第三十一話 琥珀の光
ルミシャ
底に沈んでいた。
もう、浮かぶ気力もなかった。 このまま溶けて消えるんだと、思った。
そのとき。
上からあたたかいものが降りてきた。
光だった。 あたしの水色とは違う。
琥珀と、深緑。 あの子の目とおなじ色の。
それが沈んでいくあたしをつかまえた。
引き上げられていく。 溶けかけた端から戻ってくる。
わかった。 さっき、聞いたばかりだ。
失われた時を足す。 だれかの寿命を移す。
ティユラだ。 ティユラが自分を注いでいる。
水面を破った。
薄目をあけた。
すぐ目の前にティユラの顔があった。 あたしの手を両手で握って。 額を押しつけるみたいにして。
その手から時間が流れこんでくる。
「やめ……ろ」
声がやっと出た。
「あんたが、死ぬ」
「知ってる」
顔もあげなかった。
「さっき、聞いた。 ぜんぶ」
共倒れになるかもしれない。 削れて死ぬかもしれない。
それでも、この女は。 全部聞いた上で。 手を放さなかった。
血を継ぐためだけに育って。 便利な道具として使われて。 やっと、自分のものになった時間を。
なんであたしなんかに。
「ルミシャ」
「いなくならないで。 あなたに、いてほしい」
読めるから、じゃなかった。 ただ、いてほしいと。
そんなふうに望まれたのは。 二千年で、はじめてだった。
振りほどけたはずの手を。 振りほどけなかった。
この女のいる世界から消えたくなかった。
水色と、琥珀と、深緑が。 混ざってひとつになる。
世界があたしを拒むのをやめた。
透けていた指が戻ってくる。 腕も、輪郭も。 ちゃんと、ここにある。
光が消えた。
ティユラはまだ額をあたしの手に押しつけていた。
どこも変わらない顔で。
長いこと、そうしていた。
放す気はないみたいだった。




