そして、共に在るために
2035年5月5日午後11時45分
「簡単な話さ。眞琴ちゃんの魔術を魔導書化して、体外に取り出すだけ。これで、魔導書を持った者が『緋澄眞琴』になれる。もちろん、魔導書には適性の問題があるけど――見た感じ、真理ちゃんでも使えるだろう。なにしろ、一卵性双生児だからね。魔術的には、強い類感関係が生じる」
静寂が落ちた。
誰もが、鵲のとんでもない提案に、言葉を失っていた。
だが――
最初に口を開いたのは、緋澄だった。
「……私、やる」
その声に迷いはなかった。
「この魔術、真理のために」
だが、その決意を――
「私は……無理だよ」
遊上は、かすれた声で拒絶した。
「そんなこと……できない。私が受け取ったら、お姉ちゃんが……!」
自分の罪のために、姉を犠牲にすることなど、できなかった。
鵲は、肩をすくめ、あくまで飄々とした口調で言葉を重ねた。
「君が拒むなら――君は一生、眞琴ちゃんと会えなくなるだろうね」
遊上は、震えるように顔を上げた。
「当然だろう? それだけのことを、君はしたんだから」
冷たく突き刺さる言葉だった。
だが、そこに情けはなかった。
「君が、もともと懐古主義者に所属した理由は何だった? 姉との絆を、取り戻したかったからじゃないのか?」
「――っ」
遊上の肩が小さく震える。
「どうしてそんなことを知ってるかって? 単なる推理さ。……でも、外してはいないだろう?」
軽く笑いながら、鵲は続けた。
「今こそ、その願いを叶えるチャンスだ」
それでも、遊上は必死に抗った。
「でも……私の……願いのために、お姉ちゃんに迷惑なんて……!」
鵲は、首を振った。
「それが違うんだよ、真理ちゃん」
その声音は穏やかだった。だが、逃げ場はない。
「これは、君だけの願いじゃない。眞琴ちゃんの願いでもある」
遊上は、はっとして顔を上げた。
「聞いたろう? 彼女は――君のために、世界に二十人といない戦略級魔術を手放す覚悟を決めたんだ」
鵲の声は静かだった。だが、一語一語が、心の奥を撃ち抜いていく。
「君の願いと、彼女の願いは――一致してる。思いは、同じなんだよ」
にこりと微笑みながら、鵲は言った。
「それなのに、君だけが十字架を背負って、彼女を置き去りにするつもりかい?」
「そ、そんな……!」
「悲しいよね。思いは同じなのに、片方だけが苦しむなんて」
鵲の言葉は、淡々としていた。それだけに、逃れようもなかった。
「君がその苦しみを独りで背負ったところで、眞琴ちゃんが耐えられると思うかい?」
遊上は、もう言葉を紡げなかった。
鵲はふと、緋澄へと視線を向けた。
「――どう思う、眞琴ちゃん?」
緋澄眞琴は、迷うことなく答えた。
「――ぜひ、受け取ってほしい。私のために。一緒に、生きてほしい」
その言葉が、遊上真理の胸に深く突き刺さった。
震える手を、ぎゅっと握りしめる。
そして――
「……わかった」
涙をこらえながら、遊上は小さく頷いた。
「……私、受け取る。お姉ちゃんと――一緒に生きるために」
静かに。けれど、確かに。
それを見届けた鵲は、満足げに微笑んだ。
「よろしい」




