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第五十一話 ただの野原
ルミシャ
着いた。
なんの変哲もない場所だった。
草が生えて、風が吹いて、ただの野原。
でも、ここだ。
二千年前、ここから落ちた。
地面にティユラを下ろした。
立てなかった。 座らせるのがせいいっぱいだった。
背を近くの石にもたせかけた。
「ここで待ってて」
ティユラの目がうっすら開いた。
「あなた、は」
「下りる」
「ここから先は、あたししか入れない」
短冊に書いてあった。
庭の底はひろくて、出口を見失う。
二千年、あたしが彷徨ったのも、たぶんそのせいだ。
ティユラの手をとった。
「雫をとったら、あんたを呼ぶ」
「聞こえたら、呼び返して」
「あんたの声が、帰り道だから」
ティユラの目が、すこし揺れた。
わかった、というように、まばたきをした。
それで、いい。
ティユラがなにか言いたそうにした。
止めようとしたのかもしれない。
でも、その力ももう残っていなかった。
ただ、あたしの袖を指先でつかんだ。
「すぐ戻る」
指をそっとほどいた。
足元を見た。
ここだけ、空気が揺れている。
水の中をのぞくみたいに、景色がたわんでいた。
一歩、踏み込んだ。
音が消えた。
風も、ティユラの息も、いっぺんに。
帰ってきてしまった。
二千年、出られなかった場所に。
自分の足で。
しずかだった。
あいかわらず、なにもかもがしずかだった。




