第三十八話 細い苗
ネルフィ
その日、ルミシャは朝からずっと機嫌が悪かった。
「なんで木なの?」
唇を尖らせて、わたしの後ろをついてくる。
「しかも、おばあさんになるまでって。気が長すぎでしょ」
わたしはふにゃっと笑ってしまった。
気が長くて、何が悪いんだろう。 おばあさんになるまでルミシャといられるなら、長ければ長いほどいい。
二人とも、まだ十七。 この先はいくらでもある気がしていた。
丘の上に穴を掘った。 ルミシャは文句ばかり言いながら、根っこをそうっと土に置いてくれた。
口ではいやがるのに、手だけはいつもやさしい。 そういう子だ。
苗はわたしの腰くらいしかなくて。 葉っぱも数えるほどしかなくて。 なんだか、かわいかった。
「これ、ほんとに大きくなるの?」
しゃがみこんだルミシャが枝先を指でつまむ。 さっきまで嫌がっていたくせに、いちばん真剣な顔で。
わたしもとなりにしゃがんだ。
「大きくなるよぉ」
ルミシャの肩にぽすんと寄りかかる。
「わたしたちより、ずっと、ずっと大きく」
そのときのわたしは、すこしも疑っていなかった。
枝に結ぶ紙を、二枚。 家から持ってきていた。
「願いごとを書くの。毎年ひとつ、いちばん高いところに」
ルミシャはめんどくさそうな顔をして、それでもちゃんと受け取る。
わたしはすぐに書けた。
『一人前の魔法使いになりたい』
ルミシャはずいぶん迷っていた。 筆を持ったまま、海のほうを見たり、空を見たり。
やっと書いたのを見せてくれなかった。 顔を赤くして、さっさと結んでしまった。
こっそり覗いた。
『ネルフィと海に行ってみたい』
胸の奥がぎゅうっとなった。
なんだ。 わたしのことばっかりじゃないか。
「ねえ、ルミシャ」
二枚をいちばん細い枝に結んだ。 まだ、手を伸ばせば届く高さに。
「大きくなったら、ここで会おうね」 「この木が、わたしたちより大きくなったころ」 「二人とも、おばあさんになって」
ルミシャは鼻で笑った。
「気が早すぎ」
でも、約束はしてくれた。 指切りまでして。
あのときの指の、あたたかさ。 わたしは、ずっとおぼえていた。




