アクアフィッシュ
すみません殺伐とした話はたぶん次話になります
エンビ視点
「どうやらまだ攻略はされてないみたいだな」
「よかった。私達が街を出てときにはもう『サンジューシー』のチームが街を出ていたから、下手したらもう攻略されているかと思ってたよ」
「それは無いって、いくらビーフンさん率いるサンジューシーとはいえ、始めて挑むダンジョンをそう簡単に攻略できるはず無いだろう」
私達はそういいながら一塊になってダンジョンの長い通路を進んでいきます。
リーダーで戦士として前衛を務めるタイン、同じく前衛で格闘家のマーグロン、シーフでチームのムードメーカーでもあるシャンケ、女性で後衛を務める弓術師のイワンシ、そして治療士である私エンビ、以上の5人がチーム『アクアフィッシュ』のメンバー。
私達5人は神託を聞いてから数日、運よく近場に出来たダンジョンに潜って来たのだが、しばらくするとそのダンジョンに攻略のため多くの冒険者が集まるようになり、各チームでの攻略についての争いが増えてきたため、まだレベルの低い私達は早々にそのダンジョンでの攻略を諦め、まだ人にあまり知られていないダンジョンに行く事にして、また一から攻略に挑み始ることにしました。
「やっぱり何人かここを通ったようだね~」
シーフであるシャンケさんが地面に鼻を近づけて臭いを嗅ぎながらそう断言します。
「どれぐらい前かわかるか?」
「う~ん、臭いの残り香からするとまだ一日経ってないぐらいかな?
その前にも何人か通ったみたいだけど、それは街で聞いた子供達のものだと思うよ」
シャンケは人族と獣人族のクォーターであり、獣人族の血が強かったのか【臭尾追跡】という珍しいスキルを持っています。
【臭尾追跡】は残った臭いから相手を追跡することができ、記憶していた匂いなら相手の特定までできるそうです。
「子供ってあれか、英雄に憧れた悪ガキ共がこっそりダンジョンに入ったって話しか」
「そうでしょうね。
ちなみに子供達はダンジョン内で敵に合うことも無く、遠くから聞こえた魔物の鳴き声に怯えて帰ってきたそうですよ」
「はっはっはっ~、悪ガキどもにはいい薬になっただろうよ」
確かに街で子供達が掃除しているのを見て、立派だと感心していた時に周りにいた人にその話を聞いたが、しっかり掃除をしている姿を見るとしっかりと反省はしていると感じました。
「それにしても、敵も出てこないのはいいけどただ歩くだけっていうのも疲れてくるわね」
「大丈夫ですか?良ければ回復魔法をかけましょうか?」
「本当ですか。
ぜひお願いしますって言いたですけど、それは止めときましょう」
「そうだな、エンビこの先何があるか分からないから魔力はとっておいたほうがいい」
「そうそう、忘れちゃったのエンビちゃん、前のダンジョンでスリ傷だけなのにすぐに回復魔法使っちゃって、ゴブリンに斬りつけられたときに魔力が足りなくて回復できなかったの。
あの時傷はそんなひどく無かったから良かったけど、下手したら危なかったよ」
「すみません……」
傷ついた姿を見たらじっとしていられずすぐに回復魔法を使おうとするのが私の悪い癖です。
「こらこらマーグロン、そんな言い方したらエンビが可哀そうだろう」
「そうよ、実際エンビの回復魔法にはいつも私達助けられてるじゃない。
しかも回復魔法かけてもらう時あなた達男連中はいつもデレデレしてるくせに」
「デレデレなんてしてねぇよ!!」
しょんぼりしてしまった私にタインさんとイワンシさんがフォローを入れて下さいます。
そしてデレデレしていると言われたマーグロンさんが、顔を真っ赤にして否定します。
そうですよイワンシさん、マーグロンさん達は戦闘で高揚していたから顔が真っ赤になっていただけですよ。
決して私が傷口が完治した後に優しく撫でたせいじゃないんですからね。
そうこう話しながらも、決して周りへの注意を怠らず私達はダンジョンを進み続ける。
「ちょっと止まって、この先少し様子が変わってる」
先頭を歩いていたシャンケさんがそう言って皆さんを止めます。
視線を先に向ければ確かに狭い通路から広い場所に出るみたいです。
ですがそれは何かあると言う事、以前挑んでいたダンジョンも開けた場所に出ると敵が多くいる場合が多かったです。
「敵はいそうか?」
「……わからない。
複数の臭いがある事はわかるけど、それが現在もそこにいるかははっきりしない。
ただ、あそこからは大量の血の臭いがしてくるよ」
私達に緊張が走ります。
「先に入ったビーフンさん達かな……」
「おそらくはな。
ここまで一方通行だったのに、姿を見る事が無いってことは先に進んでいるか、死んでるってことだろうからな」
「どうしますかタイン?」
私としてはここで引き返すのもありだと思っています。
ですが、それは私の考えであり仲間がいくと言うなら私もついて行きます。
「進もう」
「了解!腕が鳴るぜ」
進むことを決断したタインさんの判断で、私達の陣形が少し変わります。
いつ敵が来てもいいように前衛であるタインさんとマーダインさんが先頭に立ちその後ろを援護のためシャンケさんが、怪我したときすぐに回復できる私が続き、最後尾に弓を構えたイワンシさんが並びます。
そして私達はその陣形を保ちつつゆっくりと進んでいきます。
開けた場所はそれまでの石造りの通路とはうって変わり、緑あふれる空間となっていました。
「木が邪魔だな。みんな上部にも気を配れよ」
こういう木が生い茂っている所では上部からの奇襲はよくあるので、皆心得たもので上部に気を配りながら先に進んでいきます。
ですが、しばらく周囲を警戒しながら進んでいるのですが、一向に魔物達が姿を見せる様子がありません。
「敵出てこないな」
「あぁ」
「先を攻略に挑んだビーフン達が全部倒したか?」
シャンケさんが場を盛り上げようと軽口を言いますが、それは無いと私達は思っています。
「……何かの罠だろうな」
タインの言う通りなのでしょう。
罠だとわかっていても、私達は先を目指して進みます。
そして進みながらも仲間達は木々の間に生えているお宝を目ざとく見つけていきます。
「これって結構珍しい薬草よね」
「こっちにあるキノコなんかは高級食材だぜ」
「今回はなかなか儲かりそうだな」
みなさんの鞄はこのエリアで発見した珍しい薬草や食べ物で一杯になっています。
私の鞄も皆さんと同じ大量の薬草が入っています。
これだけあれば回復魔法が使えなくなっても困ることはないでしょう。
「どうする、結構儲かったし今日はこの辺で引き返す?」
「そんな訳ないだろう。
今日はまだ敵にも会って無いんだから、まだ先に進むよね」
マーグロンさんとシャンケさんが私達にそう言います。
二人の目は先程までとは違い、暗く濁って来ている気がします。
私はそんな目を今まで何度も見てきました。
あの目は欲に取り付かれた者の目です。
これだけのものがあるのなら、この先にはもっといいものがあるのでは?
そんな欲が二人を正常な判断を失わせています。
危ない、ここは何としても止めないと。
このままでは危険だと思い二人に注意しようと口を開きかけましたが、その前にタインさんが二人を怒鳴ります。
「しっかりしないか!!
二人とも欲に溺れかけているぞ、そんな事では命を落としてしすぞ!!」
その怒鳴り声で二人はハッとした表情になります。
どうやら正常に戻ったようですね。
そうして正気を取り戻した二人はどこか気不味そうな顔で私達の方を見ます。
そんな気不味そうな顔しなくても大丈夫です。
仲間なのですから間違った方に行きそうになったなら、何としても止めて助ける。
だから気にしないで下さい。
「ここは一度街に戻った方がいいかもしれないな」
タインさんがそう判断します。
欲をかいても危ないですから、それが良いと思います
「そうだな、帰りますか」
「十分儲かったからな」
「誰も怪我しなくてよかったなーーーーーーーーーぁ!!!!!!!!」
みんなが帰る事に賛同したとき、不意にシャンケさんの体が後ろに引っ張られていきます。
「な、なんだよこれーーーー!!!」
悲鳴を上げながら体を動かし、どうにかして引っ張られるのを止めようとしていますが、まったく意味がないようでシャンケさんはダンジョンの奥に連れて行かれます。
「なんだ?一体何が起きた?」
「糸です!細い糸がシャンケさんの体に巻き付いて引っ張られています」
弓術師で目が良いイワンシさんが、私にはわからなかった引っ張られる原因を探り当てます。
「今は原因はいい。
それよりシャンケを追うぞ!」
タインさんの声で私達はシャンケさんを追って走り出します。
すでにシャンケさんの姿は見えませんが、連れ去られた方からはシャンケさんの悲鳴が聞こえてきます。
「大分離されてるぞ」
「わかっている、急ぐぞ!」
シャンケさんを追う私達は密林エリアを抜けまた、細い通路に出ました。
シーフのシャンケさんがいないから罠があるかどうかは分かりませんが、そんな心配よりも連れ去られたシャンケさんの事の方が心配です。
そしてしばらく走るとまた広い空間に出ました。
そこは先ほどとはまた違った空間。
地面はぬかるんだ泥地で、根の多い木々が生えています。
そしてそんな空間の真ん中に連れ去られたシャンケさんがいました。
絡め獲られた蝶のように、巨大なクモの巣に逆さに捕らえられています。
連れ去られる時にぶつけたのか、顔からは血を流し、体もいたるところから血が出ています。
「シャンケさん!」
その光景を見た瞬間、私は回復魔法をかけようと近づこうとしましたが、それをタインさんとマーグロンさんが止めます。
「止まれエンビ!」
「敵が隠れているぞ!」
二人は既に剣や手甲を構え戦闘態勢に入り、後ろにいるイワンシさんも無言で弓に矢をつがえています。
「おやおや、隠れているとは失礼な物言いじゃな」
そう言いながら、シャンケさんを捕らえているクモ巣をつたって姿を現したのは、上半身が女性で下半身が蜘蛛と言う魔物。
なまじ上半身が人間だけあって気色悪さが際立って感じてしまう。
「お主らがここに来る前に帰りそうじゃったのでな、こちらからお主らを招待して差し上げた訳じゃ。
まぁ、招待の仕方がいささか乱暴じゃったかもしれんがな」
クックックッと楽しそうに笑う蜘蛛の魔物。
その姿に、あいつは危険だと本能が警報を鳴らす。
「以前ヤード殿が侵入者に挨拶をしたようなのでな、ここはそれに習ってワシも挨拶をしておこうかの。
ようこそ侵入者の諸君、我が主が造りしダンジョン『ウワバミ』へ。
命乞いを悲鳴に変え、絶望に染まりながら死んでゆくのじゃ」
この日ダンジョンに挑んだ私達の最初で最後の戦いが幕を開けた。
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