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Replica  作者: 根岸重玄
登校騒乱編
46/346

正解を選び取る直観、蛮勇の対価と気まぐれな審判者

 2036年6月7日午後1時32分


「さて、状況の説明の前に、何かわっちらに言っておくことがあるのではないか、《(いばら)の》?」

「ないわね。私は悪くないもの」

「……こやつッ」


 状況の説明を求める緋澄(ひずみ)に対し、英莉(えり)は、言外(げんがい)先程(さきほど)緋澄(ひずみ)の行動に対する謝罪(しゃざい)を求めたが、緋澄(ひずみ)はその意図(いと)を理解しつつも、堂々と自分に非はないと言い返す。


「うぬ、主殿(あるじどの)(から)まん状況じゃと比較的常識(じょうしき)あるくせに、落差酷過(ひどす)ぎんか?」

「なんと云われようと、私は(あやま)らないわ」

「はぁ。うぬと主殿(あるじどの)の間に何があったかは知らんが、こうなるくらいなら話くらい()いておくべきじゃったか」

「……私が話すとでも?」


 英莉(えり)(ひと)(ごと)のような(つぶや)きに(こた)える緋澄(ひずみ)の口元は笑っていたが、その目は冷え切っており、全身から(かく)しきれない殺気が()れ出していた。


主殿(あるじどの)に、じゃよ。

 まぁ、主殿(あるじどの)は、話すべきと判断したなら話しとったはずじゃし、もう過ぎたことじゃから、()やんでも仕方ないんじゃがな」


 その殺気を受けても、英莉(えり)は態度を変えることなく、軽く受け流す。

 なお、横にいた遊上(ゆがみ)緋澄(ひずみ)の奥底にある怒りの感情を正確に感じ取っており、完全に委縮(いしゅく)してしまっていた。


「まぁ、よかろう。もう少しなら時間はあるじゃろうし、状況を話しておこうかの」

「横から失礼します、英莉(えり)様。先程(さきほど)もまだ時間があるとおっしゃっていましたが、それはどういうことなのでしょうか?」


 英莉(えり)が折れ、緋澄(ひずみ)に状況を説明しようとしたとき、天空(てんくう)から質問が飛ぶ。


「いいわ、先に天空(てんくう)の質問に答えて」


 緋澄(ひずみ)も、焦燥感(しょうそうかん)に包まれている天空(てんくう)の内心を(おもんぱか)り、英莉(えり)天空(てんくう)の質問に先に答えるように(うなが)す。

 英莉(えり)は、首肯(しゅこう)すると、目線を緋澄(ひずみ)から天空(てんくう)に移し、口を開く。


「それは、うぬの(あるじ)である狗飼(いぬかい)の娘御が(さら)われた理由とも関係することじゃ。

 辰上(たつかみ)御子(みこ)固有(こゆう)魔導(まどう)《王の法》の特性については説明したとおり、対ニンゲン特効(とっこう)()()()()()()()じゃ」

拠点構築型(きょてんこうちくがた)?」


 英莉(えり)が口にした耳慣(みみな)れない言葉に天乃(あまの)が反応する。


「そうじゃとも。

 範囲指定型(はんいしていがた)魔術(まじゅつ)の一種で、供給(きょうきゅう)されている魔力源(まりょくげん)()たれるか、魔術(まじゅつ)が解除されるまで半永久的(はんえいきゅうてき)に機能するタイプの術式のことじゃな。

 これらを総称(そうしょう)して《結界(けっかい)》などと呼ぶこともある。

 《王の法》は非常に強力な術式じゃが、その『国を(きず)く』という特性上、防衛は得意でも、攻めには全く向いてないのじゃよ」

「特定の範囲を『国』にして、その範囲内に効果を(もたら)魔術(まじゅつ)か。

 ――つまり、人質(ひとじち)(あらかじ)め設置した拠点への誘導(ゆうどう)が目的ってこと?」

「そのとおりじゃ」

「ですが、お嬢様(じょうさま)がどこにいるかわからないのでは、救出に向かうことができませんが?」


 天乃(あまの)が、狗飼(いぬかい)(さら)われた理由を(みちび)き出すが、天空(てんくう)が根本的な問題を口にする。

 それに対し、英莉(えり)は待っていましたとばかりに答えを口にする。


「実は、それはもうわかっておる」

「っ!? それは、どこでしょうか」

「お、落ち着かんか。ほれ、そこで深呼吸(しんこきゅう)じゃ」


 (つか)みかからん(いきお)いで冷静に()()ってくる天空(てんくう)に対し、英莉(えり)深呼吸(しんこきゅう)(うなが)す。


「この天空(てんくう)呼吸(こきゅう)などしていません。

 いえ、正確には、似たようなことはしていますが、そういう機能が(そな)わっているというだけで、その必要性は本来的にはありません」

「お、おう。さようか」

「この天空(てんくう)(きわ)めて冷静です。ですので、早くお答えください、英莉(えり)様」

「わかった。云う、云うから。ちょっと待つのじゃ」

「はい、待ちました。お答えを」

「せっかちか、うぬ。

 その前に、1人では行かんと(ちか)え。

 ぶっちゃけ、うぬは戦力としてカウントしておる。

 戦力の逐次投入(ちくじとうにゅう)愚策(ぐさく)でしかない。

 (ゆえ)に、向かうなら足並(あしな)みを(そろ)えてもらうぞ」

「……わかりました。誓いましょう。

 この天空(てんくう)は、単騎(たんき)敵陣(てきじん)に向かうことは致しません」

「よかろう、うぬの《天眼(てんげん)》じゃ。

 あれが(みちび)いてくれるじゃろう」


 《天眼(てんげん)》とは、天空(てんくう)(あつか)監視(かんし)術式のことで、設定した監視対象の位置情報を取得し、その地点の光景を見ることができるという魔術(まじゅつ)である。

 現在、天空(てんくう)が指定している対象は狗飼(いぬかい)であるが、何らかの方法でその対象をすり替えられ、天空(てんくう)狗飼(いぬかい)を見失ってしまっていた。

 それ以降、天空(てんくう)は《天眼(てんげん)》の位置情報を取得していなかったのだが、英莉(えり)の言葉を受け、すぐに《天眼(てんげん)》が指し示す現在地の情報を取得する。


「っ!? ――なるほど、現在地は、第十四学区ですか?」

「どんなところじゃ?」

「十四区ってことは、研究(けんきゅう)施設(しせつ)が多いところね。

 それも、基本(きほん)特性(とくせい)系統(けいとう)研究(けんきゅう)じゃなくて、固有(こゆう)魔導(まどう)とか複合(ふくごう)特殊(とくしゅ)系統(けいとう)とか、とにかく、(めずら)しい型の術式の研究(けんきゅう)が中心に行われているところよ。

 ただ、そういったところは成果が出にくいから、人員(じんいん)研究(けんきゅう)費はあまり出てないって話ね。

 まぁ、ここ1、2か月は誰かさんのお掛けでずいぶんと(うるお)ってきてるみたいだけど」


 英莉(えり)の疑問に、遊上(ゆがみ)がすらすらと答え、最後の一言を付け加えるとともに、緋澄(ひずみ)の方を一瞥(いちべつ)する。

 視線を向けられた緋澄(ひずみ)は、一瞬顔を(しか)めるが、何事もなかったかのように英莉(えり)に声をかける。


「さっきの話で状況は(おおむ)把握(はあく)したわ。

 要は、狗飼(いぬかい)(さら)った主犯は、辰上(たつかみ)とやらで、そいつは十四区で手薬煉(てぐすね)引いて待ち(かま)えてるって話ね。

 で、知ってる相手なのよね? どんなやつなの?」

「個性の話ではなく、属性だけを要点に沿って述べると、既に途絶えた『支配』を起源とする『原型術師(げんけいじゅつし)』の家系の末裔(まつえい)じゃ。

 使用魔術(まじゅつ)は、対ニンゲン特効(とっこう)術式――《王の法》。

 既に『討伐令(とうばつれい)』の対象となっておる『超越者(ちょうえつしゃ)』じゃよ」


 緋澄(ひずみ)は、英莉(えり)から、狗飼(いぬかい)(さら)った相手の情報を聞くと、深く嘆息(たんそく)する。


「だったら、私は協力できそうにないわね」

「そうですね。

 同行して頂けるのであれば、非常に心強いのですが。

 さすがに緋澄(ひずみ)様に協力を申し出るのは、この天空(てんくう)とて心苦しいものがあります」


 緋澄(ひずみ)のにべもない態度に、天空(てんくう)同調(どうちょう)する。

 その様子に首を(かし)げた天乃(あまの)は、隣にいた英莉(えり)に聞こえるように(かが)みこみ、声音(トーン)を下げて耳打ちする。


「(なあ、これってどういう意味だ?)」

「(さあの。ニンゲンのルールなんぞ、わっちの管轄外(かんかつがい)じゃて)」


 英莉(えり)からは、このように満足な回答を得られなかったが、さすがに天乃(あまの)が自分たちの会話内容を疑問に思い、英莉(えり)にそれを質問したということに気付いた緋澄(ひずみ)は、天乃(あまの)の方を向いて疑問に回答する。


「つまり、私が出ると、それこそ、怪獣大決戦になっちゃうってこと。

 最悪、私にも『討伐令(とうばつれい)』が()けられかねないわ」

「怪獣、大決戦?」

「((しん)ちゃん、(しん)ちゃん)」


 緋澄(ひずみ)の説明に対しても首を(ひね)天乃(あまの)に、今度は遊上(ゆがみ)がちょいちょいと手招(てまね)きする。

 天乃(あまの)が近寄っていくと、遊上(ゆがみ)はつま先立ちで天乃(あまの)の耳元に口を運んでいき、(ささや)き声で耳打ちを開始する。


「(あのね。お姉ちゃんはああ見えてSランク魔術師(まじゅつし)なの)」

「(……なあ、それってどのくらいすごいんだ?)」

「(えーっとね。例えば、(ちまた)で『人外(じんがい)一覧表(いちらんひょう)』とか、『人間辞めましたランキング』とか言われているやつでいうと――)」


 天乃は、『何だ、それはっ!』と突っ込みたくなったが、何とか口に出さずに押し込める。


「(今、浅木(あさき)にいる魔術師(まじゅつし)の中では最高位(さいこうい)で、確か世界ランクで20位とか30位以内くらいだよ)」

「(……えっ、マジ?)」

「(マジマジ。

 お姉ちゃんの固有(こゆう)魔導(まどう)は《(いばら)の女王》っていって、簡単に言うと、植物を生長(せいちょう)させる魔術(まじゅつ)なんだよ)」

「(へぇ。ってか、さっきの順位は何を指標(しひょう)としたランキングなんだ?)」

「(指標(しひょう)はいろいろあるんだけど、一言でいうと魔術師(まじゅつし)の『格』かな。

 お姉ちゃんの場合は、特に、魔術(まじゅつ)行使が()()()()()()()()()()()()()()()()ってのが、この順位になってる最大の理由みたいよ)」


 天乃(あまの)遊上(ゆがみ)側に(かたむ)けていた首を戻し、緋澄(ひずみ)の方に向き直る。

 緋澄(ひずみ)は、なんとなく遊上(ゆがみ)が耳打ちした内容を察したのか、天乃(あまの)に向けて飛び切りの笑顔を向けて、御淑(おしと)やかに手を振っていた。

 それを見た天乃(あまの)は、今更(いまさら)になって(あせ)()き出るかのような気持ちになった。


「(オレって、さっき結構危ない橋渡った?)」

「(もち。私はとってもひやひやしてました)」

「(今度からは先に言ってくれ)」

「((しん)ちゃん、人生に『今度』なんてないんだよ? 一回きりなの。

 だから、常に後悔(こうかい)しない選択をするしかないんだよ)」


 そういって、遊上(ゆがみ)は目線を天乃(あまの)(ひとみ)に会わせる。


「(それとも、(しん)ちゃんは、事前に知ってたら何か行動を変えたの?)」

「(……それは――)」


「こらっ、そこ。

 いつまで顔つき合わせて内緒話(ないしょばなし)してるつもり?

 狗飼(いぬかい)の件があるんだから、早いこと方針を固めるわよ」


 遊上(ゆがみ)の言葉に言い(よど)んだ天乃(あまの)は、結局、緋澄(ひずみ)の声に応じて答えを返すことなく、遊上(ゆがみ)との会話を打ち切る。

 その様子を見た緋澄(ひずみ)は、話をまとめるように手を打ち、周囲の注目を(うなが)す。


「さて、とにかく、私が方針を決めてあげるわ」

「うぬが仕切るのか……」


 英莉(えり)がぼそりと(つぶや)くが、緋澄(ひずみ)はそんなことは意に介さず、話を続ける。


「その前に、1点だけ確認するわ。

 敵方の固有(こゆう)魔導(まどう)術式、《王の法》についてだけど、これは、範囲指定型ってことは、範囲外からの攻撃なら有効ってことよね?」

「そうじゃのう。厳密(げんみつ)にいうと、一部有効じゃ。

 ミサイルや戦闘機(せんとうき)などのあからさまな物量兵器(ぶつりょうへいき)による攻撃に対する迎撃(げいげき)手段はあるのでな。

 ちなみに、範囲に入るだけでニンゲンは戦力外になると考えてくれて構わん。

 かの術式の抵抗(レジスト)に成功した者がいるという話は聞いたことがないからの」

「あら、なら、天乃(あまの)(しん)はどうなの?」

「《王の法》の影響下にあるニンゲンはこちら側の戦力にはならんというだけで、それ自体が直接人体に害が及ぶものではないからの。問題はないと考えとる。

 特に、主殿(あるじどの)魔眼(まがん)は、魔術(まじゅつ)攻撃への対抗手段としては破格(はかく)の性能を持っとるからのぉ」

「……そう、わかったわ。

 じゃあ、方針を発表するわよ。

 今回の件、私が直接出張(でば)ることはしないわ。

 十四区付近にいる人間を殺し(つく)してもいいってのなら話は別だけどね。

 ついでに、真理(まり)もダメ。後方待機(たいき)よ、いいわね?」

「……うん」


 遊上(ゆがみ)は、緋澄(ひずみ)の言葉に素直(すなお)(うなづ)き、その提案を了承(りょうしょう)する。


「わかっとるわい。

 結局、わっちと狗飼(いぬかい)眷属(けんぞく)、ついでに主殿(あるじどの)を加えた当初の布陣(ふじん)()くしかあるまいよ」

「そうね。

 けど、私には一人だけ、援軍(えんぐん)に心当たりがあるわ。

 もちろん、範囲の外側からの援護(えんご)しかできないから、突入要員(とつにゅうよういん)は三人に任せるけど。

 一応、本人に話してみるわ」

「うむ。

 できれば、軍用(ぐんよう)ロボなどの無人兵器(むじんへいき)を大量に保有しとるところとかに伝手(つて)があるとわっち的には非常に助かるんじゃが」


 英莉(えり)は、容易(ようい)に《王の法》の(うら)をかける解決策(かいけつさく)を提案してみる。


「この四月に浅木(あさき)に来たばかりの私にそんな伝手があるわけないでしょ。

 真理(まり)警備隊(けいびたい)はどう?」

「うーん、あそこは基本的に、対象の殲滅(せんめつ)じゃなくて制圧(せいあつ)確保(かくほ)が目的だからなあ。

 人間が着用(ちゃくよう)するパワードスーツがメイン装備なの。

 これじゃあ、《王の法》の影響を回避できないんじゃない?

 あっ、でも、災害(さいがい)救助(きゅうじょ)用に遠隔(えんかく)操作(そうさ)可能なロボットは複数保有(ほゆう)しているとは聞いたな。

 ちなみに、理事会(りじかい)も、少なくとも、名目上は学校施設(しせつ)研究(けんきゅう)施設の集合体である浅木(あさき)に大量の無人兵器を置いておくことはできないと思う」


 英莉(えり)の提案を受け、緋澄(ひずみ)が案を提示するが、遊上(ゆがみ)がその可能性を否定する。


「というわけじゃ、《(いばら)の》。

 今回、わっちは(すで)にこの件を百目鬼(どうめき)にメールで伝えておるから、関係各所への必要な通達(つうたつ)は、あやつがしてくれとるじゃろ」

「あぁ、あの人ね。うちの理事だったのよね」


 緋澄ひずみは若干遠い目をして、天乃の祖母でもある第三高の理事、百目鬼どうめき亜澄あすみに対する感想を述べる。


「んで、その中で、無人兵器の貸し出しも要請(ようせい)してみたんじゃが。

 持っとらんとの返事じゃったよ。

 まあ、結局、無人兵器があっても、それを保有した状態で《王の法》の影響下に入るニンゲンは必要なのじゃから、完全に楽できるわけでもないんじゃが。

 結局は、わっちらが、兵器以上の働きをするしかあるまいよ」

「そう。なら、その方向でいけば?」


 英莉(えり)の言葉に、緋澄(ひずみ)が投げやりに結論を出す。


「大丈夫。失敗したら、私が何もかもを台無しにして終わらせてあげるから、安心なさいな」

「シャレになっとらんぞ。怪獣大決戦」


 そして、緋澄(ひずみ)がしれっと付け加えた言葉に、英莉(えり)真顔(まがお)でコメントを述べる。


「あと、ホームルームはもう終わってるでしょうけど。

 先に教室に荷物(にもつ)を取りに行った方がいいんじゃない?

 そろそろ、閉まるわよ」

「あ、それもそうだね。あれ、お姉ちゃんは?」

「私は、ほら。もともと狗飼(いぬかい)捜索(そうさく)(かこつ)けてホームルームはフケるつもりだったから」


 そういって、緋澄(ひずみ)物陰(ものかげ)に置いていた(かばん)を持ち上げ、ひらひらと振って周囲に(しめ)す。


「お姉ちゃん……」「《(いばら)の》……」「緋澄(ひずみ)様……」

「なによ、いいじゃない。こんな大事(おおごと)になってるとは思ってなかったんだし、これくらい普通よ。

 ねえ、天乃(あまの)(しん)ッ!」

「ノーコメントで」

「……ちぃっ」


 緋澄(ひずみ)は、天乃(あまの)に話しかけてしまったことを若干(じゃっかん)後悔(こうかい)するかのような表情をすると、遊上(ゆがみ)の方を(にら)みつけ、


「ということで、真理(まり)。早く荷物を取ってきなさい」


 と、()き立てるように(うなが)す。


「はいはい。じゃあ、(しん)ちゃんと英莉(えり)ちーもいくよー」

「あっ、天乃(あまの)(しん)はちょっと残りなさい」

「え?」


 遊上(ゆがみ)英莉(えり)の手を掴み、天乃(あまの)手招(てまね)きしていると、緋澄(ひずみ)天乃(あまの)を呼び止める。


「悪いわね、真理(まり)

 最後に()ぜっ返すようで悪いんだけど、天乃(あまの)(しん)にはどうしても()いておきたいことがあるの」

「なんだ?」


 緋澄(ひずみ)神妙(しんみょう)雰囲気(ふんいき)に、天乃(あまの)は少し身構(みがま)える。


「そうね、ちょっとだけ大事なことよ。

 荷物の回収はそこの使い魔にでも任せておきなさいな」

「待てい、《(いばら)の》。

 これでも、わっちは一応、この校内では主殿(あるじどの)守護霊(ガーディアン)という立場じゃからな。

 おいそれと主殿(あるじどの)から離れて護衛(ごえい)(おろそ)かにする訳にはいかんのじゃが」


 英莉(えり)はなんとなく嫌な予感がするので、緋澄(ひずみ)の提案に難色(なんしょく)を示し、妨害(ぼうがい)に回る。

 だが、もちろん、その程度の反論は緋澄(ひずみ)予測済(よそくず)みである。

 すぐに、再反論をする構えである。

 なお、天空(てんくう)はなぜか英莉(えり)から飛んできた(なが)(だま)を受けたことにより、胸を押さえて悶絶(もんぜつ)していた。


「心配無用よ。

 僭越(せんえつ)ながら、この私が!

 天乃(あまの)(しん)の護衛を一時的にしておいてあげるのだから」

「あははは。

 態度に似合(にあ)わず、冗談(じょうだん)上手(うま)いではないか、《(いばら)の》ぉ。

 わっちとしたことが、思わず呵々大笑(かかたいしょう)してしまったぞ。

 片腹(かたはら)大激痛(だいげきつう)じゃあ」


 もちろん、そういう英莉(えり)の仮面のような無表情な顔には一切の変化もない。


「わっちが現状で最も危惧(きぐ)しておるのは、うぬの動向であるなどということは、わざわざ口にせんでも(さっ)して欲しかったのじゃがのぉ」

「あら、それなら、考え方を少し変えなさい?

 私も、真理(まり)という人質(ひとじち)貴女(あなた)に差し出しているのよ?」

「……え、私ぃ!?」


 急に巻き込まれた遊上(ゆがみ)が、悲鳴(ひめい)()じりの()(とん)(きょう)な声を上げる。


「ふむ。なるほどな。

 うぬが主殿(あるじどの)に手を出せば、わっちはこの小娘(こむすめ)をどのような目に合わせてもよいということじゃな?」

「え? なんで乗り気なの、英莉(えり)ちーッ!?」

(いた)(かた)ないわね。

 心苦しいけど、フフ、そうなってしまうわ」

「お姉ちゃん!?

 ちょっと笑ってるんだけど、本当に心苦しいの!?

 私に人質(ひとじち)としての価値はちゃんとあるの!?」

「なら、問題はないかのぉ。ほぉれ、行くぞ、小娘(こむすめ)

「帰りはゆっくりでいいわよ」

「お姉ちゃん!? 英莉(えり)ちー!?

 あれ? 見た目に反して英莉(えり)ちーの力がヤバい。

 全然振りほどけないどころか振りほどく動作すらできないんですけど。

 全然痛くないのが逆にヤバそう。

 シャレになってないって。

 たすっ、助けてぇぇ」


 遊上(ゆがみ)は、自ら掴んだ手を逆に英莉(えり)に利用され、()(すべ)もなく()()られていく。

 天空(てんくう)は、無言で緋澄(ひずみ)一瞥(いちべつ)すると、すぐに目線を切り、英莉(えり)達を追うように付いていった。

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