病白な蜘蛛の巣
「えっ、一体どういうことなの?」
これまでダンジョンで何も活躍していなかったワニさんが、中途半端とは言え人型になれるようになるなんておかしいの。
マしゅターが呼ぶ前からそれだけの力があったと言う可能性もあるけど、それは先程ワニさん自身が最近人型に変身できるようになったという言葉で否定しているの。
混乱してしまうメーサの姿を見てワニさんは苦笑を洩らす。
「説明するのはいいのですが、それはクモの奴も一緒でいいですか?」
「もしかしてクモさんもワニさんみたいに人型に変われるの?」
「えぇ、私よりも奴の方が早く人型になれましたからね」
驚きの事実をまた聞かされる。
その言葉にさらに色々と聞きたいが出てきたが、今は取り敢えずワニさんの言葉通りクモさんの所に行く事にするの。
多分今の言葉からして、ここではなにもワニさんは話してくれなさそうなの。
なのでメーサ達はクモさんがいる三番目の密林エリアに向かう。
メーサ達が歩く後ろをワニさんが人型形態でついてくる。
歩くたびにその巨大な尻尾が揺れるのを見るのはなかなか迫力がある。
「なかなか便利そうなの」
「確かに便利ですね。
人型に変身すると御覧のように手が自由に使えますからね。ものを持ったりするのにかなり便利なんですよ」
確かにワニの姿では物など持てないだろう。
「でもデメリットもありましてね。この姿では泥に身を潜めて隠れるのができないんですよ。
おかげで奇襲ができませんね」
「奇襲しなくても強いと思うの」
「弱くはないですよ。
でもだからと言って馬鹿みたいに正面から攻撃する必要も無いでしょう?
安心確実に敵を仕留める、それが私の狩りの仕方ですので」
その考え方はマしゅターに似ている。
マしゅターも敵とは正面から戦おうとはしない。
削って削って確実に敵を弱らせてから倒していく。
メーサも狩りをする身だからその考えには反対はしない。
誰だって怪我するよりは、安全に倒せるほうがいいのだ。
(それにしても、さらりと自分は弱くないって言ってるの)
中途半端と言え人型に変身できるのだから弱いとは思っていないが、そこまで言い切るのだからまだメーサには隠している能力があるのかもしれない。
そうこう話しながらダンジョンを進んでいくと、目的の三番密林エリアに到着する。
「ここもワニさんが住んでいた所みたいに暑いの?」
「ここはそんなに暑くないですよ。
ただ鬱陶しいとは思いますけど」
「鬱陶しい?」
その言葉の意味はその密林エリアに足を踏み込んですぐにわかった。
「これは確かに鬱陶しいの」
視界に入るのは一面の木々と葉。
ジャジャ達が住む一番目も生い茂る木々や葉で視界が悪いが、ここはさらに悪い。
一歩踏み出すために、手で葉をどけ足で細い枝を踏み分けていかなければ前に進めないほどに木々や葉が生い茂っているのだ。
「ここの密林エリアはジャジャ達の住む密林エリアのおよそ二倍の密度を誇ってますからね」
ゴンラがそう教えてくれながら、葉を手で払い細い枝を足で折り何とか道を作って行く。
そうしてそうやって道を作りながら歩いて行くと不意に密林が途切れ開けた場所に出る。
先程まで葉のせいで緑色に染まっていた視界がいきなり白に変わる風景。
純白の様な綺麗な白では無い。
痛んだ白色。
その痛んだ白色の元は細い糸。
細い細い糸が集まり束になり形になったのが痛んだ白色の正体。
白になりきれなかった白色の糸の束の集まりが開けた場所一面を埋め尽くしていた。
そしてその白の中心にクモはいた。
鋭い八本の杭の様な足を持つ下半身と、上半身は女性の体、顔もワニさんと違い人間の顔をしておりその造りは美形と言ってもいいだろう。
だが左右に三つずつ泣き黒子のようにある紅い瞳と、その周りの痛んだ白よりも一層にいたんだ長髪の髪がその美に陰を落としている。
確かにワニさんの言った通り、クモさんも人型になっていた。
……微妙に中途半端な人型だけど。
「なんじゃゴンラにワニ、それにメーサ殿よ。ワシに何か用かい?」
クモさんはメーサ達を見ながらそう話しかけてきた。
「メーサの事しってるの?」
「当たり前じゃろう。
同じダンジョンに住む仲間じゃから知っていて当然じゃろう。
まぁメーサ殿はワシ等の事をよく知らなかったようじゃがな」
クックックッと笑いながら毒を吐いてくる。
メーサがワニさんとクモさんが人型になれる事を知らなかったのを言っているのだろう。
「……本当によく知ってるの」
「な~に、ワシ等はいまだにダンジョンに貢献できておらんからな。
色々自由にできていたおかげじゃよ」
そうは言うがそれだけではないだろう。
メーサ達が気付かないほど密かに情報を集めるなど、なかなかできる事では無い。
「そこまでよく知っているらメーサがここに来た理由も知っているんじゃないの?」
「もちろん知っておるとも。
じゃが知っているから聞かなくてもいいと言う訳では無かろう。
むしろ知っているからこそ、こうして聞いておるのじゃよ。
せっかく主殿のために頑張ろうとしているメーサ殿の気持ちをくんでやるためにの」
「そう…、気使いどうもありがとうなの。
そして――、死ぬばいいの」
メーサがここに来た理由を知っている。
しかもマしゅターのために頑張ろうと張り切ってた事も知っている。
わかった上でクモさんは聞いてきたのだ。
メーサの姿を笑うために。
何も知らかったメーサの頑張りを、無駄な努力お疲れ様と笑っているのだ。
こうも正面から堂々と喧嘩を売られたからには、買うしかないの。
接近し手刀をその顔に叩きこもうと足を踏み出した瞬間、後ろから肩を掴まれ止められてしまう。
「何?邪魔するならワニさんから殺すの」
「邪魔をする気はない。
だが不用意に近づくのはお勧めしない。
ここは奴の巣だ」
「こらこらワニよ、口を出すでないわ。
最近は暇をしていたので、久しぶりに面白いものが見れると思っておったのじゃぞ」
「クモ、主殿が怒るぞ」
その言葉に、笑みを浮かべていたクモの表情が硬くなる。
「クモ、お前が情報を拾うのは勝手だが、それだけで物事を進めようとするな。
人型に変身できるのを知っている主殿が、通話ではなく、わざわざメーサ殿をよこした意味を考えろ」
「よこした意味じゃと……」
「それがわからないうちにメーサ殿と争いを起こすと言うのであれば、俺も黙ってはおれん」
ワニさんがそう言いクモさんを睨む。
その睨みを真っ直ぐ受けたクモさんは、軽く腕を振るう。
そしてメーサに向かって頭を下げる。
「数々の非礼済まなかった」
「う~」
まだ怒りは収まらないが、まっすぐ頭を下げられた相手に攻撃などできない。
それにさっきワニさんが言っていた言葉をメーサも考えてみる。
マしゅターが何のためにメーサを二人の元に行かせたのか。
本当に欲しいのを聞くだけなのか?
本当は二人と話してして欲しかったのではないか?
メーサはダンジョンのムードメーカーみたいな存在だ。
今までダンジョン内のみんなと交流が無かったが、今後他のみんなとの交流をしていくならメーサが知っていた方が色々交流もさせやすい。
そういう意図があり、マしゅターはメーサを二人の元に行かせたのではないだろうか?
そこまで考え至ったならこのまま怒っている訳にもいかない。
「わかったの、許してあげるの。
ただし、次そんな口きいたらマしゅターが止めても容赦なくその顔を殴ってやるの」
「許していただき、ありがとうございます」
こうして二人は何とか血を見ることなく、初対面の挨拶をかわす事ができた。
そんな二人の様子を一番後ろから見ていたゴンラは、人知れず深いため息を吐き出す。
「は~~~、なんでこう毎回血を見ることになりそうなのですかね」
クモさんの時だけでなくワニさんの時もそうだった。
自分は案内だけのはずなのに、なぜこんなにも肝をつぶしそうになるのだろうとゴンラはまた深いため息を吐き出す。
「強いものが偉いと言うのはわかるんですけどね……、は~~~~」
魔族にとって強いものこそ上なのだ。
だから初対面の際、実力を見せつけるために殴り合いをすることは良くある。
だが中にはゴンラ見たいに戦いを避けたいものもいるのだ。
「は~~~、なんかまだ苦労が続く気がします」
ゴンラのダンジョン内での苦労は終わりそうもない。
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