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第二十九話 遠い腕
ルミシャ
つかまれたまま。 あたしは最後の力を裂け目に叩きこんだ。
ひらきかけた口がひときわ軋んで。 それきり、閉じた。
ねじ伏せた。 あたしのほとんどと引き換えに。
水色の光がふっと消える。
もう、立っていられなかった。
ティユラの腕が崩れる体を抱きとめた。
腕の中が遠い。
自分の輪郭がどこにあるのか。 もう、わからなかった。
ほどけかけた封の鎖がまた亀裂に巻きついていく。 ひとりでに。
危機は去った。
去ったのに。
あたしの指は手首から先が戻ってこなかった。 腕も、すこし。 透けたまま。
ティユラがあたしの顔を覗きこむ。 何か言っている。
でも、声が遠かった。 水の底から聞いているみたいに。
だいじょうぶ。 二千年、これで生きてきた。
そう思うのに、口が動かない。
肩を強くゆさぶられた。
その手の必死さだけがはっきりと伝わってきて。
それを最後に。
あたしの意識は途切れた。




