、信じられない物を見たかの様に呆気に取られていた。


 その一方、メルさまが小さくガッツポーズを取っている。


「一時的に性転換する薬の実験は上手くいきましたの」


 ちょっと待てい。俺は薬の実験台だったのか!?

 そして、この場にいる全員がグルだったという事か!?


「なんてことをするにゃ! 人の体で遊ぶんじゃないにゃ!!」


 怒鳴ったのだが、可愛い声になってるし、語尾までなんだかおかしい。

 体だけでなく、声や話し方まで変わってしまったみたいだ。


 愕然としていると、いきなり背後から抱き上げられた。


「もう我慢できない! 抱きしめさせて!!」


 いきなり抱きついてきたリリナさんに、嫌と言うほど頬ずりをされてしまう。

 普段なら嬉しいけど、この状態では複雑な気分だ。

 そんなリリナさんに、ロワりんが無慈悲な言葉を投げかける。


「そんな事してないで、リリナは早く仕事に行ってきなよ」


「うううぅ……今日は休みたいけど! メディア校長が出席する会合に同行しなくてはいけないから、休めないのっ!!」


 リリナさんが頭を抱えて悶えている。

 そして、意を決したかの様に俺の頬を両手で包んだ。


「早く帰ってくるから、それまで待っててね!」


 そう言い残して、彼女は文字通り泣く泣く仕事に向かった。

 社会人って大変だな……。


 漠然とリリナさんを見送っていると、満面の笑みを浮かべたロワりんが服を何着か手に持って近付いてきた。


「皆さんお待ちかね、お着替えの時間だよ〜☆」


 背筋がぞわっとした。

 これは本能がヤバい状況だと訴えかけてる!

 思わず逃げようとするも、ミっちゃんに首根っこを掴まれてしまった。


「しかし、よく見るとセッキーとは思えない可愛さだな……」


 そんな間近で見つめられると、恥ずかしいのだけど。


「確かに可愛らしいですの。思わず腹が立つぐらいですの。……早く脱がしましょう」


 メルさまは相変わらずの理不尽かつ横暴だ!

 この諸悪の根源め!!


「セッキー君、私もお着換えを手伝いますからね〜」


 アンこ先輩が笑顔で俺のジャージを脱がしにかかってくる。

 やめて! 先輩はそんなキャラじゃないでしょ!


 これは本気でマズい。

 このままでは彼女らの玩具にされてしまう! 俺は必死に抵抗した。

 だけど、ミっちゃんに簡単に組み伏せられてしまった。


「ピアリ! 助けてにゃ!」


「リョウヤ君がボクを頼ってくれるなんて、嬉しいな!」


 ニコニコ笑顔のピアリが彼女達から俺を引き離してくれた。

 やはり、持つべきものは友だ!



「ピアっち、私達を裏切るのか!?」


 ミっちゃんが声を荒げた。


「裏切るだなんて、とんでもない。ボクはリョウヤ君がこうやって頼ってくれる事が嬉しいんだよ」


 そう言うと、心なしか目が怖いピアリが俺を強く抱きしめる。

 予想以上の力強さに身動きが取れない。

 そして、とろんとした目で俺の髪を撫でる。


 ……これ、なんかヤバくないですかね?


「ちょっと……ピアっち?」


 只ならぬ状況に、ロワりんが不安そうな声をもらした。



「今のキミは女の子だから……問題ないよね?」


 え? ピアリさん? 何をするんですかね!?

 身動きが取れないまま、いきなり唇を塞がれてしまった。

 それを見たロワりんが悲痛な叫びを上げる。


「なんでさーーーーっ!!!」


 いや、俺の方が叫びたいよ!


 そんな状況で、笑顔のメルさまが先輩の目を塞いで見えない様にしている。


「え? え? 何が起こったのですか? 何も見えませんよ!? セッキー君はどうなったのですか?」


「アンこさんにはまだ早いですの」


 メルさま、ナイス判断だ!

 って、それどころじゃないよ!


「くそっ! ノーマルカップリングなのに、なんて尊いのだ……!」


 ミっちゃんが訳の分からない事をつぶやいて、床に拳を打ち付けている。

 そんな事より早く助けてくれよ!


 突然の事で俺はされるがままだった。

 断じてキスされて、とろけてしまったとかのロマンチックな話ではない。


 ピアリが俺の魔力を吸い取っていたのだ。

 ガッチリと抱きしめられて身動きが取れない。

 酸欠なのか魔力を吸い尽くされたのか分からないが、意識が朦朧(もうろう)としてきた。


「キミの魔力はクセになる味だね……」


 恍惚の表情で舌なめずりをしながら、ピアリが俺に囁く。

 ようやく解放されたものの、俺は腰が抜けてそのままへたり込んでしまった。


「おいピアっち! 何してくれてるんだよ! 抜け駆けってレベルじゃないよ!!」


 涙目のロワりんがピアリの両肩を掴んで揺さぶっている。


「……あれ!? ボク、一体何をして……」


 今、我に返りましたみたいな表情になったピアリが急に狼狽(うろた)え始めた。

 床にへたり込んで放心している俺を見て状況を悟ったのか、土下座する勢いで半泣きで謝ってきた。


「ゴメン! ボクとんでもないことを……!」


 他のみんなは『仕方ないなあ』って感じの呆れ顔だ。

 どうやら俺以外には、単にピアリが興奮して暴走しただけにしか見えなかったのかも知れない。

 それなら話をややこしくする必要はないよな。


「……魔力吸収の事は、後で詳しく聞くからにゃ」


 俺は目の前で膝をついて謝るピアリの耳元でそっと囁くと、そのまま抱きついた。


「ピアリが乱心するぐらいに俺が可愛すぎたって事だから、謝る必要はないにゃ!」


 安心させるために精一杯の笑顔で伝える。


「リョウヤ君……」


 ピアリが涙を拭いながら俺を抱きしめる。

 そこへロワりんがプンスカしながら近付いてきた。


「なんだかいい雰囲気になってるけどさ、納得いかないからね!!」


 何故か俺がペシペシと叩かれる。解せぬ。

 叩くならピアリの方にしてくれよ。


「ロワりんさん、お二人の仲の邪魔をするのは野暮ですの」


 いい事を言ってる風だけど、元はと言えばメルさまが元凶だからな。


「ぐぬぅ……やはり尊い」


 ミっちゃんはいい加減に現実に帰ってきなさい。


「何があったのですか? 急に視界が真っ暗になったのでまったく分かりませんよう!」


 先輩はそのままの先輩でいてくださいね。


 何はともあれ、ピアリの暴走を誤魔化す事ができて良かった。

 ……って、俺の体はどうするんだよ。

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