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 「起きろ!」


 声と共に頬に感じる痛みで俺は目を開ける。

 目を開け周りを見渡すとそこは薄暗い部屋で、俺の目の前には知らない男が一人立っていた。


 「ここは……」


 目を覚ますまでの記憶がなぜか曖昧でよく思い出せない。


 なぜ俺はこんな所にいる?

 そしてどうして俺は椅子に縛り付けられているんだ。


 「早速だがお前には質問がある。

 お前はそれに素直に答えろ」

 「いや、ちょっと待ってくれ。

 ここはどこだ?

 それに俺の仲間は?」


 男は事情説明する事無く一方的に俺にそう言ってきたが、それに俺は納得できず逆に男に尋ね返す。

 どうしてここにいるのか?

 仲間はどこにいるのか?

 なぜ俺は縛られているのか?

 聞きたいことは山ほどあるのだ。


 だが男は俺の質問には答えず、逆に質問してきた俺を冷たく見下ろすと一言だけ口を開く。


 「やれ」


 そう言われた瞬間、俺の指が一本喰い千切られた。

 指を失った痛みで俺は絶叫を上げてしまう。

 だがその声を聞いた男がさらに指示を出し、指をもう一本喰い千切られた。

 再び襲ってくる激痛。

 だが俺はその痛みを歯を食い縛り声を上げるのを耐える。


 「一度だけ忠告をしておく、俺の許可なく口を開くな。

 許可なく口を開けばお前の体を削っていく」


 脅しなどでは無く、男はやるといったら間違いなくするのだろう。

 痛みで涙があふれる瞳で俺は指を喰い千切った存在を見る。

 そこにいたのは口を動かして指を咀嚼する鰐の頭を持った魔物。

 そしてその魔物を見たときに思い出す。


 仲間が蜘蛛と鰐の魔物に次々に殺されていった事を。

 恐怖に怯えて仲間を見捨てて逃げた事を。

 逃げられず蜘蛛と鰐に殺されそうになった事を。

 あの時の事を俺は全て思い出した。






 鰐の魔物を見た瞬間あの時のことを思い出して、俺の体は恐怖に震えてしまい失禁してしまう。

 それほどの恐怖が体に染み付いてしまっていた。


 そんな俺の姿を見ても目の前に立つ男は表情を変えず口を開く。


 「最初に約束をしておこう。

 正直に質問に答えたなら、命だけは助けてやる」


 死にたくはない。

 だから嘘はつかない、そう伝えるために俺は何度も頷く。

 俺のその態度に嘘をつく気が無いと判断したのか、男が質問を開始する。


 「お前らは他のダンジョンにも攻略に挑んだ事があるのか?」

 「あぁ…、こ、こことは別のダンジョンを…一つだけ」


 恐怖のせいで口がうまく動かず、つっかえながらも何とか質問に答えていく。


 「そのダンジョンはどこにある?」

 「ここから…、北に5日ほど行った炭坑跡地付近だ…」

 「そのダンジョンを大きさは?」

 「炭坑跡とくっついていて正確な広さはわからないがかなり広い…と思う」


 攻略に挑んだが、炭坑跡と同化していたため正確な広さはわからなかった。


 「そこにはどんな魔物がいた?」

 「ゴブリンにグレイバット、アーミーアントやコロネルアントとにかく一杯いた」


 あのダンジョンには広さと同じぐらい数多くの魔物がいた。

 だから俺も全てを知っていた訳では無い。

 俺の答えに男が視線を鰐に向ける。

 鰐はその視線を受けてためらうことなく、俺の指を今度は二本一気に喰い千切る。


 「いっ、ぐぅ…」


 声を上げそうになるのを歯を食いしばり何とか耐える。


 「言ったはずだ質問には正直に答えろ。

 一杯なんて言葉で濁すな、知ってる限りの魔物を言え。

 それとももっと削られた方が言いやすくなるか?」

 「言います、言いますからもう喰わないで下さい」

 「ならさっさと答えろ」


 喰われる恐怖から俺は覚えている限りの魔物の名前を上げていく。

 途中名前が思い出せず言い淀む事があったが、そのたびに聞こえてくる鰐の歯を鳴らす音で俺は何とか覚えている限りの名前を言いつくした。


 「なるほど結構いるな。

 それでは次の質問だ、そのダンジョンには一日どれくらいの人間が攻略に挑んでいる?」

 「個人や、チームで挑んでいるから正確にはわからないが、大体毎日100人ぐらいが攻略に挑んでるはずだ」


 別にダンジョンに潜るのに資格がいるわけではないから、誰が何人ぐらい潜っているのかはわからない。

 有名な人やチームが潜っているって情報は酒場などで自然に耳に入って来るが、それ以外の人間など死んでも誰もわからないのが現状だ。


 「そんな攻略に挑んでる奴らの中で、お前らの実力はどれぐらいだったんだ?」

 「俺等のチームは下の中ってぐらいの実力だ」


 冒険者になり立てではないが、まだ駆け出しに近いぐらいのの実力だった。

 もちろん個人の実力はまた別だ。

 リーダーを務めていたタインは中堅になろうってほどの実力だったし、俺だって駆け出しの中ではそれなりの実力のつもりだった。


 そうそのつもりのはずだったのだ…………。


 「このダンジョンの事はどれぐらいの人間が知っている?」

 「情報屋から俺達はここの事を知ったが、聞くまでは俺達はここのダンジョンの話なんて聞いたことも無かった」


 誰も知られていないからこそ挑んだのだ。

 その結果がこれだ。


 「つぎで最後の質問だ。

 お前らが前に攻略していたダンジョンだが、攻略はされそうなのか?」

 「いや…、俺達よりも実力の上の奴らが攻略に乗り出していたけど、まだかなり攻略には時間がかかると思う」

 「そうか……」


 そう言い、男は黙り何かを考え出す。

 男が黙ってしまったため、部屋の中は静寂に包まれてしまう。

 それが何よりも俺の精神を圧迫してくる。


 男は正直に答えたら命は助けてくれるって言った。

 だから、本当ならしゃべらないダンジョンの攻略の情報まで話したのだ。

 本当にこの男は助けてくれるのか?


 静寂の中、俺は心の中で必死に神に祈る。






 やがて考えがまとまったのか、男が俺に視線を向ける。


 「お前の質問に答えてくれたおかげで色々わかった。

 約束通り命だけは助けよう」


 俺はその言葉に心からの安堵の息を吐きだす。


 助かった。


 その気持ちで一杯になったせいで気付かなかった。

 背後に鰐とは違う別の魔物が控えたいた事を

 鰐が再び口を開いた事を、

 そして、男が「命だけ」と言った事を、


 俺は何も気づかず、ただ命が助かった事だけを安堵していた。








 ◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 とある冒険者視点



 「おい、何か聞こえないか?」


 情報屋から聞いたダンジョンに攻略に乗り込んだ俺達はダンジョンの奥から聞こえる音に立ち止まる。

 このダンジョンは、場所だけは情報屋も知っていたがその内部までは知られていなまだ新しいダンジョンだった。

 だから実力の低い俺達は攻略を後回しにして、少しでも情報を集めその情報を金にしようとゆっくりと中を調べながら進んでいたのだ。

 そんな時に聞こえてきた足音に皆武器を構える。

 もちろん武器は構えたが、これは防御のためだ。

 危なくなったらすぐ逃げるつもりだ。

 自慢じゃないが、逃げ脚だけはうちのチームは自身がある。


 そうして前方から聞こえてくる音に注意していると、やがて音を出している存在が薄暗い通路の先から姿を現した。


 始めそれを見た時は新しい魔物かと思った。


 両目は無く、空いた眼窩は暗い洞になっておりそこから血が次々と流れ出ている。

 片腕は肘の先から千切れ、かろうじて皮一枚でその先が繋がっており、もう片方の腕はある事はあるが所々に穴が開いており、指は全て無い。

 腹も肋骨が折れているのか、不自然にへこんだ場所があり、肋骨の一本は体から飛び出ている。

 そして足も両足とも腿の先が無くなっており、そこから血が流れ続ける。


 そんな状態でその存在は必死に腕を動かし前に進み続けている。

 芋虫みたいに遅く、蛇のように這いつくばりながら進む姿は正視出来るものでは無かった。


 「オェー」


 一緒にいた仲間の一人がその場で吐きだす。

 俺も近づいてくる存在から発する濃厚な血の臭いで吐き出したくなったが、それもできないほど体が固まっていた。


 「な、なんだよ。アレは」


 吐き出した仲間がそう聞いてくるが、誰も答える事ができない。

 はたしてアレは一体何なのか?


 その時近づいてくる存在に変化があった。

 仲間の声が聞こえてのか、動きを止めて声がした方に顔を向ける。

 そうして眼窩から血と共に涙を流しながら叫ぶ。


 「ヒャ、ひゃヒュへ……、ひゃヒュへテ……」


 舌が半分になり、歯が全て無い存在はそう叫び、俺達に助けを求める。

 その必死の叫びの声で俺達は理解する。

 目の前にいる存在は同じ人間だと。


 「回復魔法急げ!!」


 同じ人間ならこのまま見過ごすわけにもいかない。

 傷の具合からして、助かるとは思えないがそれでも何か情報を得られるかもしれない。

 仲間の一人が回復魔法をかけるが、傷が多すぎてあまり効果が無い。

 回復魔法をかけたている仲間は額に汗をかきながらも必死に回復を続ける。

 だが、仲間の努力とは裏腹に男は意識を失いつつあった。

 俺は意識を失わせないためにも男に大声で呼びかける。


 「おい、あんたしっかりしろ!

 一体何があった!

 なんでこんな姿になってるんだ!!」


 俺の声に男は身を震わせ、とぎれとぎれに返事を返す。


 「ヒャふま……、ヒャふまがい…、た……」

 「ヒャふま?なんだそれは?」

 「ウ、ウワバミ……」

 「しっかりしろ、何を言っている!」

 「ハのむ…、コろヒテ……、コろヒテくれ」


 そう言ってこの体に何処にそんな力がるのか、俺の手を強く握ってくる。

 俺は手を握ってくる男を見た後に、回復魔法をかけている仲間に視線を送る。


 「多分命は助かると思う……。

 けどそれだけ、失った体は戻らない」


 その言葉を聞き俺は強く目をつぶる。

 このまま生き延びても、それは男にとって地獄だろう。

 俺は目を開け短刀を手に取ると、静かに男の心臓に短剣を突き刺した。


 痛みは無かったはずだ。

 それは男の安らかな死に顔でわかる。


 だが俺の心には酷く嫌な苦みが残った。






 「おい、これ見てみろよ」


 男が死んでからしばらくして、心に残る苦みを消化しようと壁に背を預け休んでいると、男の持ち物を調べていた男が声を上げる。


 「こいつの持ち物すごいものが入っていたぞ」


 そう言って男が腰に下げていた鞄を開ける。

 中には珍しい薬草や茸、それに何個もの宝石、宝飾入った儀礼刀などが入っていた。

 それを目にした仲間達は次々に声を上げる。


 「マジかよ。これすっげえお宝じゃないか」

 「この宝石小さいけどそれなりの価値あるわよ」

 「儀礼刀も多分高値で売れますね」

 「薬草なんかもこれだけあればいい金になるな」


 なかなか目にしないお宝に仲間達は興奮していく。


 「この先にこんなのがあるのか~」

 「もしくはこれ以上のお宝が……」


 仲間の数人の目の色が変わっていく。

 だが男を殺した俺はそれを冷ややかな目で止める。


 「止めておけ、俺達の目的は最初から情報集めだろう。

 変な欲かいて危ない事する必要無いよ。

 それに忘れたか、このお宝を持っていた男の事を」


 俺の言葉に仲間達の顔が真っ青になる。

 宝は欲しいが、あんな目に合うのは誰だって嫌だろう。


 「男が死んだ以上、このお宝は俺達のものだ。

 それにそれなりの情報も手に入れられた。

 これ以上は欲をかかず帰ろう。」


 俺の言葉に仲間達は素直に頷き俺達はダンジョンを後にした。






 それから街に戻った俺達はダンジョンで手に入れたお宝を換金した。

 その換金の金額があまりに大金だったため、一気にダンジョンの知名度が上がっていった。

 俺はその際、お宝を持っていた男の事を話したのだが、宝に目がくらんだものたちの耳には入って行かなかった。


 莫大な財宝が眠るダンジョン『ウワバミ』。


 その名前は次第に人々に知られていく。

 だが、その裏にある恐怖と悪意をまだ人々は知らない。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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