集団戦 救援
黒視点
ヤードと隊長格の男の一対一の戦いに、一人の男が乱入して来た。
そいつは最初にヤードに戦いを挑み、一切歯が立たず問題ない存在と判断されていた。
そんな男が戦いに乱入し、下半身を無くしながらもヤードの腕を掴み不敵に笑うと、視界を奪うような光と共に爆発したのだ。
ダンジョンの様子を映していたモニターは爆発が起こった瞬間から砂嵐に変わり、ヤードがどうなったか分からない。
だが戦っていた場所から距離があるこのダンジョン深部にまで爆発音が聞こえてきた事を考えると、無事でいるとは考えられない。
俺はすぐに頭を切り替え指示を出す。
「ムース、回復薬の準備は」
「すでにできております」
「スーラ、プランAからプランCに変更だ。すぐさま回復薬を持ってヤードの元に迎え!」
「是」
俺の指示にスーラは短く返事をすると、すぐにムースが準備していた回復薬の入った袋を手に取りヤードの元に向かう。
「ムース、袋に入っていた回復薬の最高は上級だったな」
「はい」
「治せるか……」
スーラの足の速さを考えればすぐにヤードの場所にたどり着くのはわかる。問題なのは持っていった回復薬で傷を治せるかどうかだ。
回復薬は下級、中級、上級、最高級、秘薬級、神薬級の六段階あり、上級ならば四肢の欠損も一本に付き一カ所治す事ができる。
(だがあの爆発だ。
四肢の欠損だけで済んでいるとは思えない)
おそらくそれ以上の怪我、それこそ虫の息でかろうじて生けている状態でもおかしくない。
「ムース秘薬級、無理ならせめて最高級の回復薬をダンジョンショップから取り寄せられるか?」
本当なら神薬級の回復薬が欲しい所だが、神薬級はその名の通り神が直接造った物のため、神から直接もらうしか入手方法がない。
「秘薬級は現在のDPでは無理ですが、最高級ならば現在のDPの8割を失い一本手に入れることができます」
「わかった。すぐ取り寄せろ」
「わかりました」
DPの8割を失うのはかなりの損害だが、それ以上にヤードを今ここで失う事の方が損害が大きい。
それに損得の問題では無い、大切な仲間の命がかかっているのだ。
今後の事を気にしている場合では無い。
ムースが秘薬級を手に入れるためその場を離れ、その間に俺は今できうる限りの策を講じていく。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
コウラ視点
先にいる仲間追いダンジョンを進んでいく俺達の耳に、通路の先から突如爆発音が届いた。
とっさに先程と同じような攻撃の一種かと思い耳を押さえ衝撃に備え身構えたが、前の様な衝撃は来ず、この爆発はどうやら敵の攻撃ではないと判断する。
(だとしたらこの爆発はどちらが?)
先に進んでいる部隊と攻撃を放ったであろう敵が交戦しているだろうとは予想していた。
だがここまで激しい争いが起こっているとは、予想の範囲外だ。
(ウーロンなら、敵が危険と判断すれば無茶をせず撤退、それが無理なら時間稼ぎをすると判断したのだが……。
それができない状況、または敵がいるということか)
少ない情報を分析し、予想を立てていく。
「あの、コウラ隊長」
顎に手を当て考え込んでしまった俺に、カーフェが少しためらいがちに声を掛けてきた。
「どうした?」
「あの、先ほどの爆発ですがおそらく『過負荷補助付与』による爆発だと思われます」
「なに」
『過負荷補助付与』の事は知っている。
魔術にたけたカーフェがそう言うのならばおそらく間違いないのだろう。
そしてそれが間違いでないのなら、確実に隊員の一人が命を落としたことになる。
「……誰かわかるか?」
思わず低くなってしまう声に、カーフェも表情を曇らせながら答える。
「こちらに漏れてきた魔力の質から、おそらくペッパーだと」
「そうか」
ギリッ、歯を食いしばる音が静まりこんだ通路に響き渡る。
まだ若い隊員が自爆という行為をとった。
真面目で、からかいがいがあり、ひた向きで、常に努力し、自分のスキルと向き合っていた自分よりも若い隊員。
大切の仲間の一人を、ペッパーを死なせてしまった。
俺がその場にいたら、決して自爆なんて真似させなかった。
なんで自爆なんて、そんな真似をしたんだ。
後悔の念が胸を苛む。
だが、ここで後悔をしている場合では無い。
「全軍行軍スピードを上げるぞ」
「「「 はっ!!! 」」」
隊員全員が一斉に返事をし、先にいる仲間の元に少しでも早く駆けつけようと先程以上の速さで通路の先を目指す。
ペッパーが自爆するような行動に出たのだ。他の隊員達も無事でいるとは考えられない。
(待っていろ、すぐそっちに行くぞ)
大切な仲間を救うために、今は一刻でも早く仲間との合流を目指す。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇
スーラ視点
(酷い匂いでござるな)
ヤード達が戦っている場所にたどり着いたスーラは、部屋中に充満する肉の焼け焦げる臭いに思わず顔をしかめる。
(これではあまり鼻は使い物にならぬな)
臭いで場所を特定できないとなると、目視で探すこととなるが爆発の影響で部屋は砂煙が立ち込めており視界も悪い。
(早く探さねば爆音を聞き敵の増援が来てしまうでござるな。
いや、それ以上にヤードの命が心配でござる)
「みな頼むでござるよ。散」
連れて来ていた魔狼達を周囲に散らせ、あたりを探させる。
魔狼達も臭いで探すことはできないだろうが、探す人数が増えればそれだけ早く見つかる。
その考え通り、四方に散った魔狼の一匹が、ヤードを発見したと鳴き声を上げて知らせる。
「ヤード!」
すぐさま鳴き声が上がった場所に駆けつけると、鳴き声を上げた魔狼の前には大きな炭の塊が転がっていた。
(まさかこれがヤードでござるか?)
驚きながら、炭の塊に声を掛け軽くゆすってみる。
すると、「ウ、ぁ…」と炭の塊は小さなうめき声を上げる。
「ヤード、気をしっかり持つでござるよ」
何とか息がある状態のヤードに、急いで袋から回復薬をとりだし体に向かって降り掛けていく。
一本、二本と空になっていく回復薬。
減っていく回復薬に比例するように、回復薬をかけた場所の炭化していた皮膚が剥がれおち元の肌に戻っていく。
(だがこれでは足りぬでござるよ)
皮膚は治った。
けれど治ったのは皮膚や表面に見える傷のみ。
折れた骨や、傷ついた内臓はまだ完治していないし、何より爆発で吹き飛んだ両腕や潰れてしまった両目などは一向に治る気配がない。
(これで袋に合った回復薬は全て使ったでござる。
何とか一命は取り留めたでござるが、このままでここにいるわけにはいかないでござるな)
一命は取り留めたが、それでもまだ危険な状態を脱したわけでは無い。
すぐさま主殿の所に運びさらなる治療をしてもらおうと、ヤードを運ぶためにその体を背負ったとき、周囲を警戒していた魔狼が身を低くして唸り声を上げる。
(ちっ、こんなときに)
思わず舌打ちをしたくなるのを我慢し、魔狼が唸り声を上げる方に鋭い視線を送る。
「クスス、このダンジョンに住む魔族の方々は本当に鋭い目をしている方ばかりですね」
視線を向けた方からそんな声がすると同時に、背後から火球が飛んでくる。
背後から火球が迫ってきた事に気づくが、身動きをとらず、視線を声がした方から逸らす事をしない。
火球はそのまま体に当たるが、当たった瞬間揺らぎ何も無かったかのように消えていく。
「動じませんのね」
「某には、今の様な制度の落ちた幻は効かぬでござるよ」
ヤードと戦っていた時の様な幻では騙されたかもしれないが、今の様な荒が目立つ幻なら一目で看破出来る。
「しかたないじゃない。
あなたの担いでいるその鬼さんが暴れ回ってくれたんですもの、私の魔力はほとんど尽きかけているのよ」
「それならば、戦わず大人しく魔力を回復に専念しておればよいだろうに」
「クスス、そうもいかないわよ」
砂煙の向こうから耳から血を流し、体中いたる所に傷負ったダージンが片手をヤード達に向けながら現れる。
(やっかいでござるな。
避けようにも両腕がないとはいえさすがヤードは重いでござるからな)
素早さが持ち味である某にとって、このままヤードを背負ったままの戦闘は不利。
(戦闘は避け、逃げの一手と行きたいでござるが……)
相手の様子を見る限り素直に逃げさせてくれそうにない。
「私幻術以外の魔法は苦手なのよ。
でもね。可愛い仲間が命を懸けたのよ。
それを無駄になんかさせないわ」
両目に壮絶な決意の光を灯し、ダージンは手の平に魔力を集める。
「ここでその鬼の命、落とさせてもらうわよ」
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今日でちょうどこの作品を書き始めて一年が経ちました。
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