第三十二話 ふつうの陽
ルミシャ
目が覚めると、朝だった。
窓からふつうの陽が差していた。
体を起こしてみた。 ちゃんと、起き上がれた。
指の先まであたしのものだった。
左手をポケットから出した。 ずっと、隠してきた手を。
ためしに光を灯してみる。 水色のいつもの光。
指先は透けなかった。 いくら使っても減らない。
世界はもうあたしを押し出さなかった。
ポケットに手を戻さなかった。 二千年、はじめてだった。
ティユラは寝台の脇で突っ伏して眠っていた。
あたしの手を握ったまま。
顔色は悪くない。 痩せてもいない。
それでも、知っている。 この女が何をすり減らしたか。
起こさずに、しばらく見ていた。
やがて、ティユラが目を覚ました。
あたしが起きているのを見て。 ほんの一瞬、泣きそうな顔をした。
すぐに、いつもの仏頂面に戻ったけど。
「……あんた、馬鹿だろ」
口を開いたのはあたしが先だった。
「自分の命を、減らすなんて」
ティユラは握った手にすこし力を込めた。
「あなたに、言われたくない」
それはそうだった。 あたしもおなじことをした女だ。 二千年前も、この間も。
ふたりして笑ってしまった。
おかしかった。 死ぬはずだった命がふたつ。
どっちもまだここにある。
ふと、思い出した。 あの子の書いた一覧を。
枯れない樹の実。 海の見える丘。 あの甘味処のいちばん高いやつ。
『ぜったい、また会う』
あの子とはひとつもできなかった。
でも。
あたしにはまだ時間がある。 この女とおなじだけ。
いつか、ひとつずつ。 ふたりでやればいい。
そんなふうに思えたのは。 ずいぶん、ひさしぶりだった。




