第五十二話 黒い底
ルミシャ
おぼえている場所だった。
二千年、ここにいた。
花が咲いて、木が揺れて、小川が光っていた。
うつくしい庭だった。
でも、もう知っている。
これは、いちばん上の一枚でしかない。
膝をついた。
左手を、地面についた。
庭の理に手を置くだけで、ねじ曲げられる。
二千年かけて、この庭から奪った力だ。
手のひらに、力をこめた。
花が、剥がれた。
木も、小川も、空の光も。
絵の具が水に溶けるみたいに、いっせいに流れ落ちていく。
うつくしい庭は、めくれて、消えた。
その下が、あらわれた。
黒かった。
どこまでも、黒い。
でも、暗闇じゃなかった。
闇のなかに、金色の文字が浮いていた。
見たこともない図形が、びっしりと。
時間そのものの、設計図みたいに。
しずかに、ひかっていた。
無数に、どこまでも。
二千年、あたしを閉じ込めていたものの、ほんとうの姿だった。
やさしい庭の顔の下で、これがずっと、廻っていた。
降りる。
黒と金のあいだを、一枚ずつ、沈んでいく。
層を抜けるたびに、金の文字が流れて、うしろへ昇っていった。
百年。
千年。
もっと、昔へ。
どれだけ降りただろう。
ふいに、文字が、まばらになった。
金の光が、尽きていく。
いちばん底だった。
なにもない、黒の底に。
ひとしずくだけ、ひかっていた。
金でも、なかった。
ただ、白い。
色のない、まっしろな光。
あらゆる時間がこぼれ落ちて、最後にたまった、ひとつぶ。
ネルフィが一生をかけて探した場所。
あの子はここに入れなかった。
あたしは、来られた。
あの子のおかげで、あの子の来られない場所に。
手を伸ばした。




