閑話 前編 色がつきました!!
ゴンラ視点
狂信者がダンジョンを襲来してからしばらく経ったある日、おらは主様に会うためにダンジョンを進んでいた。
できるならもっと早くに主様に会いに行きたかったのだが、ムースさんが「マスターも疲れていますので、もう少し休ませてあげましょう」と優しいセリフを、殺気を込めて言われたせいで今日まで会うことができなかった。
後日、その時の事をヤードさんに話すと、ヤードさんは苦虫を噛み潰したような表情で、「あいつは看病って名目を使って、主との二人っきりの時間を楽しみたいだけだろう」と言っていた。
おらもそう思うが、命が惜しいので決して口に出したらいしない。
それからムースさんとヤードさんで何やら話し合いがもたれ、その結果おらは主殿に会えるようになった。
(一体二人がどのような話し合いがあったのか、おらにはわかりません。
ただ話し合いと言いつつ、二人が話し合っていた場所はボロボロに壊れており、なおかつ二人の体に血のような液体が飛び散っていました。
話し合いというより、殴り合いだったのでは?)
「やぁゴンラ、久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです主様」
久しぶりに会った主様は、以前と変わらずおらに気軽に声をかけてくれます。
前にあった時よりも少しだけ顔色が悪いようです。やはり体調がよろしくないのでしょうか?
そんな心配をしているおらに気づいたのか、主様は気を逸らそうと話を振ってきます。
「それで、どうしたの?
ヤードの話では俺に会いたがっているってことだったけど?」
「そうなんです。
実は主殿に相談したい事がありまして……」
そう、おらはどうしても主殿に解決していただきたい事があるのです。
「相談?まぁ俺に解決できるか分からないけど話してみてよ」
「実はスラりん先輩達の事で……」
「スラりん達?
何、スラりん達と喧嘩でもしたのかい?」
「いえ喧嘩なんてとんでもないです。
あんな素晴らしい先輩に、おらが喧嘩売るなんてとんでもないですよ!!」
「そ、そうか……、スラりんはいい先輩をしてるようだな」
「はい!!」
あんなカッコイイ背中を持った魔獣?は他に見たことが無いです。
他の皆さんにもスラりん先輩のあふれ出るカッコ良さを知って欲しいのですが、どうもまだ言葉がわかるのがおらだけのようで、スラりん先輩のカッコ良さが全然伝わらないです。
「で、そのスラりん達に何があったの?」
「それが、どうも狂信者との戦いに参加できなかった事が悔しかったらしくて……」
狂信者とヤードさん達の激戦はおらもモニターを通して見ていた。
自分より強いヤードさん達がボロボロになって行く姿を見て、何もできないだろうけど、すぐにでも駆けつけたくなった。
そんな気持ちを何とか抑えながら、おらは役に立たない自分に苛立ち、力が無い事に後悔をにじませ、手が真っ白になるぐらい強く握りしめながらずっとモニターを見ていた。
そして戦いが終わった後、今度あんな奴が来た時は絶対におらも一緒に戦ってやるという目標ができた。
そしてそんな気持ちになったのはおらだけでは無く、男義溢れるスラりん先輩達も同じような、いや男義が溢れる分だけおら以上だった。
「正直、狂信者との戦いを見ていた時は大変でした」
おらも胸に来るものがあったのですがそれ以上に、スラりん先輩達の勢いがすごかった。
仲間のウインドウルフが倒れ殺されたとき、激高したスラりん先輩がダンジョンに向かおうとするのを必死に押し止めた。
(スラりん先輩の体はゼリーに近い触感だから動きを止めようとしても、滑って滑ってなかなか上手く止めることができなかった)
ヤードさん、アラーネアさん、クロコディルさんが倒れた時は怒りで体がブルブル震えていた。
(他の人曰く、いつもと同じようにブルブル震えているようにしか見えなかったらしいけど、おらにはその違いがちゃんとわかった。
いつもの倍近くも激しくブルブルしていた)
そして進化したヤードさんが見事狂信者を打倒したとき、歓喜に震え、その場で飛び跳ねまくり周辺にあった物を破損させてしまった。
(よっぽど嬉しかったのか、スラりん先輩達は空中で仲間同士体のぶつけ合いを始めたせいで、部屋にあった調度品が次々壊れてしまった)
「それは何と言うか……、ごくろうさま?」
「いえいえ、おらは別に苦労なんかしてないですので……」
そう苦笑して言いながらも、なぜか言葉の最後に溜息が出てきてしまう。
「それで今は、『次は俺達も戦うぞ!!』と張り切って特訓しています」
「それはいいことじゃないのか?
俺としても戦力が増えて嬉しいのだが」
「おらもスラりん先輩達が強くなる姿を見るのは嬉しいです。
特訓にはおらも参加させていただけますし、ただ……」
「ただ?」
「最近特訓の成果が体に表れ始めて、それが元でスラりん先輩達が喧嘩するようになってしまいまして……」
「成果に差が出た?
実力に差が出たから喧嘩になっているってこと?」
「いえ、実力に差なんてありません。
スラりん先輩達はみんな同じ特訓をしていますので、実力もほぼ同じです」
「えっ、ならどこに喧嘩する原因があるんだ?」
「あ~、これは見てもらえばすぐわかるんですが…………」
これは口で言うよりも、実際見てもらった方がわかりやすい。
っというより見て欲しい。
おらは許可を貰い、スラりん先輩達をここに連れてく事にする。
「お待たせしました主様。
これが今のスラりん先輩達です」
おらがいない間にまた喧嘩をし始めていたスラりん先輩達を何とか主様の所まで連れて来たおらは、その姿を主様に見せる。
おらと同様、スラりん先輩達も主様に会うのは久しぶりだ。
「えっ…、その…、なんだ……」
スラりん先輩達を見た主殿は目を見開き、何か言おうと口を開くが言葉が続かずただ開け閉めしまうだけになってしまう。
それからしばらく経った後、なんとかスラりん先輩達に困り顔で感想を述べる。
「大分……、カラフルになったね」
そう、現在三人いるスラりん先輩達はそれぞれ体の色が変わっているのだ。
狂信者の戦いで激昂して駆けつけようとしたスラりん先輩は、燃えるような赤色。
怒りで体をブルブルふるわせていたスラりん先輩は、深い水の底の様な青色。
喜んで人一倍飛び跳ねていたスラりん先輩は、元気な花の様な黄色。
赤、青、黄色の三色になったスラりん先輩たち。
(色は変わっても、新しい能力など何もないため中身は前と何も変わらない)
「それで?色が変わったのはわかった。
けど、それがなんで喧嘩の原因になったのかがわからないのだが?」
「それが、おらにもよく理解できないんですが……、
誰がリーダーに相応しいかで喧嘩してるようです」
色が同じだった頃は三人とも仲が良かったのに、色がついたら喧嘩するようになってしまった。
三人に色の個性が出て来たため、誰がリーダーにふさわしいか話してる時に誰もリーダーの座を譲らなかったのが原因らしい。
元は同じなのに、色がつくと喧嘩するようになる。
また一つスライムの神秘にまた触れた気がする。
≪だから、俺がリーダーになるんだって言ってるだろう≫
≪何を言ってるんだ君は、リーダーとはみんなを率いる者を言うのだぞ。
だとすれば私みたいな青い冷静な者がやるべきだろう≫
≪はっ、何が冷静だ。
いいか、リーダーに必要なのは熱い魂を持った奴、つまりは赤い情熱の俺に決まってるだろう≫
≪え~、そうなの?
ボクはみんなを笑顔に出来る人がリーダーだと思うよ?
だから、いつもニコニコしてる黄色のボクがリーダーでいいんじゃないかな~?≫
≪≪ ダメに決まってる(でしょう)!! ≫≫
スラりん先輩達は口々に自分の意見を言いながらプルプルと体を震わせ、時には体を激しくぶつけ合いながら、誰がリーダーにふさわしいか話し合っています。
「……なんて言うか本人達は真剣なんだろうが、言葉がわからない者たちから見たらただプルプル震えているようにしか見えないんだろうな」
スラりん先輩達の話し合いを聞きながら主様はそうつぶやきます。
最初はスラりん先輩達の言いたいことがわからなくて、おらが通訳していたのですが、それではヒートアップするスラりん先輩達の話し合いに通訳が追い付かなくなり始めたので、主様はわざわざダンジョンショップで【通訳玉:スライム】を買われ直接スラりん先輩達の言葉を耳にするようになりました。
ちなみに通訳玉は、卵ほどの大きさの透明な丸い石で、これを手に持っている間は通訳玉にセットしてある者と言葉を互いに交わし合うことができるようになるのです。
他にも【通訳本】というものがあり、これは分厚い本を全て読めば自然と会話がわかるスキルが身に付くアイテムがあるそうです。
(ショップで通訳玉を買ってきたとき主様は「会話ができるようになるのはいいけど、かなり高いから結構DP持っていかれたな~。通訳本の方はさらに高いし、言葉を理解するっていうのはやはり難しいものがあるね」と言っていました)
話が通じるようになった主様は、ひとまず黙ってスラりん先輩達の話し合いに耳を傾けていました。
色がついた事で、先輩達はそれまで以上に個性的になって来たので、ただ話を聞いているだけならなかなか面白いです。
もちろん面白いだけでなく、前と変わらず男義が皆あふれているのでおらは変わらず尊敬もしています。
≪まったく、話のわからない奴だぜ≫
≪それは私のセリフですよ≫
≪アハハ、二人とも話のわからない奴だよ~≫
≪≪ お前にだけは言われたくない!! ≫≫
黄色のスラりん先輩は呑気そうに見えて意外に腹黒い所がありますからね~。
他の先輩達もあののんびりした口調に騙されないように常に気を付けています。
≪ちっ、しょうが無いこのままじゃ話し合いが終わらない。
だからここは主殿に誰が良いか決めてもらおうぜ≫
「えっ、俺?」
のんびり話し合いを聞いていた主様にいきなり重大な役目を任せます。
≪まぁそれが良いでしょう。
主殿が決めたのなら、だれも文句言わないでしょうしね≫
≪そうだね~。
誰も恨まないから~、主殿スパって決めて、決めて~≫
「えっ、いや、そう言われても……」
恨まないと言われると逆に怖いです。
主様が助けを求めるようにおらに視線を向けてきますが、それに気付かない振りをして、おらは顔を逸らします。
主様おらは普通のゴブリンですよ、そんな大役荷が重すぎます。
視線を合わせないおらに、助けが来ないとあきらめたのか主様は溜息を吐きだしてからスラりん先輩達に話しだします。
「あ~、まぁなんだ、俺の元いた世界ではリーダーは大抵赤い奴が務めてい――」
≪よし!!
それならリーダーは赤い体の俺で決まりだな!≫
≪馬鹿を言いなさい。
主殿は大抵って言ったぞ、だからまだお前がリーダーと決まったわけじゃないんだ≫
≪そうだよ~。
いくら主殿の元いた世界で~、赤い奴がリーダーを務めていたからと言って~、そんな早合点する人はリーダーにはなれないよ~~。
それで~、主殿まだ話の続きがあるんでしょ~?≫
早合点して喜んだ赤色のスラりん先輩を他の先輩達が止めます。
嬉しそうに体をプルプルさせていたのに、二人からそう言われて今は小さく縮まって反省しています。
「あぁ、さっき言ったリーダーになる奴なんだけど大体5人組の場合、赤い奴がリーダーを務めることが多いんだ。
まぁ最近では結構人数もバラバラで変わってきているし、リーダーの色も違う場合もあるけどね。
だからもう少しかん―――」
多分主様はそう説明し、決められないからもう少し考えさせてと言おうとした。
だが、その言葉を今度は扉を勢い良く開けて入って来た人物により中断させられる。
「話は全て聞いてたの!!」
メーサさんが満面の笑みでそう宣言する。
はっきり言ってその笑顔におらは嫌な予感しかしない。
「5人いればいいんでしょマしゅター?
なら、メーサとゴンラを入れれば大丈夫なの!」
いつの間にかおらも五人組の一人に組み込まれてる!!
「いや、別に人数の問題では……」
「マしゅターは何も心配しなくていいの!
メーサ最近暇だったから、この子達とチームを組んで活躍して見せるの!
もちろんリーダーはメーサだよ!!
いっぱいいっぱい活躍するから、ちゃんと見ててねマしゅター!」
どうやらメーサさんはスラりん先輩達の喧嘩を止めるためではなく、暇つぶしを兼ねて活躍する姿を主様に見てもらうためにリーダーになるようだ。
さすがにメーサさんのあまりの横暴な行為にスラりん先輩達も反対するのでは?と期待したのだが……、
≪蛇のお嬢がリーダーか……、まぁお嬢なら熱い魂を秘めているからいいか≫
≪冷静に敵を仕留めますからね。私も構いませんよ≫
≪ボクもいいの~、蛇のお嬢はいつも楽しそうだからボクも楽しくなるの~≫
どうやら反対意見は無いようだ。
こうしてなんだか勢いで、おらたちは5人チームを組んで今度来る侵入者を撃退することになった。
メーサさんのあまりのテンションの高さに主殿も止めることができず、最後の方には「五人組って何かチーム名があればカッコイイと思うぞ?」と遠い目をしながら助言をしていたぐらいだ。
そしてそれから数時間後、都合よく待っていた侵入者がダンジョンに入ってきた。
「来たの!
みんな準備はいい?」
≪おう!≫
≪えぇ≫
≪大丈夫~≫
「……へいきです」
メーサさんもスラりん先輩達も元気一杯だ。
そんな四人に比べておらはかなりテンションが低いです。
だがそんなおらの低いテンションなど気にせず、四人は元気よく拳を上げる。
(もちろんスラりん先輩達は手が無いので、体をいつものように震わせるだけなのだが)
「それじゃみんな頑張っていくの!
ウワバミンジャー、ファイオー!!!」
≪≪≪ オー ≫≫≫
「……オー」
こうして突如結成したウワバミンジャーは侵入者を迎え撃つことになる。
オマケ 1
黒が色がついたスラりん達のステータスを確認する
「色が付いたって、それ進化したんじゃないのか?」
黒はそう思いステータスを確認してみる。
だがステータスには進化よりも、驚きの情報が載っていた。
スライム(赤):情熱の色、誰も熱い闘志を消すことはできない。
スライム(青):冷静な色、沈静冷着だが内には誰よりも熱い魂をもっている。
スライム(黄):元気な色、幸せはいつもあなたのすぐそばに…。
進化はしていなかった。
だがステータスは少し変わっていた。
「スライム…、いやこの場合はスラりんだからか?
まだまだ不思議なことは一杯あるんだな」
ステータスを見て感心しながら、スラりん達の問題をどう解決しようか悩み始めるのであった。
オマケ 2
ゴンラがメーサさんとダンジョンを進んでいる最中の会話
「そういえばメーサさん、「話は全て聞いていたぞ!」って言って入ってきましたけど、なんで話を聞いてたんですか?」
そんなコソコソ話を聞くような真似をせずに、部屋に入ってきて一緒に聞いていればよかったのに。
「えっとね。
実はメーサ部屋にいるのゴンラ達じゃなくて、ムースだと思ってたの」
最近マしゅターのお世話をするため、ムースが常にそばにいるからそう思っていたのだ。
「だからね、こっそり様子を窺って、ムースがマしゅターに甘えようとした一番いいタイミングで邪魔しようと思ってたの」
ものすごくいい笑顔で、ものすごく邪な事を言う。
「だって最近ムースが露骨にマしゅターに甘え過ぎなんだもん。
メーサだってマしゅターにたっぷり甘えたいのに、「マスターは疲れているんです」って言って会わせてくれないんだよ。
絶対あれはマしゅターを独占したいだけなんだもん。
だからムースの邪魔をして困らせてやろうとしたの。
ついでにマしゅターとベタベタして嫉妬させようとも考えてたの」
なんて言うか、恐ろしい子。
子供のような外見で、無邪気に見えるけどかなり腹黒い気がする。
思わずおらが一歩下がってしまうと、その背中が誰かにぶつかる。
「知りませんでしたよ、あなたがそんな事を考えていたなんて、これは一度教育した方がいいのでしょうか?」
後ろを振り向かなくてもその声で誰だかわかる。
って言うかおらはその声のあまりの冷たさに後ろを振り向けないです。
「人の話を盗み聞きなの?
まったくこれだらメイドさんは困るの」
「あなたが盗み聞きについて言えるのですか?
それに私はたまたま耳に入っただけで、盗み聞きをしていたつもりはありません」
ムースさんとメーサさん互いに鋭い目つきで相手を睨みつける。
どうでもいいですけど、おらを間に挟んで睨み合いをするのは止めて下さい。
関係ないのにおらが殺気だけで今にも倒れそうです。
「最近マしゅターを二人っきりになり過ぎなの。
もうマしゅター元気そうだったから、これからはメーサもマしゅターに甘えるの」
「これだからお子様は困るのです。
マスターは心の優しいお方、だからあなたに心配をかけないように無理して元気な振りをしていたのがわからないのですか?
まだまだ私がマスターには必要なのです。
…………そうそばに私がずっといるぐらいが丁度いいくらい」
「その考えは重すぎなの。
あなたこそ気付いてないの?
その重苦しい気持ちがマしゅターから元気を奪ってるって」
あっ、やばい。
なんだか狂信者を見たときと同じぐらい、いやそれ以上の危機感を感じます。
早くここから逃げなければ。
そう思うのですが、二人の間に挟まれているせいで逃げだすこともできない。
その後、血を見ることさえなかったが二人の言い争いに関係ないおらは、何もしていないのにかなり疲弊してしまいました。
あのとき二人の声が聞こえて主様が顔を見せなかったら、おら心労で倒れていたかもしれません。
助かりました、ありがとうございます主様。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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閑話なのにまだ続きます。
次話もスラりん達とゴンラの活躍をお楽しみください。
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