第二十八話 ほどける鎖
ルミシャ
ふいに、肌が粟立った。 涙とは別の理由で。
縛られた亀裂が震えていた。 さっきまで眠っていたのに。
あたしが近づいたからだ。
同じものだからわかる。 あれはあたしに気づいた。
封の鎖が軋んだ。 一本、また一本、ほどけていく。
亀裂がひらいていく。 あの日とおなじ口の開け方で。
ティユラが立ち上がった。 封じ直そうと手をかざす。
無駄だった。 ティユラの封印でもこれは抑えられない。
裂け目がティユラのほうへ伸びた。 飲み込もうと。
考える前に、体が動いた。 二千年前とおなじに。
ティユラの前に出た。 裂け目とティユラのあいだに。
左手をポケットから抜いた。
ずっと、しまっていた手を。 出すのは、命を一枚払ってもいいときだけ。 ――今日は、惜しまない。
水色の光があふれた。 詠唱も、陣もいらない。 長すぎた時間がそういう力をくれていた。
裂け目に手をかざす。 ひらきかけた口を力ずくで閉じにかかる。
そのとたん。 世界があたしを拒んだ。
指の先が消えた。 手首まですうっと。
いつもの「また減った」じゃ、なかった。 ごっそり、削られていく。
それでも、手を引かなかった。
ここで退けば、ティユラが落ちる。 昔のあたしみたいに。
あの子を落とすわけにはいかない。
光が強くなる。 あたしの体が薄くなる。
かまわなかった。
二千年、生きた。 もう、じゅうぶんだ。
最後に、守りたいものがあった。 それでよかった。
膝が崩れた。
視界が白んでいく。
遠くで、ティユラが叫んでいた。
その手があたしをつかむのが―― わかった。




