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Replica  作者: 根岸重玄
登校騒乱編
60/346

矛盾の解消法、都合のいい記憶改竄

 2036年6月7日午後4時44分


「《俯瞰(ふかん)地図(ちず)

 《天空(てんくう)召喚(しょうかん)――“狂魔狼形態(モード・フェンリル)”》ッ!!」


 ――《無貌(むぼう)》の男の声と(とも)に、天乃(あまの)視界(しかい)(ゆが)む。

 そこから(またた)きの(あいだ)圧迫感(あっぱくかん)浮遊感(ふゆうかん)()て、視界(しかい)景色(けしき)(ゆが)みが解消(かいしょう)されていく。

 しかし、次に(ひら)けた視界(しかい)(うつ)ったそこは、先程(さきほど)部屋(へや)とよく()ていたが、広さが(ちが)う。

 個室(こしつ)と言っても()し支えないほどの(せま)さしかない。

 完全(かんぜん)(べつ)場所(ばしょ)である。


(うッ、()()が。これはッ、空間(くうかん)転移(てんい)ってやつか……

 (たし)か、実在(じつざい)確認(かくにん)されている魔術(まじゅつ)ではあるものの、使用者(しようしゃ)は片手で(かぞ)えられるほどに稀少(きしょう)で、かつ()てしなく難易度(なんいど)が高いものだったはずだ。

 ッたく、文字通(もじどお)り、()()()()()なのかよッ)


 天乃(あまの)(むね)にこみ上げる不快感(ふかいかん)()(はら)おうとしつつ、空間(くうかん)転移(てんい)可能(かのう)魔術(まじゅつ)に関して、書物(しょもつ)(かじ)った知識(ちしき)を思い出す。

 そのまま(あた)りを見回して確認(かくにん)してみると、一緒(いっしょ)移動(いどう)したであろう《無貌(むぼう)》の男はおらず、()わりに別の先客(せんきゃく)がいたことに気付(きづ)く。

 天乃(あまの)が見た(かぎ)り、それは年齢(ねんれい)四十代(だい)後半(こうはん)から五十代(だい)前半(ぜんはん)くらいの私服姿(しふくすがた)の男性であったが、天乃(あまの)突如(とつじょ)として(あらわ)れたにもかかわらず、ちらりと一瞥(いちべつ)しただけで、(ふたた)手元(てもと)書物(しょもつ)に目を落とす。

 そこから(たが)いに無言(むごん)数秒(すうびょう)()つと、今度は書物(しょもつ)付箋(ふせん)()して()じた男性が顔を上げ、天乃(あまの)視線(しせん)を合わせる。


「悪いね。ちょうどこの(ほん)(かく)となる難解(なんかい)箇所(かしょ)だったから。

 またわかるように切りのいいところから読み(なお)すのは、時間の無駄(むだ)ってものだろう?」

「いえ、気にしてません」


 わかったようなわからないような言い(わけ)をしつつ、(やわ)らかな笑顔(えがお)()かべた男性は、すぐに「(ぼく)の名前は三俣(みつまた)景史郎(けいしろう)」と(みずか)名乗(なの)りを上げる。


本職(ほんしょく)研究者(けんきゅうしゃ)なんだけどね。

 昔取(むかしと)った杵柄(きねづか)ってやつで、最近では臨時(りんじ)講師(こうし)として大学(だいがく)教鞭(きょうべん)をとったりもしている。

 君を《俯瞰(ふかん)地図(ちず)》で()ばした彼とは、まぁ(ふる)(かお)馴染(なじ)みだ。

 君が、天乃(あまの)君ということでいいのかい?」

「はい、天乃(あまの)(しん)です。

 早速(さっそく)失礼(しつれい)ですが――」


 天乃(あまの)は、挨拶(あいさつ)もそこそこに、本題(ほんだい)へと入る。

 おそらく、ここでの情報(じょうほう)収集(しゅうしゅう)がないと『()む』という“直観(ちょっかん)”に突き動かされながら。


「――ここは、どこで、あなたは何をしているのですか?」


 それに対し、三俣(みつまた)明朗(めいろう)な声で返答(へんとう)する。


「ここは、僕の研究室(けんきゅうしつ)だよ。

 うーん。でも、ここで何を、と言われると何とも言い(がた)いね。

 ただ、簡潔(かんけつ)に言うとね、軟禁(なんきん)されているのさ。

 うん、かれこれ一週間(いっしゅうかん)くらいになるんだけどね」


 2036年6月7日午後4時44分


「がッああぁぁぁああぁ――」


 殺風景(さっぷうけい)地下室(ちかしつ)の何もない空間(くうかん)から突如(とつじょ)として出現(しゅつげん)したその《無貌(むぼう)》の男は、そのまま(ひざ)から(くず)れ落ち、(はばか)ることなく苦悶(くもん)の声を上げると、盛大(せいだい)吐血(とけつ)する。

 そして、一頻(ひとしき)りのた()ち回った後、全身(ぜんしん)苦痛(くつう)倦怠感(けんたいかん)()(ころ)し、ふらつきつつもなんとか立ち上がる。


「おぉ、まだ立つのか?

 で、どうする? 今日(きょう)はもう()めにしとくか?

 時期(じき)が悪い、都合(つごう)が悪い、体調(たいちょう)が悪い。

 ついでに(うん)まで悪いと来た。

 中止の言い(わけ)だけはたんまりとあるぜ?」


 《無貌(むぼう)》の男の出現(しゅつげん)とほとんど同時に室内(しつない)に入ってきていた間森(まもり)が、《無貌(むぼう)》の男に挑発的(ちょうはつてき)な声を()ける。


()かせッ! (だれ)に、口を、()いている。

 無論(むろん)(だん)じて続行(ぞっこう)だッ! そのために、俺はッ――」

「そう来なくっちゃあな。

 だと思って、こっちの段取(だんど)りはもう()ませておいた。

 なあに、ちっとばかし苦戦(くせん)したが、本来は狙撃(そげき)より()()()専門(せんもん)でね。

 んで、あとは、(しん)だが――

 どうやら教授(きょうじゅ)()(さら)っていったみたいだな」

「ハッ、仕方(しかた)あるまい。

 あのままでは2人とも虚空(こくう)に飲み()まれるところであったが(ゆえ)な」


 (めずら)しく自身の落ち度を(みと)めた《無貌(むぼう)》の男は、教授(きょうじゅ)こと三俣(みつまた)独断(どくだん)容認(ようにん)する。


咄嗟(とっさ)()れないことをするからだな。

 いくら再現(さいげん)できるとはいえ、習熟(しゅうじゅく)しなければ使いこなせないんだろ?」

「ふん、この俺を貴様(きさま)(ごと)凡俗(ぼんぞく)同列(どうれつ)(かた)るな。

 俺一人であれば、このとおり、転移(てんい)ですらも造作(ぞうさ)もない」

「へいへい。それだけ()らず口を(たた)けるなら十分(じゅうぶん)だな。

 ちょっと()()()()()()()()()()()()()のなんて、些末(さまつ)問題(もんだい)、だろ?」

「――(しか)り。強力(きょうりょく)手札(てふだ)をこの終盤(しゅうばん)にきて()()()()()使()()()()()のは、非常(ひじょう)に大きい。

 また、状況(じょうきょう)次第(しだい)では自傷(じしょう)(かな)うという発見(はっけん)好材料(こうざいりょう)、いやむしろ僥倖(ぎょうこう)ですらあったと言える。

 亡霊(ぼうれい)行動(こうどう)制限(せいげん)にも()()(すき)があるという情報(じょうほう)(あたい)千金(せんきん)だとも。

 ハッ、突発的(とっぱつてき)だったとはいえ、()にかけた甲斐(かい)はあったというものだ」


 そういって、《無貌(むぼう)》の男は口腔内(こうこうない)(のこ)っていた血の(かたまり)()()て、口元(くちもと)(そで)(ぬぐ)う。

 《無貌(むぼう)》の男の臓器(ぞうき)(うしな)ったことに(たい)する感想(かんそう)は、完全(かんぜん)破綻者(はたんしゃ)思考(しこう)回路(かいろ)から(みちび)き出されたそれであったが、間森(まもり)がそれを気にする様子(ようす)はない。


「だが、その(まな)びを()かす機会(きかい)がないことを(ねが)おうぜ。

 ――これっきりにしたいだろ?」

「当然だ。失敗(しっぱい)などできるものかッ!

 かの亡霊(ぼうれい)は、今日(きょう)(かなら)(めっ)するッ!」

「ひゅう、カッコいいねえ。

 ――やっぱ、アンタの方が、『覚醒者(かくせいしゃ)』の素質(そしつ)があるんじゃねえの?」

「くどいッ! 意志(いし)だけでは、――(おも)いだけでは(とど)かんのだ。

 俺に素質(そしつ)があろうとも下地(したじ)がない。

 凡庸(ぼんよう)たる()()では――」

「――ちょいストップ、ストップだッ!

 悪かったよ、俺も軽口(かるくち)が過ぎた。

 それ以上は()()()って。落ち着けよ」


 《無貌(むぼう)》の男の独白(どくはく)を、間森(まもり)(あせ)った様子(ようす)(つよ)い言葉をもって制止(せいし)する。

 それを聞いた《無貌(むぼう)》の男の方も、一瞬(いっしゅん)何か思案(しあん)したようだが、即座(そくざ)調子(ちょうし)を取り(もど)す。


「いや、そうか。

 (たし)かに、ここに来て失敗(しっぱい)するわけにはいかん。

 まあ、この俺の偉大(いだい)なる計画(けいかく)(ほころ)びなど存在(そんざい)しないがな」

「そうとも、史上(しじょう)最高峰(さいこうほう)位置(いち)()する人の(おう)

 諸人(もろびと)(いただき)に立つ偉大(いだい)なる覇道者(はどうしゃ)よ。

 雌伏(しふく)期間(きかん)はとうに()ぎた。

 さあ、あの寝坊助(ねぼすけ)を叩き起こしに行こうぜ。

 亡霊(ぼうれい)地獄(じごく)(たた)(かえ)すためにな」

無論(むろん)だ。

 ともあれ、まずは天乃(あまの)(しん)身柄(みがら)確保(かくほ)からだ、()くぞ」


 間森(まもり)の口から次々と出てくる立て(いた)に水と形容(けいよう)するに相応(ふさわ)しい鼓舞(こぶ)の言葉により、《無貌(むぼう)》の男は完全(かんぜん)調子(ちょうし)を取り(もど)したようである。

 ちなみに、こうした扇動(せんどう)は、間森(まもり)得手(えて)でもある。

 そして、間森(まもり)自身(じしん)(ともな)って行動(こうどう)しようとする《無貌(むぼう)》の男に対し、一瞬(いっしゅん)表情(ひょうじょう)硬直(こうちょく)させると、突如(とつじょ)として仕事を思い出したかのような素振(そぶ)りを見せる。


「あっ、でも俺はほら、あの(はがね)肉体(にくたい)だけで全てを解決(だいなしに)しちまいそうな脳筋(のうきん)権化(ごんげ)(あし)()めをしとかないと」

()()()()()()?」

「おっと、()()きたかぁ」


 心底(しんそこ)心当(こころあ)たりがないといった《無貌(むぼう)》の男の言葉(ことば)に、それだけで状況(じょうきょう)(さっ)した間森(まもり)は、言葉を(えら)んで返答(へんとう)する。


「えっと、そうだな。

 つまり、仕上(しあ)げは王様(おうさま)(ゆず)るってことだよ。

 脇役(わきやく)は、これまでどおり、邪魔(じゃま)が入らないように、日陰(ひかげ)にすっこんで待機(たいき)してるって(はなし)さ」

(かま)わん、(もと)よりこれは俺単独(たんどく)での達成目標(タスク)だ。

 飛び入り参加(さんか)貴様(きさま)(たよ)必要(ひつよう)はそこまでなかった」

「よく言うぜ、こっからが()()なのによ」

「ハッ、ではさらばだ、“土竜(もぐら)”よ。

 (ふたた)相見(あいまみ)えることはあるまい」

「ははは、テメエこの野郎(やろう)

 言っとくけど、それ一応(いちおう)蔑称(べっしょう)だからな」

「ハッ、()()()()()


 《無貌(むぼう)》の男はそう()げると、振り返ることなく部屋(へや)を出ていく。


(……さぁて、(のこ)るはあの()(もの)(あし)()めかよ。

 しかし、アレ(きゅう)直接(ちょくせつ)出張(でば)ってきたってことは、存在(そんざい)強度(きょうど)(けん)問題(もんだい)なさそうだな。

 今回(こんかい)のはこれまでの反動(はんどう)かもしれんが、(しん)(やつ)悪運(あくうん)強過(つよす)ぎだぜ)


 (のこ)された間森(まもり)は、天乃(あまの)()()()()()内心(ないしん)でぼやきつつも、急いで手元(てもと)装備(そうび)確認(かくにん)する。

 携帯性(けいたいせい)重視(じゅうし)自動(じどう)拳銃(けんじゅう)が一丁、()えの弾倉(マガジン)()みで約三十発分。

 サバイバルナイフが二本。

 発煙弾(スモークグレネード)が三回分。

 そして――切り(ふだ)たる自動(じどう)拳銃(けんじゅう)用の魔弾(まだん)が三発分。

 ちなみに、狙撃(そげき)(じゅう)()(はこ)びに不便(ふべん)なため、先程(さきほど)場所(ばしょ)放置(ほうち)している。


(非常に心許(こころもと)ないが、五分は()たせてやろうかね。

 ッたく、とんだ貧乏(びんぼう)(くじ)だぜ。

 なぁにが、(らく)仕事(しごと)だよ。絶対(ぜったい)(ゆる)さんからな、あの魔女(・・)

 今度会()ったら(おぼ)えとけよ)


 こうして、全てを丸投げしてきた今回の依頼者(・・・)内心(ないしん)文句(もんく)()れつつ、間森(まもり)絶望的(ぜつぼうてき)戦場(せんじょう)へと(おもむ)いていった。

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