撤退
コウラ視点
首の後ろがムズムズする。
前回と同様、ダンジョンに部隊の連中が雰囲気に慣れるように、ゆっくり歩いているときに感じた首のかゆみ。
このかゆみはコウラが持つスキルの一つ、【直感】が発動した時のサインだ。
(この先に、なにかあるのか?)
目に見えず、何も変化が無いいつもと変わらないダンジョンの通路、だが直感のスキルが発動したのならば、確実に何かがあるのだ。
今までも、この直感のスキルを信じたおかげで何度も命を救われてきた。
(いや、何かあるなじゃないな。
この首のかゆみが治まらない所を見ると、何かがすでに始まっているな)
そう考えたとたん、首のかゆみがスーと消える。
(どうやら当たりの様だな。
だとすると…、いよいよここのダンジョンマスターに目を付けられたか?)
コウラは片手を上げ、後ろを歩く部下二人に止まるように指示をする。
ダンジョンでは何が起こるか分からないため、あらかじめ声に出さなくても指示が出せるよう、いくつかのハンドサインを決めてある。
突然の立ち止まれのサインに、指示通り立ち止まりはしたが部下の一人ホカリは慌てている。
「ど、どうしたんですかコウラさん。
い、いきなりとまれなんて、て、敵ですか?」
慌てるホカリを無視して、俺は黙って周囲の壁を確認する。
「な、なんで無視するんですか!
答えてく――」
無視された事で、声を荒げて俺に詰め寄ろうとホカリを、ウーロンが背後からしがみつき止め、ついでに片手で口も塞いで黙らせる。
「落ちつけホカリ。
ダンジョンに入る前にコウラさんから言われた事を忘れたか、『指示には黙って従う、慌てない、生き延びたければ俺が集中しているときは邪魔をするな』、お前が慌てたって仕方無いだろう。
ここは黙って次の指示を待てよ」
ウーロンの言葉で、ホカリはやっと大人しくなる。
そんなやり取りを壁を調べながら聞いていた俺は、心の中でウーロンを褒める。
(いい判断だ。
慌てたホカリは論外だが、突然の事態に慌てないウーロンはこの先有望だな)
そんな評価を加えつつ、壁を詳しく見たり叩いたりするが特に前回と変わりは無い。
壁を調べ終わると、今度はしゃがみこみ床の方を確認するが、こちらも特に変わりは無い。
(周囲は問題なしか。
だとすれば、すでに俺達は何らかの術にかかっているのか?)
懐から消しゴムほどの透明な石を取り出し「鑑定」と唱える。
名前:コウラ=コカ=ターサン
状態:正常
短くそれだけ出ると透明な石は粉々に砕けてしまう。
ちなみに、最初が名前で次が名字、最後は家名となる。
一応は爵位を与えられているコウラには、こうして家名まで表示される。
「お前達も鑑定石を使って見ろ」
粉々に砕けた事など気にせず、二人の部下にも同じようにするように言う。
二人は、その指示に従い懐から透明な石を出すと同じように「鑑定」と唱える。
名前:ホカリ=コーナ
状態:正常
名前:ウーロン=チャイ
状態:正常
とそれぞれ出てから石は砕け散る。
(特に誰も異常は無いな)
今使ったのは『鑑定石』という魔道具。
これを手に持ち「鑑定」と唱えると、その人物の名前と状態が現れる。
もしも相手が変装していれば違う名前が現れるし、状態に異常があればそれも表示される。
結構高価な魔道具で、その上一度だけの使い捨ての道具のため持っている人間はあまりいない。
だがコウラは何があるか分からないダンジョン探索をするので、領主に無理やり金を出させ数をそろえさせた。
(異常は無いのはわかったが、このまま先に進むのは止めておいた方がいいな)
無理をしないと決めていたので、すぐさま引き返すことを決め体を反転させる。
「撤退ですか?」
「あぁ、どうも目を付けられたようだからな。
この先進む時は、それなりの準備をしないといけないようだ」
歩いてきた道をそのまま戻っていく。
だがコウラが背中を見せた途端、またしても首がムズムズして直感のスキルが発動する。
(このまますんなり返してくれるってわけにもいかないか)
振り返ることなくコウラは懐に手を入れある物握りしめる。
そして背後にいる二人に小さな声で伝える。
「いいか、今から三秒後に出口に向かって全力で走れ」
「えっ、コウ――」
「わかりました」
理由を聞こうとするホカリの口をウーロンが塞ぎ返事をする。
それに小さく頷きカウントを取る。
「三、二、一、走れ!!」
俺の声に二人は全力で走りだす。
そして俺は手に持ったものを懐から取り出すと、背後に向かって投げつける。
鑑定石と同じような大きさの石、ただし今投げた石の色は赤色。
その石が床にぶつかった瞬間――、
ドッカーン!!!
すさまじい音とともに通路に爆発が起きる。
投げた瞬間から爆発に巻き込まれないように、俺も出口に向かって走り出したというのに背後からすさまじい爆風が襲ってくる。
「チッ、ここまでの威力だなんて聞いてないぞ」
悪態を吐きだし、その場に立ち止まり爆風に耐える。
切り札の一つとして、魔道具屋からかった『爆発石』。
石の大きさによって爆発の威力が変わってきて、今投げたのは店にある中で最大の大きさの爆発石だった。
爆風が過ぎ去り、爆発石を投げた方を見るとあたり一面真っ黒に焦げていた。
かなりの爆発だったその中で、何かが動いているのが見えた。
「あの爆発に耐えるのかよ」
あの威力に耐えられるなんてどんな魔族だと思いながら、それでも動きを見る限り無傷では無いと判断し、すぐに止めを刺そうと腰の剣に手を握る。
だが――、
「ウォオオオオオオオン!!!!!!!」
通路の先から、獣の叫び声が聞こえてくる。
「止めを刺せないように、威嚇しているのか」
叫び声に足を止めたコウラの耳に、通路の奥からこちらに迫りくる足音も聞こえてくる。
(これは止めは無理だな。
素直に撤退することにするか)
止めを諦め背中を向け走り出す。
背中を見せてももう首にかゆみは襲ってこない。
つまりもう安全だということだ。
(次来る時は、かなり準備が必要だな)
そう考えながらコウラはダンジョンから脱出する。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆
「それで、怪我の具合はどう?」
「幸い命に別状は無いでござるが、しばらく戦闘は無理でござるな」
「そうか……」
先程の爆発で密かに忍び寄っていたシャドーウルフ二匹が怪我をしてしまった。
影の中にいれば怪我をしなかったのだろうが、背後を見せ逃げようとしたのを見て、魔狼の本能が追いかけようと働いてしまい、影から出た瞬間にあの爆発に巻き込まれてしまった。
「シャドーウルフ達の存在に気づいていたのか?
いや、そんなそぶりは見えなかったが……」
何にしても、彼等がダンジョンの仲間に怪我を負わせた事には変わりない。
「なかなか油断できない相手らしいね」
暴力の塊であった狂信者と比べ、今度の相手は実力は低いかもしれないが知恵を使って戦っている。
「今度来た時が楽しみだよ」
怪我した仲間の仇をどう打とうか、そう考えながら今日来た相手の対策を考えていく黒であった。
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「優しき者」「鍋会と盃」を改稿しました。
12月7日の改稿で、どちらとも1000字ほど文章が増えていますので、よろしければまた読んでみて下さい。




