拳での青春は古今東西世界が変わっても変わらない
「殺すな!!」
モニターを見ていた俺は、倒れた侵入者の男を殺そうとしている二人を制止させようと叫ぶ。
だが制止が少し遅かったため二人の攻撃の手は止まらず、クモの足が男の腹を貫き、ワニの牙が片方の腕を喰い千切る。
血を撒き散らしながら男は絶叫を上げる。
「ムースすぐにあいつを治療しろ!
回復薬はどれだけ使ってもいい、とにかく死なせるな!!」
「畏まりました」
俺の指示を受けすぐにムースが男のもとに向かう。
あの男は死なせる訳にはいかない。
なんとしてでも生きていてもらわないと困るのだ。
「主殿よ、なぜ止めたのじゃ」
「その通りです主殿、あともう少しでこいつを殺せたというのに」
ワニが足元で先程まで絶叫を上げていたが、今は出血多量で気を失ってしまった男を足で軽く小突く。
「そいつにはいろいろ聞きたい事があるんだ、だから雑に扱うな」
「じゃがな主殿よ、ワシとワニはどちらが最後の一人を殺せるか賭けをしておってな……」
「こいつが生きている限り勝敗がつかないのですよ」
二人はそう言いながらこっそりと男を足で小突き回し、少しずつだが体力を削って男を殺そうとしている。
「二人とも俺は殺すなって言ったよ。
いいじゃないか勝敗がつかなくて引き分けでも、二人ともすごい活躍だったんだからさ」
そこで言葉を止め、言う事を聞かない二人に先程までとは違って冷淡な声で告げる。
「……それとも二人とも負けで罰を受けるかい?」
「「 いいえ、このまま引き分けでいいです(のじゃ) 」」
二人は仲良くそう返事をした。
うん、仲良き事は素晴らしきかなだ。
たとえそれが体を恐怖で振るわせていたとしてもね。
「主も大変だな」
二人への通話が終わり、ほっとした俺にヤードがそう話しかけてきた。
ヤードはメーサに通話した時からずっと一緒にモニターで様子を見ていたのだ。
クモとワニの二人の姿を見たときもヤードは何も言わずに、ただじっとその姿を見ていた。
だが雰囲気から、何か思う事があるのだけは感じていた。
「それで主よ、あいつらは何だ?」
そして一通り終わった今だからヤードは問うてきたのだ。
その声は平坦だが、その言葉には隠しようの無い怒りが含まれていた。
ヤードは俺を守ると言い、盃を交わして心から誓ってくれた。
それなのに俺は裏でヤードに匹敵するほどの実力の存在を作っていた。
誓った相手に裏切られたと思っているのだろう。
だがそれは違う。
「先に言っておくよ、ヤード俺はお前を信頼し信用し信じている」
「ならばなぜあんな奴らを作った!!」
俺の返答にヤードは怒声とともに胸倉を掴んでくる。
「主よ、今の主の言葉はまるで信じられない。
信頼しているならば、二人を鍛える必要は無かっただろう!
信用しているならば、二人の事を内緒にしておく必要があった!
信じているならば、なぜ俺に一言だけでもいい、声を掛けてくれなかった!
なぜだ、主!
答えろ!!」
胸倉を掴み怒鳴り声をあげ必死の形相で俺に詰め寄るヤード。
だが俺にはその姿がどこか脆そうに見えてしまった。
そしてその脆さは始めてヤードとあった時からどこかで感じていたのだろう。
だから俺はヤードに内緒で二人を強くしたのだ。
「ヤード、俺はこのダンジョンに住むみんなを守りたいと思っている。
そしてそのためにはヤード、君の力が必要だ。
君が力を貸してくれなければ、みんなを守ることは無理だと思ってる。
だけどね、守りたい者の中にはヤード、君も含まれているんだよ」
力を一方的に借りるわけでは無い。
皆のために戦い傷つく君を俺は守りたいのだ。
「君は義の文字のもと弱き者の前に立ってくれる。
傷つき、血を流しながらも俺達を守ってくれる。
そんな君を守りたいと考えることは、君を傷つける行為だったかい?」
俺の問いに、ヤードはゆっくりと胸倉を掴んでいた手を離す。
「……なら一言俺に言えよ」
ポツリと小さくそう言ってくる。
確かに事前に告げていたらこんな風に怒る必要も無かったかもしれない。
だが―、
「事前に言ったら賛成してくれた?」
「……しないだろうな。
多分、変なプライドが邪魔したと思う」
俺もそう思い話さなかったのだ。
義のプライドが時にヤードを縛りつけるとわかっていたから。
それまでの会話で俺の考えや気持ちは伝わったのだろう。
ヤードが一度大きく溜息を吐く。
「は~~、知らないうちに主に余計な心配させてたみたいだな」
「余計じゃないよ。仲間の事だから当然のことだよ」
そう言って笑いかけると、ヤードも苦笑交じりの笑いを返す。
これでもう俺とヤードとの間にはわだかまりは無いだろう。
そう思っていたのが、ヤードの方はそうでは無かったようで、
「まぁ、俺も悪かったが、主お前も悪い。
今はちょうどウルサイメイド嬢ちゃんもいない事だし、これでチャラにしてやるよ」
そういうと同時にヤードが右拳で俺の頬を殴りつける。
もちろんヤードなりに手加減をしたのだろうが、それでもかなりの衝撃を受け、口の中をかなり切ってしまう。
ペッと唾を吐き出せばかなりの血が混じっている。
「痛ってな~。
お前も悪いって自覚あるなら、俺ももちろん一発殴っていいんだよな?」
「もちろんだ、こいよ」
指を上に向けクイクイと挑発してくる。
俺はお返しとばかりに全力で殴りこむ。
俺の拳をヤードは避けるそぶりなど見せず、堂々と正面から受け止める。
魔族のヤードにとっては俺の全力などたいしたことは無いのかも知らない、だが正面から受け止めた事にこそ意味があるのだ。
少しだけ赤くなった頬を撫でながら実にいい顔を浮かべるヤード。
「なかなかいい拳だったぞ」
「嘘付け。
まったくどこの青春ドラマの一場面だよ」
そう言って俺も笑みを浮かべる。
これで今度こそわだかまりは無くなった。
オマケ
ヤードとのそんなやり取りを終えた俺が生き残った男のもとに行くと、回復をしていたムースが驚き駆け寄ってくる。
「マスター、その顔はどうしたのです?」
殴られた俺の頬は真っ赤に腫れあがり、まるでリンゴが入っているかのように大きく膨らんでいる。
「いや、ちょっと転んでね」
そう言って笑ってごまかそうとしたのだが、顔が腫れていて上手く笑えない。
ムースは腫れた俺の頬に濡れた布を当て必死に冷やそうとする。
そうして頬を触れているうちに、この腫れが殴られたせいだというのに気付く。
(まぁ、うっすらとだが指の形の青あざまで付いているからバレるだろう。
どんだけ力こめて殴ったんだよヤード!)
「殴られたのですか?」
ムースが底冷えするような声で尋ねてくる。
俺はその問いには答えず、視線を逸らす。
「そうですか」
視線を逸らした俺にさらに質問をして追求すること無かった。
変わりにムースは満面の笑みを浮かべる。
無表情が常であるムースの満面の笑みなど始めてみたかもしれない。
だが今はそんな事を思っている場合では無い。
「マスターしばらくこれを当てて冷やしておいて下さい。
私はあの不届きものを始末してきますから」
満面の笑みでそう言いヤードのもとに向かおうとするムースを俺は必死に止めることになった。
その後、何とかムースを説得し納得してもらった。
だがその日からヤードの食事がみんなより少なくなったのは、決して気のせいではないだろう。
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