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集団戦  意志と覚悟

今回視点がコロコロ変わります

 ≪鬼≫とは何か?


 魔神ネスが新たな可能性を期待して直接創り生み出した魔族は四人。

 膨大な魔力を持ち魔力を操るのを得意とした、魔族の王である【魔王】クラウン。

 身体能力に優れた、影に日向に魔王を支える【妖賢狐】クイーン。

 生命力と繁殖力に優れた、知恵者であり相談役の宰相【老森】フォーチュン。

 一芸に秀でた能力を持った、魔国の将軍を務める【一鬼闘戦】パルワ。


 この四人を始祖として『悪魔種』、『魔獣種』、『植魔種』、『幽鬼種』の四つの種族に分かれ魔族は数を増やしていった。

 魔神ネスが新たなる進化の道を期待していたこともあり、増え続ける魔族の姿は人の形や獣の形、石の肌を持つ者や粘体の体など千差万別の姿をしていたが、それでもその体には確かに始祖の血が流れていた。

 ゴーレム族、ホムンクルス族、ガーゴイル族などといった感情が高ぶると瞳の色が変わる者達の血は悪魔種を証明し、コボルト族、オーク族、メドゥーサ族などといった鋭い犬歯を持つ者達は魔獣種を証明し、吸生樹族、胞子族、食肉触手族などといった核となる芽を持った者達は植魔種を証明し、ゴブリン族、ゴースト族、スケルトン族などといった頭部に角が生えた者達は幽鬼種を証明していた。


 そして鬼とは、ゴブリン族の王【緑小鬼王(ゴブリンキング)】のように、スケルトン族の王【白骨鬼王(スケルトンキング)】ように、ミノタウロス族の王【獄門牛鬼(ゲートガーディアン)】のように、一芸に秀でた幽鬼種の中でもさらに優れた能力を持つ者だけに名乗ることが許された一種の称号(・・)なのである。

 力無き者は名乗ることを許されず、名乗ることを許された者はその名に恥じぬ行いを求められる。

 それほど幽鬼種にとって鬼という名の称号は重い。


 【契鬼】という契約、盟約、果ては口約束などと言った誓った事を絶対に厳守する鬼として、その名を名乗ることの許された鬼ヤード。


 この戦闘でヤードは、その契鬼としての真価が問われている。




 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 ヤード視点


 (ヤバいな、気を抜くと倒れそうだ)


 こちらから視線を逸らした一瞬の隙を狙い、鎚を持った男の心臓を穿ったが、酸の雨に肌を焼かれ、雷に血液を沸騰させられ、腹部への打撃で骨の何本かは折れた満身創痍の状態でのその行動は、少なくなった体力をさらに削ることとなった。


 (自然治癒は……、期待できそうもないな)


 自身が持つ高い自然治癒力も焦げて炭化している傷口や、爛れてしまっている傷口には上手く働かず、傷口を完治させるためには回復薬を使わなければならない状況だった。


 (余裕があるような口調と、【鬼圧】を使ったおかげで今は誤魔化せてはいるが、それもいつまで持つか……)


 「精一杯もてなしてやるよ」などと言ったものの、現状その場から動く事は愚か、立っているのもつらい。

 力が残っているように見せるためにワザと心臓を穿つという殺し方をして、間髪いれず鬼圧で脅しをかけたことで平気なように見せているだけだ。

 もし今攻撃を仕掛けられたら、まともな反撃もできずその身に受けることになるだろう。


 (残る敵はこの隊の隊長らしき加護持ちの男に、上級魔法を使った魔法使い、それにサポートに回っている女と、魔力切れを起こしているが何をしてくるかわからない危険がある幻使いに、血の気の多い小僧の5人か……)


 ボロボロの体、撤退を考えてもおかしくない状況。

 だがそんな状況でも頭の中に撤退の文字は無かった。


 (せめてもう二、三人ぐらいは倒しておきたいところだな)


 目の前の獲物を見据えて、獰猛な笑みを浮かべる。


 体が痛みで悲鳴を上げる以上に、その身に流れる血が騒いで仕方ないのだ。

 鬼の血が、契鬼の血が、まだ足りないと熱く滾り本能を駆りたててくる。


 主と約束したのだ『派手に暴れる』と。


 派手っていうのはこんなものか?

 暴れるっていうのはこんなものか?


 違うだろうが!!


 たかが大声で吼えて、上級魔法を受けて立ち上がるのが派手か?

 金棒振り回して、一人の心臓を抜きとったぐらいが暴れるということか?


 そんなんじゃないだろうが!!


 もっとだ。

 まだまだ主との約束を果たしちゃいねぇ。

 もっとド派手に、もっと大暴れしないと契鬼の名が廃れてしまう。


 所々炭化し爛れている腕に力を籠め、拳を固く握る。


 (今後の事を考えたら、あの幻使いを殺しとくべきなんだろうがな。

 今はとにかく目の前の敵から片付けるとするか)


 傷口から血は止まらず、爛れた肌が引き攣っているがそんなの問題ない。


 (さぁ、お返しの時間だ。

 派手に逝け!)


 本当なら大声でそう叫び戦いの火ぶたを切りたかったが、今は口を開く体力すらも惜しみ、ただ拳を握り殺しにかかる。




 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 ウーロン視点


 鬼が拳を握りこちらに向かってくる。


 傷だらけの鬼だ。

 血だらけの鬼だ。

 満身創痍の鬼だ。

 しかしその目に宿る光は一切の陰りが無い。


 声を出さずに拳を握りただまっすぐ近付いてくる鬼を見ただけで、足が震え逃げ出したくなる。


 「ウーロンさん」

 「ウーロン隊長」


 背後にいる仲間の震えた声が届かなければ、間違いなく逃げ出していた。

 だがここで私が逃げたら背後にいる仲間達はどうなるというのだ?

 今まともにあの鬼と戦えるのは私だけだ。

 ミントやペッパーは前に出て戦えるが、あの鬼が相手ならもともに相対することもできずに敗れるだろうし、後ろでサポートするダージンとウオッカは現在魔力切れで動くこともままならない。

 ここで私が逃げたら全員やられてしまう。


 「ミント、【精神安定(ホスピタル)】を」

 「は、はい」


 平常心を失って切れてしまった加護【鉄身(アイアンハート)】。

 恐怖で乱れた心を元の平常な心に戻すために、ミントに精神安定の補助魔法をかけてもらう。

 緑の光が体を包み、恐怖していた心に落ち着きが戻る。

 これで大丈夫。

 加護も無事発動できている。

 鉄と同様の硬さを取り戻した私は仲間を守るために、足に力を入れ鬼を正面から迎え撃つ構えをとる。


 (これで少なくても私を無視できないでしょう)


 少なくても私が相手している間は鬼が他の隊員の元に行くことはないでしょう。

 一歩、一歩と鬼が近づくにつれ【精神安定(ホスピタル)】を掛けられているのに、恐怖で心が揺らいでしまいそうになる。

 その恐怖心を無理やり抑え込み、まっすぐ鬼を睨みつける。


 「こい」


 鬼が迎え撃つ私を見て獰猛な笑みを浮かべ太い腕を振りかぶり、風切り音と共に拳に打ち込んでくる。

 その拳に合わせるように、私も鉄の硬さとなった拳鉄拳と呼ばれた拳を打ち込む。


 ゴッギュッツ!!


 それはどちらから鳴った音なのか?

 鉄の硬さになった私を殴った鬼の拳が壊れた音だったのか?

 鉄の硬さになった私の骨が折れた音だったのか?

 それともその両方か?


 右頬を殴られたせいで脳が揺れてフラつく頭では判断ができない。

 ただはっきりしているのは、殴られた箇所が異常に熱くなっているということと、鬼が血だらけの拳を再び振り下ろそうとしていることだけ。

 だから私は余計なことは考えず、ただ振り下ろされた拳に合わせ打ち返す。


 ガッギン!!


 再びあたりに鳴り響く異音。

 だがもうそんな音を気にしている暇はなかった。

 一歩も引かない私を見て鬼が殴る早さを上げてきたのだ。

 殴られるたびに飛びそうになる意識を、仲間を守るというただその意志だけで繋ぎとめ拳を振るう。

 加護だけじゃなく、守るべきものが背中にいるからこそ私は戦えているのだ。




 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 ダージン視点


 その背中は何と頼もしい事か。


 異音があたりに響き渡る。

 音の発生場所ではウーロンさんが鬼とすごい勢いで殴り合っている。

 鬼は凶悪な笑みを浮かべて喜々として拳を振るい、ウーロンさんはその拳に合わせるように拳を返している。

 二人の拳は皮が破け、紫色に腫れ、酷い個所では骨が突き出ていた。

 それでも二人は殴り合う勢いは止めない、それどころかさらに激しさを増していく。

 おそらくこの殴り合いは、どちらかが倒れるまで止まないだろう。


 そしてそのどちらかは間違いなくウーロンさんの方になるだろう。


 「ウオッカ君、援護できそう?」

 「はぁ、はぁ、すみません…、しばらくは無理です。

 ダージンさんの方は?」

 「私も無理ね」


 傷を癒す回復薬なら各自持っているが、魔力を回復させる魔力薬は希少で高価なため隊員全員にはいきわたっていない。

 だから魔力が切れた今は、こうして動かず魔力を回復させる方法しかない。


 (もどかしいですね。ただ見ていることしかできないなんて)


 魔力が回復できれば援護ができる。だから今は我慢するしかない。

 そうわかっていても、削られていくあの背中を見ると心が掻き乱れてしまう。

 そんな中殴り合いを見ていたペッパー君が、我慢できずに援護しようと走り出そうとしたので、服を掴んで無理やり止める。


 (早く魔力を回復させたいのに、無駄な事をさせないで欲しいものだわ)


 動きを止められたせいでペッパー君があせった顔で私の手を振りほどこうとする。


 「止めないで下さいダージンさん、このままじゃウーロン隊長が!」

 「わかっているわ。

 でも今あなたが行っても何も変わらないわ。ウーロンさんを本当に助けたいと思うなら今は我慢しなさい」


 まだ私達は負けたわけでも死んだわけでもない。

 生きている限り手は打てる。


 「でも!!」


 それでも目の前で血を流して戦うウーロンさんの姿を見ると、じっとできないのだろう。

 掴んでいる手を振りほどいて無理やり戦いに参じようとするペッパー君にキッパリと告げる。


 「第一こうなった最大の原因はあなたにあるのよ。

 それなのにまたあなたは短慮で同じことを繰り返す気なの」


 ペッパー君が一人で突出しなければこんなことにはならなかったのだ。

 あの最初の咆哮を受けた後、傷を治療しながら全員でここまでくればこんなことにはならなかったかもしれない。

 それはかもしれなかった話、だからペッパー君に責任を求めたりしたくなかった。

 でも今の状況でのこの短慮な行動を見て、どうしても言わずにはおれなかった。


 私の言葉を聞き振りほどこうとしていたペッパー君の力は弱まり泣きだしそうに顔が歪む。

 だがそんな事は許さない。


 「今は泣いてる暇はないわよ。

 反省も、後悔も、みんなで生き残った後にしなさい!」


 そう叱咤し、泣くのを止めさせる。


 私達のために今必死に戦っている人がいるのだ。

 そんな人を目の前にして私達がすべきことは泣く事じゃない。


 (待っていてねウーロン君、すぐに援護するから)


 焦る気持ちを押さえつけ、今は魔力の回復とあの鬼を倒すための策を必死に巡らせる。




 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇


 ペッパー視点


 『第一こうなった最大の原因はあなたにあるのよ』その言葉が胸に突き刺さる。

 自分が【血気盛ん】を発動させ一人で突っ込まなければこんなことにはならな方のだ。

 今ウーロン隊長が傷だらけになりながら鬼と戦っている。

 鬼の姿が目に入るだけで俺は足が震え、それを隠そうと無茶な行動をしようとしていた。


 「馬鹿だな俺は……」


 ウーロン隊長と鬼が戦っている後方、胸から血を流し光の失った瞳をこちらを向けているブランさんと目が合う。

 戦い方を知らなかった俺にいろいろと教えてくれた恩人は、恩も返せないまま亡くなった。

 それもこれも全て俺のせいだ。


 後悔の言葉が頭を埋め尽くし、懺悔の気持ちが心を支配する。


 「ミントさん、お願いがあります」


 だからその行動に移るのに躊躇いは無かった。




 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 ヤード視点


 (あ~クソ、本当に楽しいな)


 目の前に立つ男を速攻で倒して次に行くはずだった。

 だが目の前に立つ男は俺の拳を受けても引くことはなく、その場に足を止め拳を打ち返してきた。


 (いい拳だ。硬く重く肉体の芯に響いてくる。

 何よりしっかりと拳に意志がこもってやがる)


 威力あれど意志無き攻撃など攻撃にならず。

 なれど意志宿りし攻撃は弱くとも致死となりうる。


 (仲間を守るってか、良い気構えだ。

 だがそれはこっちも同じなんでな!)


 後ろにいる仲間を守るという意思が拳から伝わってくる。

 そしてその思いはこちらも同じなのだ。

 同じ思いならば引くわけにはいかない。


 (派手な暴れるためにこいつらを血祭りに上げようと思ったが、こうしてタイマン張って拳と拳、意志と意志とのぶつかり合いっていうのも華がある暴れようだろう)


 傷だらけの体がさらに傷つき。

 異音と血しぶきを撒き散らしながら、ただ目の前にいる男に拳を振るう。


 何合打ち合ったのか、血だらけとなった拳が男の腹にめり込む。

 これまでと同じようにお返しとばかりに相手の拳が来ると身構えたが、男からの拳は返って来ず男はその場に片膝をついてしまう。


 「ハァ、ハァ、種族差が出たみたいだな」


 お互い加護持ち同士、ならば差が生まれるのはそこになる。

 いくら強くてもこちらの方が体格、体力共に勝っているのだ。

 殴り合いとなればこちらに分があるのは当たり前なのだ。


 むしろここまで打ち合えた事実こそ称賛に値する。


 「おめぇ名はなんという?」

 「はぁ、はぁ……、ウーロン=チャイと言います鬼よ」

 「そうか俺はヤード、【契鬼】ヤードだ」


 これは真っ向から殴り合った敵への礼儀だ。


 「名も知らない相手に殺されることほど屈辱はないからな」

 「まだ…、死ぬ気はないですよ……」


 荒い息を吐きながらウーロンは立ち上がり拳を握り締める。


 「それでこそだ」


 その覚悟、まさに派手に散らすにいい相手だ。

 残りの力を全て拳に集め握り締め、


 「吹き散れ!!」


 全力を持って拳を振るう。


 何とか立ち上がったウーロンでは避けることの叶わない一撃。

 拳は体に当たった瞬間、肉を抉り血を撒き散らかせ爆散させていく。















 ただし、その相手はウーロンでは無く血の気の多い小僧。

 拳が当たる瞬間、小僧がウーロンを突き飛ばし身代わりとなったのだ。


 腹を爆散させられ、上半身だけとなった小僧。

 だがそんな無残な姿など事などどうでもいいのだ。

 大事なのは戦いを汚された事。


 「ふ、ふざけるなよ」


 契鬼として、一人の戦士として戦いを汚された事に怒りを覚える。


 「ふ…、ふざけて…ねぇよ」


 視界が赤く染まるほどの怒りの中、上半身だけとなった小僧が腕を掴み、土気色となった顔でつぶやく。


 「お、俺はし…真剣さ……。

 だ…から、こんなこと…出来るんだ……よ」


 いつ絶命してもおかしくない状況で、それども腕を掴んだ手を緩めることなく爪が立つほど強く握り離れようとしない。


 「あん…まり……、人間の覚悟を………、み…くび………る…な……よ」


 その言葉と共に閃光が俺の視界を埋め尽くし、すさまじい衝撃が体を襲った。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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