第四十七話 かすれた紙
ルミシャ
そこから先は、短冊がまばらになった。
結ぶ手が、間遠になっていったんだろう。
それでも、年に一度。
かならず、あった。
いちばん上の一枚に、手が届いた。
ほかのどれより高くて、ほかのどれより、かすれていた。
『ルミシャ、誕生日おめでとう。 ちゃんと、おばあさんになったよ。 会いたかった。』
おばあさんになったよ。
植えた日に、約束した。
大きくなったら、ここで会おう。 二人とも、おばあさんになって。
あの子は、守った。
ちゃんと歳をとって、おばあさんになって。
ひとりで。
あたしは、十七のまま。
約束の片方だけが、ここに残っていた。
会いたかった。
過去形だった。
もう、待っていない。
その上を見た。
短冊は、もうなかった。
ここで終わったんだ。
この一枚が、最後。
これより先、あの子はなにも書かなかった。 書けなくなったから。
両手で包んだ。
かさかさの、かすれた、最後のおめでとうを。
「……ばか」
「先に、おばあさんになって」
「ずるいよ」
そこで、ぜんぶ来た。
二千年、出さなかった声が。
涙が、ぼろぼろこぼれた。
ひとつぶ落ちて、止まると思った。
止まらなかった。
あとからあとから、頬を伝って、顎から落ちた。
声をあげて泣いた。
子どものように。
しゃくりあげて、息ができなくて、それでも止まらなかった。
顔がぐしゃぐしゃだった。
ネルフィ、ネルフィ、って。
もういないのに、何度も呼んだ。
手の中の最後の一枚だけは、濡らさないように庇った。
涙でにじんだら、消えてしまう気がして。
あの子の、最後の字だから。
どれだけそうしていたか、わからない。
枝の上で、ずっと。
ティユラが抱きしめてくれていた。
いつのまにか、すぐそばで。
何も言わずに、ただつよく。
ティユラも泣いていた。
声を立てずに、ぽろぽろと。
裸の幹がその上に伸びていた。
あの子のいない、千九百年。
だれもおめでとうを言わなかった年月。
ティユラの腕はあたたかかった。
生きている人の、温度だった。




