表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Replica  作者: 根岸重玄
恋情加速偏
334/346

仕組まれた覚醒と反逆の共闘

 ?年?月?日 ??時??分


「どういう意味ですか? なぜ、わたくしの殺害を?」


 狗飼(いぬかい)は、眼前に立つ死神――『殺し屋』を見据え、静かに問いかける。内面世界を侵食する濃密な殺意の霧の中で、彼女の声だけが澄んで響いていた。


「君を殺す理由は三つある。一つは君が『金融屋』の駒として成長しすぎてしまったことにある。申し訳ないが、これ以上理不尽な覚醒でさらなる成長を遂げられても困る。二つ目は君が狗飼(いぬかい)家当主であることだ。私の殺害リスト上、狙いは正確には狗飼(いぬかい)玄磨(げんま)ではない。正確には狗飼(いぬかい)家当主、つまり君だ。故に、君を殺害することは私の目的達成に貢献する。三つ目、まぁ、これは言うまでもないことだが、君が狗飼(いぬかい)玄磨(げんま)を殺害しなかったことだ」


 『殺し屋』は、まるで事務報告でもするかのように淡々と、狗飼(いぬかい)を殺害すべき理由を理路整然と並び立てる。その言葉一つひとつに、回避不能な死の宣告が込められていた。


「先ほど言った通り、既に狗飼(いぬかい)玄磨(げんま)は私にとって殺害する必要がなかった人物だ。だからといって殺害しなくてもよいというわけではない。適性試験は不合格だよ、狗飼(いぬかい)朱音(あかね)。つまり、同盟の核たる部分に偽証があった。同盟解消やむなしだろう?」


「ありゃりゃ、お父様を殺してなかったことがバレちゃったのか。それは仕方ないね」


 対する狗飼(いぬかい)は、突きつけられた死の理由に対しても、まるで悪びれる様子を見せない。そのあまりにも不敵な態度に、『殺し屋』の仮面の奥の瞳がわずかに細められた。


「正直、困惑している。君の行動原理は実に奇妙だ。肉親の死を偽装しながらフォーラム会場に多数の魔獣を設置して無差別殺人に加担する矛盾。いや、ここまでならギリギリ人情として理解できる。だが、愛すべき従者を退け、自ら窮地に陥ってから覚醒するマッチポンプにも似た挙動。かと思えば、自ら捨てた従者に諭されつつある現状。実に、そう。実に不可解だ」


 『殺し屋』は、理解の範疇を超えた駒の振る舞いに、深く嘆息する。しかし、その言葉を聞いた狗飼(いぬかい)の脳裏には、点と点を結ぶ明確な一本の線が浮かび上がっていた。


「えぇ? ってことはぁ、なるほどなるほど、こんなことができるのは、あとは『金融屋』さんしかいないね」


 狗飼(いぬかい)が納得したように、得心顔で頷く。


天空てんくう、さっきの違和感。多分やったのは『金融屋』さんだよ。大方、わたくしの覚醒を促すための措置だったんでしょうね。まんまと乗せられたわけだぁ」


 そこで狗飼(いぬかい)は、くすくすと不敵に笑い始めた。それは決して余裕の表れではない。上位者たちの身勝手な指し手の都合で、自らの大切な絆を弄ばれたことへの、底冷えするような怒りの噴出だった。


「あぁ、なんだかちょっとだけムカついてきちゃったなぁ。同盟解消の件、納得しました。ですので、このまま帰っていただけませんか? ちょっとだけわたくし、暴力を振るいたくて堪らなくなってしまっているので。ここに残るなら、無事は保証しませんよ?」


 狗飼(いぬかい)の瞳に、淡く、だが鋭い希望ヒカリが宿る。それは『殺し屋』が放つ絶大な殺意を真正面から受け止め、強引に押し返すほどの苛烈な気迫を放っていた。


「なるほど。『金融屋』の介入ありきだったわけか。あれも人の心を解さないという点では人後に落ちることはない。合点がいった。だが、引くという選択肢はないな」


「いいんですか? わたくしを殺したら殺意が減退するのでしょう? そうしたら、今日のフォーラムでの殺しはできなくなりますよ?」


「そちらはジェーンに任せている。君の心配することではない」


「いえいえ、わたくし的にはそれでは困るのですよ。このゲームを早く畳んでしまいたいわたくしにはね?」


 皮肉めいた応酬が続く中、一歩引いて控えていた天空てんくうが、静かに口を開いた。


「お嬢様。そういえば耳よりの情報があります」


「なになに、天空てんくう?」


「『仲介屋』様によると、プレイヤーが減りすぎてもゲームの存続は覚束なくなるとのこと。既に昨日、我々はプレイヤーを一人撃破しましたので、ここでもう一人排除すれば――」


「ふぅん。そういう方法もあるんだぁ」


 狗飼(いぬかい)の口角が吊り上がる。駒として踊らされる舞台そのものを叩き壊す。その快楽的な破壊のヴィジョンが、彼女の闘志に火をつけた。


「だったら、やるよ、天空てんくう。『殺し屋』はわたくしたちがここで呑み込む。いいよね?」


「はい」


 短く力強い肯定。

 こうして主従は、精神の深淵において再び背中を預け合い、並び立つ。

 上位世界の傲慢な観測者を、この「魔界」へと引き摺り下ろし、喰らい尽くすために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ