見え始めた敵の影
一週間ぶりの投稿です。
今回から新たに〇〇編が始まります。
ネタバレになるので、まだ何編かは伏せています。
狂信者を倒したあの日から二週間が過ぎた。
ダンジョンの主戦力となるアラーネアやクロコディルが怪我で一時的に戦線を離脱したため、その穴を埋めるように進化したヤードや、戦闘に参加しなかったメーサが張り切って侵入者の相手をしてくれた。
「狂信者に比べると、まったく手応えが無いな」
ガッチガチに全身を重装備で固めた盾職の侵入者を片手に持っていた金棒で殴りつけると、地面に落ちた食器ように身を守るために掲げられた鉄製の盾はもちろん重装はバラバラに壊れ、身を包んで人間も肉片を撒き散らせながら死んでいく。
現在ヤードが持っている金棒は、任侠の神ブライから狂信者を倒した褒美として授けられたものだ。
名を『妖塵棒』。
神様から褒美として授けられた物だけあり、重量のある金属はかなりの衝撃でも折れず曲がらず、突起の様な棘が表面に付いており破壊力を上げている。
この妖塵棒を授けられたときかなり嬉しかったのだろう。
凶悪な顔がさらに凶悪に見えるような笑みを浮かべていた。
そして現在はその妖塵棒を片手に持ち、今まで使っていた愛刀を腰の後ろに差して侵入者たちを文字通り粉砕している。
「マしゅター、ドンとメーサに任せるの!」
平らな胸を張り、元気よくそう宣言するメーサ。
狂信者との戦いに参加しなかった分、メーサは精力的に戦闘に参加して力を上げるようとしていた。
援護主体の戦闘方法であるため、眷族の蛇達との連携を上手く取るようにしながらも、少しずつ接近戦でも対処できるようにわざと一対一で戦う場面を作ったりすることもあった。
何より、スーラの眷族が死んだことも見たせいだろう。
眷族に死者が出ないようにかなり頭を使い一方的に罠をかけ仕留めて行く戦い方に磨きがかかってきた。
ちなみに、連続で戦い続けると疲労でミスをする可能性があることから、時々眷族達を休ませてゴンラとスラりんを連れて戦闘することもある。
「あの~、メーサさんおらは後始末だけでいいのですが……」
遠回しに自分は戦いたくないというゴンラの言葉を無視して、張り切って侵入者を倒しに行くメーサ。
引きずられるように連れて行かれるゴンラとその周りを飛び跳ねながら付いていくスラりん達の姿に大分癒された。
頼りになるヤードやメーサ、何かと心配して気をまわしてくれるムース、眷族の死を乗り越えようとするスーラ、他にもたくさんのダンジョンの仲間に助けられ救われた二週間だった。
仲間が死んで落ち込んでいた心は、仲間のおかげで大分元に戻すことができた。
「それでね、それでね。今日来た侵入者たちみんな攻撃をひょいひょい不器用に避けるゴンラに集中していたから、簡単にメーサの石化の魔眼にかかったから、あとはジャジャ達と一緒に圧殺して倒したの。」
みんなで食べる夕食の席でメーサが嬉しそうに今日の成果を報告する。
「相変わらずゴンラは無駄にすごいな」
「確かにそうでござるな。
あの回避能力だけはこのダンジョンで一番ではないでござろうか」
今日の侵入者はかなりの数がいたのに、それを疲労困憊ながらも無傷で戻ってきたゴンラの姿を思い出しながらそう称賛の声を上げる。
だが―、
「いかに回避力があろうと、攻撃力が無ければ意味がありません。
そんな事ではマスターのお役にたてないではないですか」
ムースは回避するだけで、誰も倒せなかったゴンラに不満の様だ。
「役に立たないわけではないよ。
でも確かにゴンラにはもう少し攻撃力が欲しいかな」
これからの事を考えると、回避力だけでは心もとない所がある。
「いや、あれに攻撃力を求めるのは難しいだろう。
『グールに宝石』って言葉がある。
いかに綺麗な宝石でも腐った奴が身につけたら価値が損なう意味だ。
ゴンラはあの回避力があるからあの戦いの中今まで生きてこられたんだ。そこに攻撃力まで求めたら死期を早めることになるだろうよ」
グールとは全身が腐っている死体の体を持つ魔族の一族だ。
腐ってはるが、頭も回り、腕前もそれなりにあるかなり腕の立つ一族だ。
だがグール一族はその腐った肉体のせいで見た目がかなり酷く、悪臭もすごいため他の魔族からは距離を置かれている。
今までゴンラに色々と訓練させていたヤードから出た言葉だけあり、かなりの説得力がある。
「でもでも、『スケルトンは骨身を惜しまず』って言葉もあるの!
ゴンラも頑張ればあの回避力を持ったまま攻撃力も上がって、スーパーゴンラになるかもしれないの!」
「……メーサそのことわざは、骨だけの存在のスケルトンが無謀な挑戦を骨身を惜しまず頑張り、あとには骨すら残らない残念な結果になったということから、下手な努力は身を滅ぼすという意味ですよ。
けっして骨だけの存在であるスケルトンがそれでも努力を続けるという間違った意味では無いですからね」
「も、もちろんわかってるの!」
顔を真っ赤にして否定するメーサを見れば、明らかに間違った風に覚えていたとわかるが、仲間達は誰もそこは追及しない。
ちなみにスケルトン一族は骨だけの体を持つ一族で、力が弱い時は話すこともできないが、力を増すと舌も無いのに話す事ができるようになるという不思議な一族として有名だ。
「まぁとにかく、ゴンラはこのまま下手に新しい力を求めるよりも、今のまま自分の長所を伸ばす方向で行こうか」
「それがいいな」
「よし、他に何かみんなから報告ある?」
ゴンラの事について一段落したので、そう聞くとスーラが少し遠慮がちに気になることを報告してくる。
「主殿、最近ダンジョンに何度も出入りする者達がいまして」
「何度も?
それは何度も戦ったってこと?」
「いえ、その者達は入り口から少し入った通路の所までは足を踏み入れるのですが、なにやらあたりをしきりに確認したあと、すぐに帰って行きますのでまだ戦った事はありません」
あたりを確認という言葉が引っ掛かる。
罠を警戒しているのか?
だがそれだけでは無いような気もする。
DDMである黒は侵入者がダンジョンに入ると頭に警報が流れるようになっているが、最近ではこのダンジョンも名が知られてきたのか、かなりの侵入者が来るため危険レベルが高い者以外の警報の音をかなり小さくしており、入ってきた者全員をモニターで確認することもたまにしかしなくなっていた。
(しまったな。狂信者との戦いの後のせいで少し気が緩んでいたかな)
心の緩みを反省しながら、今は無しに出てきた者達について考える。
「スーラ、その出入りするのは同じ奴か?」
「そやつ等はいつも二人から三人で入って来るのですが、一人以外毎回違うものでござる」
臭いで同じ人間かそうでないかを嗅ぎ分けたスーラがそう告げると、黒は眉間にしわを寄せる。
これはもしかしたら何かやばい事の前兆なのかもしれない。
「主よ……」
その予感をヤードも感じたのか、指示を待つように尋ねてくる。
色々予想はできるが、今はまだ確証を持てない。
一度直接そいつらを見る必要がある。
「スーラ、次にそいつらが来たらすぐに俺に通話で教えてくれ、それからそいつらが姿を見せたら警戒レベルを一段上げよう」
黒の指示に皆真剣な顔でうなずく。
狂信者との戦いの後、ダンジョンに住むものたちはあきらかにそれまでと違い、すぐにでも黒の指示に従い臨戦態勢が取れる心構えができるようになった。
「できればそいつらを捕まえて目的は何なのか尋問したいとこだけど、危険と判断したらすぐに排除しよう」
捕縛はあくまでできたら。
無理ならば殺す。
下手に傷つくよりも、そちらの方が安全だ。
黒の指示で、仲間達の目に闘志の光が宿る。
その光を心強く感じながら、黒は現れた新たな敵の影にこれからどう対処していくか考えるのであった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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ただ今作品の修正をしています。
そのため最新環の投稿は三日に一度の割合になると思います。
現在「閑話 クラウンの独白」「閑話 ムースの独白」を加筆修正しました。
前のより約1000文字ほど文章が増えています。
よろしければ読んでみてください。




