幕間 神々の様子 戦神も娘の前ではただの父親
「がっはっはっ!!!
見事!実に見事だ!!」
神々が住まう場所のとある一角。
酒精の神であるアルが営む酒場で、ダンジョンの様子を映した多くのモニターを見ながら、カウンターに座り片手に酒の入ったグラスを持って大笑いをする神の姿があった。
「見たかものどもよ、あの見事な殺し合いを!
両者とも互いに譲らず、意地と意地をぶつけ合った魂の振るえる戦いを!!
これぞ、これこそまさに戦いぞ!!」
上半身は裸だが、その赤銅色の肌に鋼の肉体はまさしく鍛えられていると一目でわかる肉体を持った神、戦神ウォーは実に楽しそうに酒を飲みながら、酒場にいる他の神々に向かってそう叫ぶ。
「戦とは魂と魂のぶつかりあいよ。
傷だらけになりながら剣を振るい、骨が折れながらも拳を握る。
仲間が倒れても振り返らず、常に先のみを見据え足を踏み出す。
戦を途中で逃げ出した魔族が考えたプロジェクトだったためそこまで期待はしておらんかったが、まさかここまで心躍るものになるとは、此度のプロジェクトは最高だわい。
がーはっはっはっ!!!」
そう言い、手に持っていた酒を一気に飲み干し、アルにおかわりを頼む。
「アルよ、もう一杯頼む」
「は~、ウォーさん私は酒精の神として別に酒を飲むなとは言いませんよ。
ですが、せめてもう少しは酒をしっかりと味わって飲んで下さい。
この店に置いている酒はどれも私が選び抜いた一品中の一品の美酒なのですから」
「わかっておる。ワシもちゃんと味わって飲んでおるわ。
酒も旨いし、肴も美味、そしてわしの心は今現在最高に見事に滾っておるわ、がーはっはっはっ!!!」
完全に酔っぱらったウォーの言葉にアルは溜息を一つ吐き、それから店自慢の酒をグラスに注ぎ出す。
そして、そんな機嫌が良さそうなウォーを、この酒場の常連である義侠の神ブライや詩神ウタ、花の神フラーなどの他の神々は隅に集まりヒソヒソと言葉を交わし合う。
「おい、なんであの暑苦しいおっさんが来いるんだよ。
いつもなら、可愛い天使が酌してくれる店で飲んでいるだろうあのおっさん」
「知るか。
大方いつも場所でダンジョンの様子を見てて、騒ぎすぎて五月蠅いって店から追い出されたんだろうよ」
「実際今もかなり酒が入って五月蠅いですからね」
「あのおっさん戦ってる時はかなりカッコ良いのに、酒を飲むと本当にただのうるさいおっさんになり下がるからな~」
「やっとランデとセクスの喧嘩を止めて、今度こそ静かにアル自慢の酒を飲みながらダンジョンの様子を窺えると思っていたのですが……」
つい数日前まで(神様方の感覚では数時間程度)ランデとセクスがここで激しく揉めていた。
揉めていたと言うよりも、一方的に酒に酔ったランデがセクスを殴りまくり、その拳を体中に受けながら色っぽい悲鳴を上げてセクスが喜んでいただけなのだが、それでも一応同じ神として二人を仲裁したのだった。(女性の神曰く、同じ女性として二人の姿を見ていられなかったらしい)
ちなみに二人が揉めた原因を作った元凶である悪戯の神トリクは、二人の揉める姿を大いに楽しんだのか、いつの間にか店から姿を消していた。
「おっさんここに入って来た時はかなり落ち込んでいたくせに、酒が入ってさらにダンジョンの様子を見たら途端に五月蠅くなったからな」
「まぁそれも仕方ないでしょう。
何せ、久々に面白い光景でしたからね」
モニターには現在進行形で数多くのダンジョンの様子が映っている。
数人の人間達が簡単なトラップに引っ掛かる光景。
一人の獣人が目の前に立ちふさがる数匹の魔獣をものともせず、まっすぐダンジョンを突き進んでいく光景。
同じ鎧に身を包んだ騎士達が整然と列をなし、ダンジョンを制覇していく光景。
怪我をして動けない相手に鋭い牙で止めを刺す魔物の光景。
命乞いをするDDMの首を無慈悲に刎ねる光景。
遺言を残す間もなく一瞬で燃やしつくされ、命が失われる光景。
隠されていた宝箱を発見し喜び肩を叩き合う光景。
それぞれのダンジョンで、それぞれの物語が紡がれている。
「この光景を見たせいだろうね。
結構な神が気にいった子に加護を与えているよ」
戦う姿が気にいった者に加護を、
仲間を守る姿に心打たれから加護を、
必死に治療する様の手助けとして加護を、
もっともがく様を長く見たいと加護を、
それぞれの神が、それぞれの理由で自らの力を加護として与えていく。
それはもちろん侵入する側だけではなく、ダンジョンに住む者たちにも等しく平等に。
「まぁ、今回のプロジェクトが始まるまで、戦闘系の神たちはかなり暇そうにしていたからな」
「ただ暇にしているなら良かったのですが、あの方たちは暇だと体が鈍るって言って、時間が空くたびに筋トレを始めましたからね。
暑苦しいって言ったらなかったですわ」
「あぁ……、確かにあれは暑苦しかったな」
鋼の肉体を持つ神が、炎天下の仲上半身をさらけ出し、黙々と筋トレをする。
飛び散る汗、湧き上がる熱気。
見ているだけでこちらまで暑くなってしまった。
「しかも、誰か見ているとわかるとさらに筋トレ張り切りますからね。
チラチラとこっちを見てきたと思ったら、わざわざポーズ決めて、肉体美をアピールしてきましたからね」
たしかに戦闘系の神だけあってみんな見事な体つきをしていたが、そんな体をずっと見せつけられていたら嫌にもなってくる。
「今は筋トレをするよりも、ダンジョンの方に夢中だから助かるな」
「確かにそうですね。
でも中には熱中し過ぎて喧嘩に発展することもあるそうですよ」
ダンジョンを攻略しようとする者、ダンジョンを守ろうとする魔族、それぞれに別の神が加護を与えていた場合、どちらが勝ったかで喧嘩に発展する事がある。
「それに便乗して、賭博の神ダイスは大いに楽しんでいるがな」
現在賭博の神ダイスは、ダンジョンでの攻防を賭けにして神々を大いに盛り上げている。
近じか大規模な賭けの場を設けますと言い、アクノマ商会の幹部と何やら相談していた。
「まぁ前みたいに暇すぎるよりは、こんな風に賑やかな方がいいだろうよ」
「「「「 それは、同感 」」」」
そうして神々が思い思いに好きなように酒を飲み、盛り上がっていると、
バッン!!
という激しい音と共に酒場の扉が開かれる。
「扉はもっと静かに開けて欲しいんだけどね」と店主であるアルが溜息混じりにそう漏らすが、そんな言葉誰も聞いていない、もしくは聞こえていても綺麗に流す。
酒場にいる神々は全て扉を乱暴に開けた神物に集中していた。
「ずいぶんと探しましたが、ここにいたのですか父上」
そう言った女性の口調はとても穏やかなのだが、気配が何とも禍々しい。
姿は美形揃いである神たちの中でもかなり上位に入るだけの姿をしており、立ち振る舞いも凛としていて、朱い髪と相まって気高き一輪の薔薇を連想させる。
「おっ、ど…、どうしたんだヴェル」
父上と呼ばれた神、戦神ウォーが酒場に入ってきた神物が娘である戦乙女神ヴェルであると認識すると、どもりながらもそう尋ねる。
「どうした?ですか……。
まさか、私がここに来た理由がわからないとでも?」
笑顔でヴェルがそう逆に聞き返し、一歩一歩ゆっくりとウォーに近寄っていく。
ヴェルは確かに笑顔なのだが、その笑顔の何とも作り物めいたことか。
そんな表情で近づいてくる愛娘を見て、ウォーは思わず戦略的撤退をしようとしたが、そこは腐っても戦神、何とか踏みとどまり戦神としてだけでは無く、父親としての威厳も漂わせて愛娘と真正面から相対する。
「さっぱり、わからんな。
ヴェルよ、ワシの愛しい娘よ。さぁここに来た理由を父に説明しなさい」
そこには父として威厳を纏った、威風堂々とした戦神の姿があった。
だが、そんな威風堂々としたウォーの姿を見てもヴェルの雰囲気は一向に変わることは無い。
むしろウォーの言葉を聞き、一段と激しく禍々しい気配を立ち上らせる。
「そう……、わからないんだ……」
そう小さくつぶやいたあと――、
「このバカ親父がーーーーーー!!!!!!!!」
罵倒と共に一瞬にして間合いを詰めたヴェルの右拳がウォーの頬にめり込み、そのまま勢いよく吹き飛ばす。
戦神であるウォーですら反応できないほどの速さ、そして巨体である体を吹き飛ばす見事な右ストレートであった。
勢いよく吹き飛ばされ、壁にめり込んだウォーにヴェルは、顔を真っ赤にして怒鳴り付ける。
「なんで私が加護与えた子に、「娘が加護付けた子だからワシも付けてあげる」って言って自分の加護つけてんだよ!!
おかげで私が加護与えた子たち、みんな私が過保護にされていて、父親離れができていなくて、甘やかされていると思われてるじゃん!
わかる?加護与えた子に「ぷっ、保護者同伴の戦乙女って(笑)」とか言われたんだよ。
屈辱だよ!恥だよ!!
しかも何気に私の加護よりもクソ親父の加護の方が強力だから、「戦乙女の加護って必要?」とか言われたんだぞ!!
本当に泣きたくなったんだからね!!!」
怒りのせいだろうヴェルの口調がかなり乱暴になっている。
そしてヴェルの言葉を聞いた酒場にいた他の神々は、全員ゴミを見るかのような眼でウォーを見る。
「で…、でも、せっかく可愛いヴェルちゃんが加護与えたんだから、お父さんだってヴェルちゃんの手助けしてあげたかったんだもん」
「「もん」とか可愛らしく言うな、気持ち悪い!
とにかく、私が加護を与えた子達に余計な事しないで!!
いい、わかった!」
「で、でも……」
「…………」
「……はい、わかりました」
何とか反論しようとしたが、愛娘からもゴミを見るような目つきで睨まれたせいで、ウォーは肩を落として了解する。
そこにはすでに先程までの威風堂々とした姿はなく、ただ娘に怒られてションボリする哀れな中年オヤジの姿があった。
人々が神に気にいられると与えられると思われている加護。
だが実際には神々の気分しだいなのであった。
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