線引きのキース
山の廃坑、そこに男がいた。
その目の前には四つの骸。
どれも額に三つ目の眼窩を開けられ、伏している。
「……野郎、どこの間抜けだ…!?」
男の顔には鼻を切るように一直線の傷跡。
『線引きのキース』と呼ばれる賞金首だ。
怒りを堪える様に呟き、廃坑の中から手下と思しき男が現れる。
「ダメだ、お頭。ガキがいやせん」
「クソ、あいつは納入用の商品だってぇのに…」
ハドゥーンの少女は既にジョギーに保護され、ここには居ない。
人身売買を行う一団を率いるキースは四つの骸を見て言う。
「こりゃ三つ目職人の仕業だな。ライフルを持っちゃいるが薬莢がねぇ、一息に全員撃たれてる」
「四人同時に始末したってんですかい?」
「多分な。そして綺麗にどたまブチ抜く腕前はあのクソ以外考えられねぇ」
そして街の方角より馬で駆けて来た男が慌てて叫んだ。
「お頭ぁ、三つ目職人だ!ガモンをやりに行った奴等が全員やられちまってる!三つ目職人がやりやがった!」
「チッ、やっぱりかよ」
キースはざりと歯を噛む。
「ハドゥーンのガキは居たか?」
「居た!マズいぜお頭!旦那にどやされちまう!」
そしてその言葉にキースは舌打ち一つ。
「旦那の方は俺が何とかする。それより先に三つ目職人のねぐらを探せ!俺たちの商売を邪魔するならブッ殺してやる!」
そして男達は再び街に向かった。
残されたキースはぎらりと廃坑を睨んでいた。
「野郎……よりによってこの街に来やがるたぁな。ここにお前の墓を作ってやるぜ」
がちりとレバーアクションを起こすキース。
その凄絶な殺意は今やジョギーに注がれていた。
と、その背後、身形の良い男が言う。
「オークションは近い。早目に用意をと旦那様が言っておられる。なるべく無傷で手に入れる様に」
「分かってんだよ。銀のおしゃぶりでも口に突っ込んでそこに突っ立ってろ」
ライフルを肩に置いて振り向きながら凄むが男は怯まない。
「立場を弁えろ。お前達が政府に狙われない理由を考えた事はあるか?」
「ハッ、コキやがる。口だけ保護でやってるこた北も南も変わらねーのによ、そんなにハドゥーンってな可愛いのか?どいつもこいつも、ヤってもそこらの売女と変わりねぇってのにな」
「無知とは悲し」
と、言葉半ばに男の目に穴が開いて後頭部から脳漿が飛び散った。
どちゃりと伏した男を前に片手でレバーアクションをするキース。
「おやおや、狩猟の流れ弾が飛んで来ちまったみてぇだ。おい、埋めとけ」
「うす」
そして配下の男達がそれを引きずって林の中に消え、残されたキースは煙草を噴かす。
(ここらが潮時だな。もっと他の客探して南に行くか。そしてその前に……)
その口の端は吊り上がった。
(盛大なお別れパーティやってやるよ、旦那)