戦いのことよりも、終わった後のことを考える
「それで二人は何かお願いあるの?」
頭を下げた事でクモさんの非礼を許したメーサは、もうさっきまでの怒りを流しマしゅターのお願いを達成させようと二人に尋ねる。
魔族にとって先程のようなやり取りは日常茶飯事なのでいつまでも怒っていては体が持たないのだ。
「もちろんあるのじゃ」
クモさんはそう言って指を二本立てる。
「お願い事は二つ」
「二つもお願いするの!?」
いくらマしゅターがご褒美としてお願いを聞いてくれるとは言え、少しずうずうしいと思うの。
「な~に、主様の事じゃワシ等のお願いなど軽く聞いてくれるじゃろう。
それに願い事が一つだけだとしても、ワシが一つ、ワニが一つ、計二つで問題無かろう」
「そうかもしれないけど…」
それはなんだか詭弁の様な気がするの。
「まず一つ目の願いじゃ。
今まで主殿の命で、こうやって人知れず鍛えてきた訳じゃがこうやって人型にまで変身できるようになった訳じゃ、そろそろワシ等も実践がしてみたいのじゃ」
「それは今度来た侵入者と戦いたいってこと?」
「そうじゃ」
多分そんなお願い事ならマしゅターもすぐにうなずいてくれるだろう。
「それでもう一つは?」
「もう一つはのう、ワシ等にな――、」
会話の途中でクモが不意に口を紡ぐ。
一体どうしたのかと首をかしげてクモさんの様子を窺っていると、クモさんは目を瞑り両指を僅かに動かしていたクモさんは、しばらくすると瞑っていた目を開け嬉しそうににんまりとした笑みを浮かべる。
「もう一つのお願いはまたあとで伝えよう。
今は一つ目の願いを早急にかなえてもらう必要がありそうじゃ」
「えっ、そういう事なの?」
いきなりそんな事を言い出したクモさんに戸惑ってしまう。
「来たのか」
「ああ来たぞ。
今日は大量じゃな」
だが戸惑っているのはメーサだけで、ワニさんはどうやら状況を理解しているようだ。
どういうことなのか二人に尋ねようと口を開きかけたとき、メーサにマしゅターから通話が入る。
「メーサ今大丈夫?」
「えっ、うん、今は特に問題ないの」
「良かった、忙しいと思うけど至急蛇達の所に行って戦いの用意を始めてくれ、また侵入者が来たみたいなんだ」
その言葉を聞き、メーサはハッとしクモさんの顔を見る。
クモさんもメーサの事を見ていて、目が合うと先程と同じような笑顔を浮かべる。
その笑みの意味は良くわかる。
自分等に戦わせろ!!
願いを早速叶えてもらおうとしているのだ。
「マしゅター、ちょっと待って欲しいの」
「うん?どうかしたのか」
「ワニさんとクモさんがその侵入者と戦わせて欲しいって言ってるの」
「二人が…、そうか」
そしてマしゅターはすぐに通話を二人にも繋げる。
「二人とも声は聞こえているかい?」
「聞こえております」
「ばっちり聞こえておりますよ」
「早速だが、メーサが今言ったことに間違いはないかい」
「えぇ、正確には二つのお願いの内の一つですが、ワシ等もそろそろ実際に侵入者と戦いたいと思ってたところです」
「主殿の命によって鍛えたこの体の実力を見せるいい機会ですので」
「そう…、わかった。
なら最後に一つ尋ねるよ。
大丈夫なんだな?」
「「もちろんです」」
マしゅターの問いに二人は声をそろえて返す。
その声には揺らぎなど感じられない。
「わかった。
みんな聞いてくれ作戦を変更する」
黒がダンジョン内にいる全てに一斉通話を送る。
「今回の侵入者の迎撃は第二密林エリアでマッドアリゲーターとビッグスパイダーの二人が行う。
それ以外のものは第二エリア以上に入ることを禁じる。
そしてマッドアリゲーターとビッグスパイダーの二人は第二密林エリアで侵入者を全て迎撃しろ。
手段は問わない、正面から叩き潰すも、奇襲を仕掛けるのも、罠にかけるのも全て二人の自由だ。
二人の実力を示して見せろ!!」
「「了解!!」」
二人は実にイイ笑顔で返事を返す。
「クックックッ、自由に、自由にやってよいじゃと。
主殿め、ワシ等のツボをよく心得ておるわい。
実に心躍るぞ、クックックッ」
「あぁそうだな、本当に楽しみだな」
嬉しそうに満面の笑顔でつぶやくクモさんに、言葉少なめだが同じく実に楽しそうなワニさんがそう相槌を返す。
「それで侵入者の数は?」
「足音で判断するなら全部で5人、大量じゃ」
「5人か、中途半端だな。偶数ならお前とちょうど半分ずつ分けて殺す事が出来たのだがな」
「何互いに2人ずつ殺した後、残った一人は早いもので良いじゃろう。
まぁもちろん殺すのはワシになりそうじゃがな」
「何を言っている。
戦うのは俺の巣である第二密林エリアだぞ。殺すのは俺だろう」
ワニさんの言葉にクモさんがニヤリと笑う。
「ほぉ~、ならば勝負と行くか?」
「望むところだ」
「なら負けた方は主殿のあの試練を3日続けるでどうじゃ」
「そ、それは……」
クモさんが言ったあの試練とは、クモさんとワニさんが人型になれるまで力を付けることになった主が考えた地獄のような試練の事だ。
はっきり言って再びあれをやると考えると、体が震えてきてしまう。
「うん?どうした怖気ずいたか?」
とことんクモは相手を挑発する事に掛けては天才的だ。
そう言われて引く訳にはいかないだろう。
「まさか、怖気ずくなんてはずなんて無いだろう。
俺はただ自分からあの試練を続けたいって言いだしたお前のその考えに驚いただけだよ」
暗に負けるのはお前だよと告げる。
それを聞きクモは何も言い返さずにただ笑いだす。
…………額に青筋を浮かべてだが。
「クックックッ、実に楽しみじゃな」
「本当にな」
二人はこれから来る侵入者との戦いに負けるなど一切考えず、ただ戦いが終わった後あの試練をすることになる相手の事を笑う事だけを考えていた。
そして今、ウワバミのDDMである黒が密かに鍛えていた二人の力があきらかになる。
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次話は多分殺伐とした話になると思います。




