迎撃に勤しむ者・後編
ヤード視点
「おっ、丁度いいタイミングだな」
自室から大部屋に出ると丁度ダンジョンを映したモニターには、侵入者たちが密林エリアに足を踏み入れる所だった。
「ヤード、あなたまさかお酒を飲んでいる訳ではないですよね?」
「飲む訳ないだろう。
これはただのお茶だよ、お茶」
俺は手に持っていた手瓶を持ちあげてそう答える。
酒を飲んでいいと言われたとしても、さすがに仲間の命がかかっている場面で呑気に酒を飲むほど、俺は馬鹿でも薄情でも無い。
前回の戦いの件もあり今回は侵入者に対して俺は、見学と言われたのでこうやってモニター越しに仲間の様子は見るが、何かあればいつでも駆けつけるつもりだ。
「ヤードお前の意見も聞きたいからこっちこいよ」
主がそう言って自分の隣の椅子を指す。
お言葉に甘えて座るとしますかね。
嬢ちゃんの横を通る時にものすごく睨まれたがそれは理不尽ってもんだろう。
主は嬢ちゃんにも座っていいよって言っているはずだ。
それなのに「自分はメイドですから」って言って立っているのくせに、主の横に座る奴を羨ましそうに睨むのは本当に理不尽だよ。
まぁ、嬢ちゃんの事はいい。
今はダンジョンの事の方が重要だ。
「罠には引っ掛かるようだね」
「あからさまな罠とわかっていても、やっぱり目の前に奪われた物があるんなら取り返したくなるのが心情ってもんだろうよ」
俺だって自分の愛刀を盗られたら何とかして取り返したいと思うからな。
モニターには侵入者たちが少しずつ剣に近寄って言っている。
「相変わらずスライム達はいい仕事するな」
「そうだろう。
なんたってスラりん達だもん!!」
気を逸らすために木から次々落ちてくるスライム達は見事に侵入者たちの気を引いている。
こいつら下手したらゴンラより活躍してる気がするな。
おっ、スライム達が跳ね始めたぞ。
いよいよ攻撃開始か。
事前にスライム達が跳ね始めたら一斉に攻撃するように指示だしてたからな。
スライム達の合図で木から一斉にホッピングスネーク達が飛び降り始めた。
何匹かは確実に手傷を負わせているが、ホッピングスネークだけじゃ致命傷にはならないな。
うん?
よく見れば攻撃したときに反撃され怪我したホッピングスネークをゴンラがこっそり回収して退避させてるな。
さっきは活躍してないって言ったが、見えないとこで頑張ってるんだなゴンラ。
侵入者たちは一気に剣に向かって走り出したな。
どうやら最後尾にいた魔法使いが魔法を使って足止めするつもりみたいだな。
良い判断だと思うぜ。
ただし、もう少し魔法を唱えるのが早くないといけねぇな~。
ほらお前さんの前に蛇ッ娘が姿を現すぞ。
足止めをするってことは、自分も足を止めるってことだろう?
動きを止めるのが得意な蛇ッ娘の前で、自分から足を止めるなんて自殺行為だろう。
あ~あ、もろに石化の瞳と目を合せやがった。
微弱とはいえあそこまでまっすぐ目を合わせればそりゃ動きも止まるだろう。
動きが止まった魔法使いを見て、めっちゃイイ笑顔浮かべてるな蛇ッ娘は。
そんで蛇ッ娘、お前はなんで手にスライム持ってんだ。
スライムをおー魔法使いの口に捻じ込みやがったよ。
そう言えば一度ゴンラも同じ目に合ったって言ってたな。
魔法使いは石化の瞳が解けて自由に動けるみたいだが、窒息しそうで必死にもがいてるな。
おい、蛇ッ娘!
そんなに苦しむ魔法使いを見て笑ってやるな。
見ている俺達が引いちまうだろうが。
まぁとにかく、これで一人は倒したな。
次はっと、剣を手に取った鎧の方かな。
こっちは見事に主の作戦が嵌まってるな。
目に麻痺液かけたウットカゲ、大きさから見てそろそろ進化するんじゃないか?
とにかく、視界を奪われた時点でこの鎧の運命なんて決まったようなもんだな。
シャドーウルフも張り切って喉笛に噛みついちゃって。
剣を避ける時に思いっきり肉を噛み千切ってるよ。
そんでその噛み千切った肉どうするんだ?
そうか、吐き出すのか。
そんな「カウフロッグの肉の方が100倍ましだ」って顔するなよ。
仲間傷つけられた仇を打てたと思ってそこは納得しとけ、なっ。
最後の一人はっと、
あ~、こりゃもう駄目だな。
昨日進化したジャジャが張り切りすぎたんだろうな。
俺が他の侵入者の方を見てる間に始末付けてるよ。
「ちなみにどんな風に接近したんだ?」
進化して前よりかなり大きくなったからな、近づいたらさすがに警戒されるだろう。
俺の問いに、ジャジャの方を見ていた主が苦笑しながら答える。
「どんな風にって言われても、普通に接近してた。
蛇独特の地面を擦って近づく音が急速に近づいて来たと思ったら、もうあっという間に体巻き付けられてたよ。
体が大きくなった分、動く速さもなんだか増したみたいだね」
ちなみに急激に接近して姿を見せたジャジャの姿を見たシーフは驚き口をあんぐり開けてしまっていたらしい。
可愛そうにな、最後の言葉も言えずに死んでいくとは……。
とにかく今回も無事に侵入者を撃退できたみたいだな。
「主、撃退を祝って一杯やるか?」
俺はそう言って御猪口を持って酒を飲むジェスチャーをする。
「なにを寝ぼけた事を言っているのですかあなたは。
たかがあんな雑魚みたいな侵入者を倒したくらいでいちいち祝わないで下さい。
マスターにとってこんなのは当たり前な事なんですからね」
俺の問いに対して主が答える前に、嬢ちゃんが先に止めてしまう。
相変わらず俺に対して厳しい事で……。
「それにあなたは侵入者に対して今回何もしてないでしょう。
今一番体力が余っているのですから、ゴンラの手伝いでもしてきたらどうですか」
正論だ。
だがその正論の裏に、早く主と二人っきりになりたいって心情が見え隠れしてるぞ。
まぁ実際、体力は余ってるからな。
頑張った仲間に声をかけるついでにゴンラの手伝いでもしますかね。
俺はそう考えダンジョンに向かって歩き出す。
次は俺も一働きしてやろうと言う気持ちを胸に秘めながら。
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