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幕間 神々の様子 地獄で二人の神は愛を育む

残酷な描写があります。

注意してください。

 「いいさ~、良い調子さ~。

 きっついと思うけど、その調子でもっと頑張ってみるさ~。

 な~に大丈夫さ~。

 ちゃんと終わりはあるから、一つ一つゆっくりでいいから着実に進んでいけばいいだけなのさ~」

 

 作務衣を着て、錆びた鈍い赤色をした髪を無造作に縛った目つきの鋭い男が、口元だけ笑みを浮かべ、目の前にいる男に励ましの声をかける。

 

 「まぁ、君の場合は終わりが見えているって言っても、終わるまであと少なくても数千年はかかると思うんだけどさ~、うひゃひゃひゃひゃひゃ」

 

 それはもう楽しそうに男に応援と見せかけた絶望に落とす事実をかけ続ける。

 声をかけられている男は、その声を聞いて身じろぎをして何か訴えようとするが、その体は鎖で雁字搦めに縛られ、一切の身動きができないようになっている。

 しかも男に縛っている鎖は普通の鎖では無く、一つ一つの鎖に棘が生えており、男が少しでも身動きすれば、その棘が体を傷つけるようになっている。

 実際男はすでに身動きをしたのだろう。

 その体にはいくつもの傷ができており、そこから血が流れている。

 痛みにずっと続く苦痛、耳に届く真っ暗な未来に顔を絶望一色に染め、助けを乞うように目の前にいる長髪の男に視線を送るが、男はそんな視線を受けてもまったく動じず、変わらない笑みを口元に浮かべたまま男の様子を見続ける。

 

 「な~に、そんな俺を喜ばせるような表情で見てくるさ~?

 ダメさね~。君には俺に助けを求めるような視線を送る暇なんてないさ~。

 ほ~ら、彼等は元気いっぱいだよ。

 それじゃあ、俺に視線を送っているため後頭部ががら空きになっている所に、思いっきり一発いってみるさ~」

 

 男の言葉に鎖に繋がれた男が慌てて背後に立った人物の方に視線を向けようとしたが、その前に背後に立った男が手に持った鈍器を振り切る方が早かった。

 鈍器は鉄でできており、その先端にはコブの様な刺が何本も付いている。

 そんな鈍器を何の躊躇もためらいも無く、勢いよく男の頭に殴りつける。

 

 グシャ

 

 鈍器が頭に当たった瞬間、頭蓋骨は粉砕され、脳味噌が辺り一面に派手に散らばる。

 

 「ナイススイング!!

 いや~、本当にもったいないさ~。

 生きてさえいれば、君は本当にいい腕の木こりなんかの職業になれたかもしれないのに、本当に残念さ~。

 っと、ここで残念がってもいられないさ~。

 さぁもう元に戻るから、夢叶わなかった鬱憤はここで晴らしていくために、次も気合入れて振って行くさ~。」

 

 男の言葉通り、吹き飛んだはずの脳味噌恥骸骨の破片は、地面でブルブルと震えたと思ったらまるでビデオの巻き戻りを見ているかのように、男の所に急速に集まり始め、元の形に戻っていく。

 そして数秒後には何事も無かったかのように無傷の男が戻っていた。

 男は戻った後一体何が起きたのか分からなかったのだろう、数度瞬機や首を振ったりして記憶を呼び戻す、そして自分に何が起こったのか思い出した瞬間、男が何かを叫ぼうとするが、その前にまた同じように鈍器が振るわれ、再び頭蓋骨が粉砕し脳味噌が辺りに飛び散る。

 

 「うん、本当にいい腕さ~。

 その調子でどんどん振っていくさ~」

 

 鈍器を持った人物はそんな言葉に返事することなく、ただ執ように男の頭が元に戻るたびに、何度も何度も鈍器を振るい砕け散らしていく。

 

 

 

 

 

 その行為を楽しそうに見ていた男は、顔を男に向けたまま背後から近づいてくる神物に声をかける。

 

 「どんなもんさ~」

 「……いい感じ、……だと思いますよ。

 ……なかなか良い、……絶望感が出ています。

 でも……、まだ少しぬるい……かしら?」

 「そうさ~?

 まぁこれはまだ初っ端だから仕方ないさ~。

 本番って言うか、まだまだ後が控えているからこれから熱くなってくると思うさ~」

 「そう……、なら楽しみに待ってるわ」

 「おう、楽しみに待っているといいさ~」

 

 目の下にひどい隈があるが、それでもそれで彼女の美が陰るようなことのないほど蒼色の髪の美女はそう言って、男の横に腰をおろし並んで目の前の鎖に繋がれて男を観察する。

 

 「さて愛する妻が見てる事だし、一丁気合入れていくとするさ~」

 

 男はそう言うと指をパッチンと鳴らす。

 その音で鈍器を振るっていた人物の動きがピタリと止まる。

 それを見てさらに男がさらに指をパチンと鳴らす。

 すると今度は鈍器を持った人物のそばに新たに三人の人物が現れる。

 その三人の手にはそれぞれ竹でできノコギリ、真っ赤に熱した鉄の棒、そして腕の太さぐらいある2メートルほどの杭と木槌がそれぞれ握られていた。

 男は三人がそれぞれ手に持っている物を見ると満足そうにうなずき、パッチンと三回目になる指を鳴らした。

 それで止まっていた動きが全て動き出す。

 

 背後に立った人物が鈍器で頭蓋骨が砕く。

 元に戻ったら今度はゆっくりゆっくりと時間をかけながら斬れない竹のノコギリで首を轢いていく。

 なかなか刃が進まない上に、傷口を無駄に痛みつけられるせいで男が悲鳴を上げるが、そんな悲鳴が聞こえないかのように淡々と斬れない竹のノコギリを動かして首を切断する。

 首が落ちてその首も同じように元に戻ったら、今度は熱した鉄の棒を持った人物がその鉄の棒を次々に体中に押し当てる。

 当てられた箇所の肉は焼き焦げ、人肉が焼ける嫌な臭いがあたり一面に漂う。

 痛みに絶叫を上げるが、その口にも熱した棒突きいれられ、声にならない絶叫を上げることになる。

 熱した棒が冷め、男の傷口が元に戻ると最後に肛門に杭を突き入れられ、そこから木槌で延々と体の中に打ち込まれていく。

 杭の先端が男の口から出てきてまるで串刺しになったかのような状態になる。

 串刺しになった後、最後に杭の末尾を力いっぱい叩く事で、一気に杭は貫き男の体を出ていく。

 そしてその傷がまた元に戻ると、頭を鈍器で粉砕される。

 このローテンションが続いていく。

 

 「……いいの、……悲鳴聞かなくて?」

 「聞かなくていいさ~。

 女性があげる悲鳴なら聞いていたかも知れないけさ~、男があげる悲鳴を楽しみながら聞く趣味なんか俺にはないさ~」

 

 目の前で何度も悲鳴を上げているだろう男の声は、一切二人には届いていない。

 わざわざ悲鳴が聞こえない術を行使している理由を聞いた女性は、男の答えにあきれてしまう。

 

「それに、そいつがあげる悲鳴を聞く必要があるのは俺の方じゃないさ~。

 本当に悲鳴を聞く必要があるのは、彼に罰を与えている彼らの方さ~」

 

 そう言った男、拷問の神カオウェンは寂しそうな顔で延々と凶器を振り続ける人物達を見る。

 

 「…………狂信者となったナティコス。

 ……そんな彼に殺された人達、……その魂」

 「そう無慈悲に未来を奪われた人達の魂さ~。

 って言っても、ここにある魂はほんの一部さ~。

 まぁでもその一部が、最も暗く冷たく酷く澱んでいたから、輪廻すらできない状態だったのさ~」

 

 

 

 ライフでは一部の例外を除いて、死んだ者の魂は輪廻の輪に加わり、新しい命となってまたライフに帰ることになっている。

 だが魂があまりにも穢れていた場合は、輪廻でライフに帰った際まともな人格を形成できず、酷い最悪を生み出すことになる。

 狂信者ナティコスに殺された人々の多くの魂は、突然理不尽に殺された恨みと憎しみで穢れきっていた。

 そんな魂を救済し魂を綺麗にするため、拷問の神カオウェンはあるそんな魂にこの行為をさせているのだ。

 

 「死を与えられたのなら、死を持って償わなければいけないさ~。

 まぁナティコス君の罪状を考えたら、一回殺しただけじゃ足りないから何度も何度も死んでもらうことになるさ~」

 

 殺された者達の恨みで穢れた魂を綺麗にすため、ナティコスは何度も何度も殺されることになる。

 

 「……復讐は、……さらなる悲劇を生む。

 ……そう嘆きの神のグリーフが言っていたけど?」

 「それは生きてる者達の理屈さ~。

 死んでしまったモノには悲劇を生みだすことすらできないさ~。

 死んだものからしてみれば、これは正当な権利なのさ~」

 

 死にたくない。

 痛い。

 助けて。

 哀願し、助けを求めるがそれは無視され殺される。

 そのたびにあげられる絶叫が、魂にこびりついた穢れを晴らしていく。

 そんな姿を見て女性は納得する。

 

 「……なるほどね。

 ……確かにそれは正しい権利だわ」

 

 

 

 

 

 それからしばらく二人が男の様子を見ていたら、不意に思い出したかのように女性が顔をしかめながら先程あったことを報告する。

 

 「…………そういえば、さっきあの神が、……こちらに来ようとしていましたよ」

 「チッ、あいつが来たのさ~」

 

 名前を出さなくても、今この状況で話に出てくる神は一人しかいない。

 

 「それでどうしたさ~?」

 「……正直私も直接会いたくなかったの。

 ……だから私の部下に相手させましたわ。

 そしたら、……一言だけ伝言を貰ったそうです。

 

 『私の加護を悪用した者です。私に気兼ねすることなく罰を与えて下さい』

 

 ……だそうです」

 「あの問題児が。

 何が悪用しただ。そうなる奴を選んで加護を与えたんだろうによ!」

 

 語尾が無くなるほど口調が悪くなってしまう。

 こうなると予想できたのに加護を与え、加護を与えた者が死ぬと、まるで自分には罪が無いかのように切り捨てる。

 

 「……みんなそれぐらい、……わかっているのですよ。

 ……でも加護を与えるのは各神の自由。

 ……そこで罪を明確に立証できない以上、……あの神に責任を追及できないのです」

 「まったく、本当にいまいましいさ~。

 もしあいつに拷問できるなら、俺は喜んで知りうる限りの残忍な拷問をしてやるのにさ~」

 「……それは私も同感です。

 ……今まで溜めに溜まった鬱憤全てぶつけて、……あの神に絶望とはどんなものか骨の髄に、精神の奥底まで教えてあげますのに」

 

 絶望の神ディスペアはそう言って、あやしく目を光らせ薄く笑う。

 

 二人がそんな話を続けている間にも、ナティコスの死は何回も訪れる。

 

 「…………あら?

 ……あともう少しで1万回目になるかしら?」

 

 ディスペアの言葉に、絶望に染まっていたナティコスの瞳にわずかな希望の色が浮かぶ。

 もしかしたら、一万回過ぎればこの苦しみが終わるのではないか。

 何千回と繰り返してきた地獄があと少しで終わるかもしれない。

 そう思うと希望が生まれてくる。

 

 

 

 だが、そんな生まれたばかりの僅かな希望を、ディスペアは笑顔で踏みにじる。

 

 「……そろそろ次の殺された方々の魂の準備をしないといけないですね。

 ……まだまだ沢山の魂が待っていますよ。

 ……希望を持てるうちはまだまだ足りませんわ。

 ……もっと苦しんで、打ちひしがれて、血反吐吐くような絶叫を上げて、殺した方々に報いて下さい」

 

 わすかに浮かんでいたナティコスの希望が砕け散る。

 瞳に浮かんでいた光が消えていくのを見て、本当に嬉しそうにディスペアは笑う。

 

 「…………もしかしてもう終わるなんて思ったかしら。

 ……本当にあなたは愚かね。

 あなたの罪が、……この程度の罰で終わるはずないでしょう?

 ……まだまだあなたが殺した魂がたくさんあるから、……あと何千何万回何億回ともっともっと、…………地獄を体感しなさい」

 

 希望の芽を完全に磨り潰す。

 

 希望が無い事を知り、ナティコスは今まで上げていた絶叫など及ばぬほどの絶叫を上げるが、そんな絶叫は決して二人の神の耳に届く事は無い。

 

 「君は本当に希望を潰すことが上手いさ~」

 「……前の旦那がアレだったからでしょうね。

 ……私、希望の気配に敏感なのよ」

 

 ディスペアはカオウェンと結婚する前、一度別の神と結婚していた経歴を持つ。

 前の夫は希望の神ソティラス。

 相反する感情を司る二人だが、新婚当初はかなり仲が良かった。

 だがソティラスが希望を与えた者をディスペアが絶望させる行動に我慢できなくなり、二人は離婚することになった。

 別れた後、愛が失われた絶望に一時的だが喜んでいたディスペアだが、それも長く続かず、一人で寂しくなっていた所をカオウェンに慰められ、二人はそれをきっかけに付き合いだすようになり結婚までいたった。

 

 「夫の前で、前の旦那の話は止めて欲しいさ~」

 「……あら?……嫉妬してくれるの?」

 「当り前さ~。

 誰だって愛する妻が他の男の話をするのは嫌さ~。

 それが君の前の夫ならなおさらさ~」

 「……自分は拷問のために、相手の女性を寝取る行為も普通にするくせに?」

 「それとこれとは話が別さ~。

 寝取るのも中々いい拷問になるから、そこは目をつぶって欲しいのさ~」

 

 冷や汗をかきながらそう弁明するカオウェン。

 そんな彼に冷たい視線を向けるが、やがて大きく溜息を吐きだす。

 

 「…………まぁいいわ。

 ……あなたはいい具合に絶望に追い込んでくれもの。

 あなたみたいに、いい具合にそんな絶望状態に出来る神って他にいないものね」

 「俺は自分の仕事を真面目にしているだけさ~。

 でもその事で君が喜んでくれる嬉しいさ~。

 だからこれからも頑張るよ。

 君のためにもね」

 「……えぇ、期待しているわ」

 

 拷問と絶望を与えながら朗らかに二人は会話をする。

 神々にとってこんな姿は日常茶飯事なのである。


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