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影の正体

 「主殿来ました」


 あれから数日、どうやら待ちに待ったものたちがダンジョンに姿を見せたようだ。


 「確認したよ。

 スーラはそのまま眷族達に指示して監視して、他のみんなはいつでも戦闘に入れるように準備よしていて」

 「是」

 「了解だ」

 「は~い」


 ここ数日は忙しくても警報がなったらモニターで侵入者を確認するようにしていた。おかげでスーラの通信ですぐに現在モニターに映っている侵入者たちが噂の連中だとわかった。

 黒はそんな侵入者を見ながら矢継ぎ早に仲間達に指示を出す。

 それに皆答えて指示通りに素早く動き出す。


 「それにしても、あれが話に出てきた奴らか……」


 モニターに映る侵入者の姿は三人。

 まだ青年になったばかり見える若い二人に、ベテランという雰囲気を醸し出す顎髭の生えた40代ぐらいの男が一人。


 「冒険者では無いようですね」

 「そうだろうな。

 三人とも同じ服を着ているなんて、冒険者じゃまずあり得ないだろうからね」


 同じようにモニターの見ていたムースの意見に黒は同意する。

 冒険者たちは自身の命を守るためそれ相応の自分に合った装備に身を包む、そしてそんな人間がチームを組むのだからまず全員が同じ装備になることは無い。

 だが噂の三人が着ている服はどれも同じ作りの服で、濃い青色の上着に白色の長ズボン、腰には同じ造りの剣を吊るし、胸元には鷹をモチーフにした紋章が縫い付けられている。

 それだけの情報があれば侵入者の正体は大体想像ができる。


 「兵士か……」


 黒のつぶやきに答えは無く。

 モニターに映る三人はゆっくりとダンジョンを進み始めた。






 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆



 「コウラさん、本当に大丈夫なんですか?

 噂じゃ、このウワバミってダンジョンに入った奴は大怪我して戻って来るか、死ぬしかないって話ですよ」

 「何度も大丈夫だって言ってるだろう。

 俺は何度もこのダンジョンに足を踏み入れているが、ちゃんと無傷で戻ってきてるぞ。

 危ないのはこの通路の先だろうよ。

 そこまで行かなきゃ用心さえしとけば問題は無いさ」


 ビクビクと震えながら付いて来る後輩のホカリに俺は自信満々にそう答える。

 本当のところはまだ調べきれていないだけでこの通路も危険かもしれないが、それを今言った所でホカリがさらに怖がるだけなのであえて言わず、安心だと胸を張る事で恐怖を薄れさせようとする。


 「まったくホカリは怖がりだな」

 「うるせぇよ。

 怖がりで何が悪いんだ!

 怖がりなぐらい慎重の方が生き延びることができるって話し知らないのかよ!」

 「その言葉は知っているが、それはあくまで怖がりなぐらいであって、腰がそんな引けている状態じゃ逆に何かあったときに危ないと思うぞ?」


 同僚のウーロンにそう言われ、ホカリは体に力を入れて引けた腰を戻す。

 怖がりながらも勇気を振り絞り頑張ろうとするホカリの姿に感心しながらも、なんでそんなに無理するんだという疑問が浮かぶ。


 「なぁホカリ、そんなに怖がるならわざわざダンジョン探索兵に志願しなければよかったんじゃないか?

 この任務はあくまで志願制だったから、そんなに怖がるくらいなら無理にやらなくてもよかったはずだぞ?」

 「わかってるよそれぐらい。

 俺だって本当はこんな任務やりたくなんか無かったさ。

 でもな最近俺のおふくろの体調が良くなくて、おふくろの体調を戻すために結構高い治療薬が必要なんだよ。

 この任務は危険に見合うだけの危険手当がたんまり付くから、だから…」

 「そうか……」


 そう言う事情なら仕方ないなとウーロンは納得する。

 同じくそれまで黙って話を聞いていたコウラも話を聞き終え、少しでも怖さがまぎれればと思い声をかける。


 「それにしてもよかったなホカリ。

 そんな金が必要な時に、こんな任務があって」

 「えぇ、それだけは本当にありがたいと思いますよ」


 憎々しげに言いながら、その意見にだけは同意する。




 事の発端はこのダンジョンウワバミから帰還した者が持ち帰ってきた物が原因だ。


 色とりどりの宝石は今まで見た事のないほど高額の値で取引され、儀礼刀はその見かけの素晴らしさだけでは無く切れ味も素晴らしいことから鍛冶を営むものたちがこぞって買い求め、薬草などはそれまで待ちの近くで取れていた同じ薬草とは比べられないほどの効果を見せた。


 誰もがウワバミから持ち帰った宝に目がくらんでしまった。

 そして一度目がくらんだら最後、それから目が離せなくなっていた。


 何処から噂を聞き付けたのか冒険者たちが次々に待ちに訪れてきたため、街は今までにないほどの賑わいを見せるようになった。

 そしてその賑わいを聞き付け商人が集まって来てまた商売を始めるものだから、賑わいはさらに増していった。


 何人もの冒険者が挑んで、そのうちの少数が宝を傷だらけになって持ち帰って来る。

 宝は街に持ち込まれると街の賑わいはさらに激しさを増していく。


 それはまるで小さな火が、風にあおられて大火になるように……。




 街が賑わいを見せる中、一人その賑わいについて憂いている者がいた。

 この街の領主であるビルーだ。

 賑わうのは領主として嬉しい事だ。

 街が活気好き、多くの人間が領内で金を落してくれる事で領主であるビルーの懐も暖かくなる。

 本来ならば何もせず勝手に賑わいが舞い込んできた事で嬉しい限りのはずだ。

 では一体何を憂いているのか?


 それは、ウワバミから持って帰って来る宝の少なさだ。


 帰還した冒険者に話を聞くと(体中におった大怪我が原因なのか帰還した者は一様にダンジョンの事を話そうとせず、震えるばかりであったがそれを無理やり聞き出した)まだあのダンジョンには山ほど宝が眠っているようだ。

 賑わいを増幅させた商人達からももっと宝が欲しいという声が上がってくる。


 (そんなこと私に言うな!)


 わざわざ面会して来た商人がビルーにそう願うたびにそう叫びそうになるのを何度押さえたことか。

 宝が欲しいのならば自分で取って来るか、冒険者を雇えばいいだろうと思いながら、ビルーもこれからもことを考える。


 賑わいの火種はあの持ち帰って来る宝だ。

 宝が無くなっては賑わいも消えてしまう。

 それだけは何としても阻止しないといけない。


 宝を取って来るように冒険者に頼んでもよかったのだが、ビルーの治める領内に愛着の無い者はどうも信用できず、またとってきた宝を素直に渡すかも信用でき無かったビルーは領内にいる兵士達に宝を取ってこさせようと新たに部隊を設立した。


 もちろんその部隊が言い渡されたとき、兵士たちは誰も任務に就こうとしなかった。

 それは兵士として領内のあちらこちら歩き回り、人々と密に接しているため宝を持ち帰ってきた者のひどい姿を知っていたからだ。


 仕事とは言えあんな姿になるのは嫌だ。


 誰も部隊に入ろうとしないため、ビルーはこの部隊に入った者は任務代として高額な危険手当を付けることにして、さらに領内一の腕前をもつコウラを隊長に無理やりつけることで、何とか任務を遂行できるだけの人数が部隊に集まったのだ。


 隊長に無理やり任命されたコウラは、いやいやながらもやるからには少しでも安全にと考え、少しずつダンジョンを進み(その際、ビルーに「進みが遅いのではないか!」と怒鳴られたが、「安全のためです。私の考えが気にくわないのならどうぞ隊長の任から外して下さい」と逆に言い返した)、冒険者たちからウワバミの情報を集め、ダンジョンに怯える部下たちを少しでもこの場所に慣れさせようと、浅い部分だけだが何度も連れて来てダンジョンの空気に触れさせた。

 それが何度もウワバミに出入りすることになった原因である。


 こうして領内の兵士たちで構成された部隊『ドリンク』は、ウワバミに足を踏み入れて行く。

 その先に何が待ち受けているか知らずに……。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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