表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Replica  作者: 根岸重玄
記憶喪失編
25/286

魔術師殺し

2036年6月6日午後20時37分


「どういうことじゃ,主殿(あるじどの)

「最初から,おかしい,と,そう,思ってた」


 天乃(あまの)は,エリザベートに語り掛けながらも周囲に目を()らす。


「何がじゃ?」

「オマエ,が,オレに妹がいると,打ち明けようとした,タイミングだ。

 オマエは,いってた,な。デュラム,セモリナ粉を,こねているとき,思い出したって。

 多分,()()()()()()()んじゃ,ないか?」

「そうじゃ。最初はなぜか主殿(あるじどの)の分しか作ろうとしておらなんだ。

 そのあと,妹御(いもうとご)のことを思い出して,量を増やして二人分作ったのじゃ」

「そう,食事は二人分,あった。

 オマエは食べないという。なら,もうひとりっ,分は? がはっ」


 そこまでいいながら,天乃(あまの)は再度吐血する。

 どうやら,《虚言(きょげん)(いまし)め》のダメージは内臓にいっているようである。


主殿(あるじどの),これ以上の出血は(まず)いぞ。命にかかわる」

「わかって,る。

 だが,敵も,必死なはずなんだ。

 この屋上の,どこか,少なくとも,このマンションの,どこかには,必ず,いる」

「敵?」

「敵の魔術は,おそらく,()()()()()()()()()()()()だ」

「なんじゃそれ?」


 エリザベートは首を(かし)げる。


「つまり,オマエの記憶に,介入し,オレの妹,という虚像(きょぞう)を,作り出した。

 そして,《虚言(きょげん),の(いまし)め》などという,存在しない,術式を作り出した,んだ。

 オレのこのダメージは,存っ,在しない,術式を,知覚して,いるから生じる,もの,だ」

「つまり,思い込みじゃと?」

「平たく言うと,そう,だ」


 天乃(あまの)は,目を皿のようにして周囲の些細な違和感を探そうとしている。


「そして,いま,敵は追い,詰められている。

 オレ達に,自身を知覚させ,ないようにしている,んだ」

「しかし,妹御(いもうとご)が存在せんじゃと?

 わっちには(にわ)かに信じがたいのじゃが」

「もちろん,根拠は,それだけ,じゃない」

「あぁ,わかった。もう(しゃべ)らんでよいぞ。

 わっちが主殿(あるじどの)の考えを読む」

「そう,いえば,そんなことができたな。

 もっと,早い,段階で,やって,くれよ」

「――ふむ,なるほどな。筋は通っとる。

 主殿(あるじどの)には見えんかったのか,妹御(いもうとご)の保有する魔力が。

 それで,実体ではないと踏んだか。なるほどの,それで,『虚像(きょぞう)』か。

 ん? そういえば,もう妹御(いもうとご)の顔も思い出せんの。これは驚いた。

 そして,屋上付近から魔力を感知したと。

 じゃが,それだけでは敵の魔術の正体にまでは辿り着かんじゃろ?

 ふむ,そこはあくまでも推測か。じゃが,(おおむね)ね正解っぽいの。

 部屋に妹御(いもうとご)の生活用品がなかったこと――ってわっちが飯を作っとる間に論文読みながらゴミ箱の内容物や風呂の中まで見ておったのか!?

 そして,敵のゲームに乗って時間を稼いだ,と。

 あの段階では明らかに術中じゃったからの。時間はこちらの味方じゃったというわけか。

 このとき,屋上からの魔力反応の感知とわっちの用意した食事の数を確認しとったのか。

 なるほどのぅ。

 まぁ,()(かく),これらから推測できること,妹御(いもうとご)はそもそも存在しない――すなわち,わっちの記憶が改竄(かいざん)されておるということか。

 同時に,見えない妹御(いもうとご)をわっちらに同時に見せていたということは,知覚にも作用する,と。

 現在は,わっちらの知覚を操作して姿を見えなくしとるというわけじゃな。

 うむ,主殿(あるじどの)

 どうやら,わっちの方が適任じゃぞ,この敵を探すのは。

 ちょいと,耳を(ふさ)いでおれ」


 そういってエリザベートは思い切り息を吸い込む。


「わっ!!」


 エリザベートはその息をすべて吐き出すように,周囲に大声を響かせる。


「うぐっ」


 耳を塞いでいた天乃(あまの)も至近距離からの大音量にダメージを受ける。

 だが,その甲斐(かい)はあったようである。

 エリザベートが右斜め方向を向く。


主殿(あるじどの)。2時方向――距離8メートル付近に目に見えん障害物じゃ。凹凸(おうとつ)の具合から,ニンゲンじゃな,これは」


 英莉は,『漆黒(しっこく)(つばさ)』の副次的な効果によって,ある程度,音に干渉(かんしょう)する能力を得ている。

 今回は,いわゆる反響定位(エコーロケーション)と呼ばれる音の反響を利用して周囲の状況を把握(はあく)する技術を使用したのである。自然界においては,蝙蝠(こうもり)海豚(いるか)が使用することでも有名である。


「とり,押さえろ。エリザベート!」

「了解じゃ」


 エリザベートが瞬時に目標箇所に移動する。

 そして,(のど)があると思われる場所をめがけて掌底(しょうてい)を撃ち込む。

 エリザベートの手には何かに()れた感触がある。そのまま,エリザベートは片手で首を掴むように握ると,地面に頭から叩きつけるように押し倒す。

 そうすると,天乃(あまの)達の視界が晴れていく。

 エリザベートは1人の少女を取り押さえていた。

 その少女は完全に気絶していた。術式の制御ができなくなったことにより,姿が見えるようになったということだろう。


「さて,こいつの目的は何だろうな」

主殿(あるじどの)よ,よく見よ。

 こやつ,さっきの妹御(いもうとご)にそっくりじゃぞ。

 とはいえ,よく思い出せんので,多分じゃが」

「そうか」

「あっ,ちなみに主殿(あるじどの)妹御(いもうとご)はおらん。

 こやつが気絶したちょい後に思い出した。

 やはり,記憶を(いじ)る系というのは間違いなさそうじゃ」

「ん?

 ……待て,そいつをよく見せろ」


 天乃(あまの)は,少女に近寄り,目を()らす。


「――()()。いや,そういうことか!?」

「ん?」


 エリザベートは何もわかっていないようだが,即座に天乃(あまの)の思考を読み取れることを思い出す。


「おぉ,魔力の色が違うとな。

 つまり,敵は2人おるということか。知覚を操作する者と記憶を操作する者の2人。

 はて? こっちは,どっちじゃろうな?」

「おそらく,知覚だ。

 さっきまであったオレに対する篏合(かんごう)による拘束が完全に消えている」

「じゃが,わっちの記憶が少し戻ったのは?」

「ちょっと後だったんだろ?

 つまり,それは術者が1人だと思わせるためのカモフラージュなのだろうさ」

「なるほどのぉ。

 相変わらず,“魔術師殺し”じゃな,その魔眼(まがん)は」

「“魔術師殺し”?」

「その魔眼(まがん)主殿(あるじどの)はそう呼んでおった。

 どんな仕掛けもたいてい一目で看破してしまうからの。

 魔術師にとっては手の内を(さら)しながらの戦いを()いられる。

 これ以上の嫌がらせはないじゃろ?」

「そう,だな。

 さて,問題は記憶操作の方を追うかだな」

「正直,わっちとしては追いたいが,これを放置するのもなぁ,という感じじゃ」

「――いや,そうも言ってられないぞ」


 天乃(あまの)がエリザベートを見る目は確実にエリザベートの異変を見つけていた。


「ん? マジか。それは,(まず)いの。

 まさか,わっちの記憶が操作されとるとは」

「内容まではわからないが,何らかの記憶操作を受けている。それに――」

「確かにそうじゃな。なぜこやつら,あんな面倒なことをしたのじゃ?

 知覚と記憶を(あやつ)れるのならもっと有効な攻撃手段があったじゃろうに」


 天乃(あまの)の考えを読み取り,エリザベートは先回りして疑問をぶつける。


「考えても(らち)が明かないな。とりあえず,記憶操作を追うぞ」

「じゃがのう,どうやって追うのじゃ?」

「オマエにかけられている記憶操作の痕跡(こんせき)と術者とのパスを追う」

「もはや何でもありじゃな,その眼。

 ――主殿(あるじどの)! (かわ)せ!」


 エリザベートの声に天乃(あまの)はとっさにエリザベートと距離をとる。

 すると,さきほどまで天乃(あまの)がいた空間を裂く轟音(ごうおん)がする。

 エリザベートの腕が振るわれた音だった。


「――どうやら,記憶操作もできるってだけで,それが本質じゃないってわけか」

「冷静に分析してる場合じゃないぞ,主殿(あるじどの)

 頼むから,わっちから可能な限り離れてくれ。わっちもそこそこの手加減しかできんぞ」


 エリザベートの声はまるで悲鳴のようだった。

 だが,天乃(あまの)はあくまで冷静に返す。


「馬鹿を言うな。空も飛べるオマエから逃げ切れるわけないだろう?

 だいたい,オレの内臓はさっきの《虚言(きょげん)(いまし)め》のせいでボロボロだっての。

 万全の状態でも(あや)しいってのに,逃げてどうするよ」

「じゃが――」


 エリザベートの表情が悲痛に(ゆが)む。


「――オマエが操られてるってのはわかった。

 仮に,オレを殺すようなことがあっても気にするな。

 もちろん,ただで殺されてやるつもりはない。せいぜい足掻いてやるさ」

「足掻く,じゃと?」

「だから,オマエも足掻け。限界までな」


 天乃(あまの)が不敵に笑う。

 エリザベートは体の自由がほとんど効かなくなる中で,その笑みに希望を見出した。


「くくく,かっ,いうてくれる。

 わっちとしたことが,少々不安になってしまったぞ?

 この落とし前はつけてくれるのじゃろうな,主殿(あるじどの)?」

「どうかな。オレがオマエの主に相応しいか,見極め――」


 天乃(あまの)が言葉を発せたのはそこまでだった。

 次の瞬間には,エリザベートの腕が深々と天乃(あまの)の腹部に突き刺さっていた。

 そのまま,エリザベートは内臓をかき回すように手首を回し,突き刺していた腕を引き抜く。

 天乃(あまの)は膝をつき,そのままうつぶせに倒れる。

 そこに立ち尽くしていたのは返り血を浴びた黒髪の少女だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ