純恋狂騒曲
2036年7月2日 午後5時3分
「こうして、遊上真理を浅木に迎え入れるため、百目鬼理事が主導のもと第三高には第十組が創設されたということらしいですよ、お嬢様?」
「なにそれ、超エモい!」
狗飼が、テーブルを叩かんばかりの勢いで声を上げた。
その瞳はきらきらと輝き、上体を勢いよく前に乗り出す。
「え? なに? まこちゃんってば超かわいいじゃん! どうしよう、恋の波動を感じたよ、わたくしは!」
両手をぶんぶんと振り回しながら、ひとしきり興奮を爆発させる。
その様は、まるでアイドルの新曲を前にした熱心なファンだった。
そんな狗飼を、天空は無言で見つめていた。
ぴくりとも動かず、冷ややかな視線を浴びせる。
「……あれ?」
はしゃぎすぎた自覚が芽生えたのか、狗飼はふと動きを止めた。
「でも、これって拙くない? ライバル登場ってことになるかも?」
表情を曇らせ、唸るように腕を組む。
「友人としては、もちろん応援したい。したいけど――わたくしはやっぱり、ふぅちゃんを優先しちゃうよね!」
天空はため息をつきかけたが、どうにか自制した。
主の"推し活"に口を挟むことなど許されない。
召喚体とは、かくも不自由な存在である。
狗飼は拳を握り、勝手に宣言した。
「ということで! まこちゃん退場計画、実施します!」
どこまでも真剣な面持ちだった。
狗飼朱音。
彼女は、水無月風華――ふぅちゃん――の幸せを、誰よりも強く願っている。
その水無月が生まれて初めて抱いた恋心。
その相手が天乃だと知った日から、狗飼はすべてをかけて二人を結びつけようとしていた。
今回の緋澄眞琴に関する過去の素行調査も、その一環にすぎない。
なお、水無月は当時とは名前も容姿も性格すらも変わってしまった彼が初恋の相手だとまだ気づいていない様子である。
天空は、そんな狗飼の真っ直ぐすぎる情熱を見守りながら、どうか、これ以上道を踏み外しませんようにと、心の内で、静かに祈った。




